日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第111号
件名

漁船第一栄光丸漁船第33幸盛丸衝突事件
二審請求者〔補佐人甲斐輝光、補佐人柿内弘一郎〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、河本和夫、西村敏和)

理事官
長浜義昭、伊東由人

受審人
A 職名:第一栄光丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第33幸盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
栄光丸・・・右舷船首部に擦過傷
幸盛丸・・・左舷中央部に破口、機関室に浸水、のち沈没

原因
栄光丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸盛丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第一栄光丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の第33幸盛丸を避けなかったことによって発生したが、第33幸盛丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月16日10時50分
 鹿児島県種子島島間(しまま)埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一栄光丸 漁船第33幸盛丸
総トン数 110トン 19トン
全長 38.30メートル 24.31メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 698キロワット  
漁船法馬力数 190  

3 事実の経過
 第一栄光丸(以下「栄光丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備した、二そう底びき網漁業に従事する主船の鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首1.7メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成12年10月14日14時30分鹿児島県志布志港を発し、同県種子島西方沖合の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直(以下「当直」という。)を、基地と漁場との往復時には、自ら又は漁ろう長及び甲板員2人一組の2組とで入直する3時間輪番制としていたが、操業及び漁場の移動中には、自らと漁ろう長が交替で入直していた。
 A受審人は、漁場に至って従船の第二栄光丸と操業を行い、翌々16日10時00分鹿児島県屋久島矢筈(やはず)埼北東方5海里沖合で操業を止め、第二栄光丸と共に種子島島間埼西方3.5海里沖合の漁場に向かった。
 10時35分A受審人は、島間埼灯台から282度(真方位、以下同じ。)8.5海里の地点で、昇橋して前直の漁ろう長と交替して当直に就き、針路を103度に定め、機関を毎分回転数343に掛けて翼角16度とし、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
 当直に就いたとき、A受審人は、周囲を一瞥して航行に支障をきたす他船はいないものと思い、見張りを十分に行わないで、その後操舵室内左舷側のレーダー後方に立ち、同室内右舷後部の無線機前で漁ろう長が無線のマイクの修理を始め、それを見ながら続航した。
 10時44分A受審人は、島間埼灯台から282度7.0海里の地点に達したとき、正船首1.0海里のところに第33幸盛丸(以下「幸盛丸」という。)を視認することができ、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、その後幸盛丸が船首から錨索を延出して船首を北北東方に向けて全く移動しない様子から錨泊中であることを認め得る状況で、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然、見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、同船を避けないで進行した。
 10時50分わずか前A受審人は、右舷船尾30度400メートルのところに同航している第二栄光丸から前方に船がいる旨の無線連絡を受け、前方を見て船首至近に迫った幸盛丸を初めて認め、自動操舵の針路設定つまみ(以下「つまみ」という。)を回して操舵し、前進翼角から後進翼角一杯としたが及ばず、10時50分島間埼灯台から282度6.0海里の地点において、栄光丸は、原針路のまま、速力が約8ノットに落ちたとき、その船首が幸盛丸の左舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、幸盛丸は、中型まき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同月15日13時50分鹿児島県山川港を発し、種子島西方沖合の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、受有している海技免状の有効期間が平成12年1月25日に満了したものの、その更新手続を行わず、海技免状を失効させたまま船長として乗り組んでいた。
 B受審人は、種子島西方沖合の漁場に至って操業を行い、同年10月16日05時20分操業を終え、翌日の操業のために錨泊して休息することとし、有限会社幸盛丸に所属している4隻の僚船はいずれも島間港沖に錨泊したものの、山川港出航時から1人で操船していて疲れており、島間港沖の錨泊地まで航行するのが面倒であったので、漁船や一般通航船舶も多い前示衝突地点付近の水深約87メートルのところに重さ170キログラムの錨を左舷船首より投入して、直径30ミリメートルの合成繊維製錨索を300メートル延出し、機関を停止して錨泊を始めた。
 その後B受審人は、乗組員に破網箇所の修理を行わせ、日出となったが錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げず、後部マストに4個と伸縮式マリンクレーンに7個と、それぞれに装備している500ワットの作業灯を点灯したまま錨泊を続けた。
 09時00分B受審人は、朝食を摂って操舵室後部で休息することとしたが、接近する他船が錨泊中の自船を避航するものと思い、錨泊当直を立てるなどして見張りを十分に行うことなく、破網箇所の修理を終えた乗組員を休息させた。
 10時44分B受審人は、船首が023度に向けて錨泊していたとき、左舷船尾80度1.0海里のところに自船に向首接近する栄光丸を認め得る状況であったが、錨泊当直を立てるなどして見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、汽笛を吹鳴するなどして注意喚起信号を行わないで、幸盛丸は、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、栄光丸は、右舷船首部に擦過傷を生じ、幸盛丸は、左舷中央部に破口を生じて機関室に浸水し、11時10分衝突地点付近において沈没し、乗組員は栄光丸に移乗した。

(主張に対する判断)
 本件は、種子島西方沖合において、漁場移動中の栄光丸と錨泊中の幸盛丸とが衝突した事件である。
 ところで、幸盛丸側補佐人が、前直者のU漁ろう長がレーダー画面上で前方4海里に幸盛丸の映像を認め、同船が前方にいることをA受審人に引き継がなかったこと及び早期に第二栄光丸船長が無線連絡により注意喚起を行わなかったことも本件発生の原因となり、更に衝突直前栄光丸が衝突を回避するための操舵や推進器翼の操作を行わなかったと主張するので、以下この点について検討する。
 1 前直者のU漁ろう長が次直者のA受審人に前方の幸盛丸のことを引き継がなかったことについて
 U漁ろう長の当廷における、「レーダー画面上で前方4海里に他船の映像を認めたが、4海里と距離が離れていて、停泊船か航行船かも分からないし、通り過ぎると思ってその船のことを引き継がなかった。」旨の供述及びA受審人の当廷における、「当直交替時、U漁ろう長から前方に他船がいることを引き継がなかった。」旨の供述により、U漁ろう長がレーダー画面上で前方4海里に幸盛丸の映像を認めていたものの、A受審人に引き継がなかったことは補佐人の主張のとおりである。
 しかしながら、A受審人が当直に就いたとき、幸盛丸は前方2.5海里のところに錨泊しており、栄光丸は、10.0ノットの速力で進行していたので衝突まで15分間あり、当直に就いた後に見張りを十分に行っていれば、同船を視認して動静監視を十分に行うことができ、衝突回避措置をとるには、距離的及び時間的に十分な余裕があったと認められることから、U漁ろう長が前方の幸盛丸のことをA受審人に引き継がなかったことは原因とするまでもない。
 2 第二栄光丸船長が早期に無線連絡による注意喚起を行わなかったことについて
 A受審人の当廷における、「第二栄光丸H船長から前方に船がいるとの無線連絡を受け、船首至近に迫った幸盛丸を認め、自動操舵のつまみを回し、後進に掛けたが、衝突した。」旨の供述及び兵頭船長の当廷における、「幸盛丸の1.5海里手前から同船を認め、A受審人も幸盛丸を認めていると思ったが、避けようとしないで異常に接近するので、無線で前方の船は大丈夫かと聞いた。」旨の供述により、A受審人は、衝突直前H船長の無線連絡による注意喚起によって初めて幸盛丸を認め、衝突を回避するための操舵及び推進器翼の操作を行ったものの、間に合わず、衝突したものである。
 たしかに、H船長が早期に無線連絡をしていれば衝突を回避することが可能であったと思われるが、見張りを十分に行うなど船舶の安全運航については、当該船舶の船長がその責任において行うべきものであり、他の船舶の船長に対して当該船舶の運航についての責任を負わせるものではないことから、たとえ早期の無線連絡による注意喚起で事故の発生を未然に防止することが可能であったとしても、そのことを行わなかったことについては、本件発生の原因とするまでもない。
 3 栄光丸が衝突直前に衝突を回避するための操舵及び推進器翼の操作を行わなかったことについて
 A受審人に対する質問調書中、「原針路で衝突した。」旨の供述記載、同人の供述調書写中、「衝突直前に幸盛丸を認めてから自動操舵のつまみを回し、前進翼角から後進翼角一杯とするまで約2秒掛かり、その後衝突するまで4ないし5秒であったと思う。」旨の記載、U漁ろう長の当廷における、「A受審人の『おーっ』と言う声を聞いて幸盛丸を初認したのは、衝突の数秒前、約30メートルの距離であった。衝突後操船をA受審人から替わったとき、栄光丸が幸盛丸から徐々に離れ、後進していたので同人が後進を掛けていたと思った。」旨の供述及びW部長の回答書写に添付のナカシマプロペラ株式会社技術部S技師提出のCPP装備船の前後進試験結果中、「CPP装置なら、翼角の変節速度は約1度/1秒程度に調整するのが一般的であり、仮に定格翼角が20度であれば、全速力前進から全速後進を発令して翼角0度に達するまでの所要時間は、約20秒と考えられる。」旨の記載、栄光丸の機関日誌抜粋写中に定針後翼角16度との記載及び翼角操作をしてから衝突まで約6秒掛かっていることにより、衝突時に翼角はまだ前進10度付近であり、前方への後進水流が発生していなかった。
 これらのことから、栄光丸が衝突直前に幸盛丸を認めてから自動操舵のつまみを回し、前進翼角16度から後進翼角一杯の操作をしたと認められるが、後進翼角になる前に衝突したものである。
 以上のことから幸盛丸側補佐人主張のいずれも採用することはできない。

(原因)
 本件衝突は、種子島島間埼西方沖合において、栄光丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の幸盛丸を避けなかったことによって発生したが、幸盛丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、種子島島間埼西方沖合において、漁場を移動するために航行中、単独で当直に当たる場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥して航行に支障をきたす他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、操舵室右舷後部の無線機前で無線のマイクの修理をしていた漁ろう長を見ていて、前路で錨泊中の幸盛丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、栄光丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、幸盛丸の左舷中央部に破口を生じさせ、浸水、沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、種子島島間埼西方沖合において、錨泊する場合、漁船や一般通航船舶も多いから、接近する他船を見落とさないよう、錨泊当直を立てるなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船が錨泊中の自船を避航するものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する栄光丸に気付かず、注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:27KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION