(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月26日05時40分
山口県角島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船竜宝丸 |
貨物船ウー ヤン グローリー |
総トン数 |
14.03トン |
2,415トン |
全長 |
17.50メートル |
94.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
316キロワット |
1,691キロワット |
3 事実の経過
竜宝丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.7メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、平成13年7月25日05時00分基地としていた山口県特牛港を発し、17時30分ごろ福岡県沖ノ島東方沖合の漁場に至って操業を行った。
翌26日03時45分A受審人は、沖ノ島灯台から086度(真方位、以下同じ。)7.2海里の地点で、操業を終えて特牛港に向け発進し、針路を085度に定め、機関を回転数毎分1,700にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
05時30分A受審人は、角島灯台から249度13.0海里の地点に達したとき、左舷船首73度2.0海里のところに、前路を右方に横切る態勢のウー ヤン グローリー(以下「ウ号」という。)を視認することができる状況であったが、シイラ漬の有無を見張るために1.5海里レンジとしていたレーダー画面を見たうえ、左舷側に波しぶきがあがっていたこともあって右方を見ただけで、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、しばらくの間は大丈夫と思い、機関を回転数毎分1,300、速力7.0ノットに減じ、船体右傾斜を修正するために機関室に降り、その後、ウ号と、その方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かなかった。
05時33分A受審人は、左右両舷燃料油タンク間の共通弁を開けて船体傾斜を修正し終えたとき、主機に少量のオイル漏れがあることを認め、入港後にボルトの増締めすることとしたものの、とりあえず機関室に留まって漏れたオイルの拭き取り作業を始め、避航の気配のないウ号に対して警告信号を行うことも、間近に接近して、行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま続航し、同作業を終えて操舵室に戻る途中、05時40分角島灯台から248度11.9海里の地点において、竜宝丸は原針路、原速力のまま、その左舷側前部にウ号の船首が、後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、日出時刻は05時23分であった。
また、ウ号は、船尾船橋型貨物船で、船長P、一等航海士Zほか9人が乗り組み、鋼板853.719トンを積載し、船首3.35メートル船尾4.35メートルの喫水をもって、同月25日18時10分大韓民国ポハン港を発し、大阪港に向かった。
翌26日04時00分ごろZ一等航海士は、角島の北西方23海里付近で昇橋し、操舵手と2人で船橋当直につき、05時00分角島灯台から281度14.2海里の地点において、針路を157度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.7ノットの速力で進行し、その後、操舵手を定時の測深や居住区の掃除のため降橋させ、単独で船橋当直にあたった。
05時30分Z一等航海士は、角島灯台から257度12.1海里の地点に達したとき、右舷船首35度2.0海里のところに前路を左方に横切る態勢の竜宝丸を視認できる状況であったが、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、船橋後方の海図室で瀬戸内海の水路調査を始め、その後、竜宝丸と、その方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かなかった。
Z一等航海士は、水路調査を続け、竜宝丸の進路を避けないまま続航し、05時39分半水路調査を終えて海図室から出たところ、右舷前方間近に迫った同船を初めて視認し、衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて左舵一杯としたが、及ばず、船首が130度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、竜宝丸は左舷側前部外板に破口を生じて魚倉に浸水したが、自力で関門港に入港し、のち修理され、ウ号は右舷船首に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、山口県角島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下するウ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る竜宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する竜宝丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県角島西方沖合において、操業を終えて基地に向け東行する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、1.5海里レンジとしたレーダー画面を見て周囲に他船がいなかったことから、しばらくの間は大丈夫と思い、船体傾斜を修正するために機関室に降り、引き続き主機に少量のオイル漏れを認めて拭き取り作業を行っていて、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するウ号に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、竜宝丸の左舷側前部外板に破口を、ウ号の右舷船首に擦過傷を、それぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。