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平成14年広審第102号
件名

旅客船古鷹プレジャーボート丸一丸衝突事件
二審請求者〔理事官横須賀勇一〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、勝又三郎、西田克史)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:古鷹船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:丸一丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
古鷹・・・左舷船首ランプドアに擦過傷
丸一丸・・・船尾部スパンカ用マストを折損

原因
丸一丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険・衝突回避措置)不遵守(主因)
古鷹・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、丸一丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の古鷹に対し、転針して新たな衝突のおそれがある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、古鷹が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aに対しては懲戒を免除する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月23日16時06分
 広島県呉港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船古鷹 プレジャーボート丸一丸
総トン数 353トン  
全長 49.90メートル 8.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 169キロワット

3 事実の経過
 古鷹は、広島県呉港中央桟橋と対岸にあたる同県安芸郡江田島町小用港間に定期就航する鋼製旅客船兼自動車航走船で、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客33人及び車両2台を乗せ、船首尾とも2.80メートルの喫水をもって、平成14年4月23日16時00分呉港呉区中央桟橋を発し、小用港に向かった。
 ところで、呉港中央桟橋と小用港間の基準経路が、同桟橋の西方に位置する卸売市場南側前面沖を東西方向に通航するものであって、同市場に水揚げのために離着桟する小型漁船と互いに進路を横切る状況であった。そして、A受審人は、乗組員3名体制の下で船橋当直要員として半年の機関員を指導しながら操舵を行わせ、自ら見張りを兼ねて操船指揮を執っていた。
 A受審人は、定刻に中央桟橋を離れると、16時02分同桟橋南西方沖にあたる、小麗女島灯台から093度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路をK2号係船浮標に向く267度に定め、出航作業を終えて昇橋した機関員を手動操舵に就かせて、機関を全速力前進にかけ11.8ノットの速力で進行した。
 ところが、16時04分少し過ぎA受審人は、呉港呉区川原石南ふ頭南東端に並航したところで、針路を小麗女島に向く275度に転じさせたころ、左舷船首47度0.8海里に丸一丸を視認することができ、同船が自船の進路を横切るも前路を無難に替わる状況であったところ、船首方に他船を見かけなかったこともあって前方には他船がいないものと思い、卸売市場に水揚げのために離着桟する小型漁船の有無を十分に確かめるなどの前方に対する見張りを十分に行わなかったので、これに気付かないまま周囲が見通せるソファーに腰掛けた姿勢で見張りを兼ねて操船のかたわら溜った書類整理を行いながら続航した。
 こうして、16時05分A受審人は、左舷船首43度830メートルに丸一丸を認め得るようになったころ、同船が右転して新たな衝突のおそれがある状況となったが、書類整理に気を取られるなどして依然として見張りが不十分でこれに気付かず、速やかに警告信号を行うこともさらに機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置もとらないまま進行中、同時06分少し前ようやく左舷船首至近に迫った同船に初めて気付き、衝突の危険を感じ急いで操縦盤に寄って機関員に代わって自ら右舵一杯とし更に機関を停止続いて後進にかけたが及ばず、16時06分小麗女島灯台から095度1,750メートルの地点において、古鷹は、その船首が310度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船首部に丸一丸の右舷船首が後方から60度の直角で衝突した。
 当時、天候は曇りで風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、丸一丸は、航海全速力回転数毎分2,600速力約22.0ノットで航走する、船体甲板上中央部に操舵室が配された船首部及び船尾部に天幕が展張され船尾部にスパンカ用マストを設けられた漁船仕様のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同23日04時30分呉港呉区川原石港船溜りを発し、愛媛県怒和島南東沖漁場に至って操業を行い、15時05分約12キログラムのめばるを獲て水揚げのため呉港卸売市場に向かった。
 ところで、B受審人は、生業として一本釣り漁の漁業免許を申請中で、いつも早朝出航して広島湾南部にあたる怒和島周辺海域で操業し、夕方4時半ごろ呉港卸売市場に漁獲物水揚げのために帰航するようにしていた。
 こうして、帰途に就いたB受審人は、音戸ノ瀬戸を過ぎるころから、早朝からの単独出漁による疲れなどから眠気を覚えるような体調であったものの、立った姿勢で操船にあたり緊張しながら同瀬戸を無事通航し、続いて呉港呉区内に入って日新製鋼南西端付近に達すると、ようやく漁場から戻ったということで安堵するようになり、また目指す卸売市場桟橋方向には他船も見あたらない状況で、16時03分小麗女島灯台から158度1.1海里の地点で、針路を017度に定め、呉港中央桟橋発小用港行きのフェリ−の進路を横切る状況で、機関を全速力前進にかけて21.0ノットの速力で手動操舵で港内を北上した。
 ところが、B受審人は、漁場から戻ったという安堵感と前路に他船を見かけなかったことから緊張状態が急に薄らぎ、前方に対する見張りを十分に行わないまま続航した。16時04分少し過ぎ右舷船首31度0.8海里のところに西行する定期旅客船の古鷹を認めることができ、その前路を横切るも無難に航過する状況であったものの、これに気付かず、北上を続けた。
 こうして、16時05分B受審人は、左舷前方近距離にK6号係船浮標を見て、小麗女島灯台から115度1,600メートルの地点に至り、針路を卸売市場桟橋に向けて030度に転じたところ、右舷船首22度830メートルに古鷹を認め得るようになり、その後同船と新たな衝突のおそれがある態勢で接近するようになったが、依然として前方に対する見張りが不十分でこれに気付かず、速やかに転舵するなり機関を使用するなりして衝突を避けるための措置をとらないまま同じ速力で進行中、同時06分少し前右舷船首至近に迫った古鷹の機関音に気付いて初めて同船を認めて左舵をとったが及ばず、その船首が010度を向きほぼ原速力の状態で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、古鷹は左舷船首ランプドアに擦過傷を生じ、丸一丸は船尾部スパンカ用マストを折損した。

(原因)
 本件衝突は、呉港内において、両船が互いに進路を横切るも無難に航過する態勢で接近中、北上する丸一丸が、見張り不十分で、右舷前方を西行する古鷹に対して右転して新たな衝突のおそれがある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、古鷹が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、漁獲物水揚げのため呉港内を北上して呉中央卸売市場桟橋に向かう場合、同卸売市場の東方に位置する中央桟橋に発着する旅客フェリー等の進路を横切る状況であったから、特に同フェリーの航行状況などを確かめるよう、前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、呉港内に入ってようやく漁場から戻ったという安堵感と前路に他船を見かけなかったこととから緊張状態が急に薄らぎ、それまでの緊張が途切れて他船の航行状況の確認などの注意力を欠き、前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、卸売市場の桟橋に向けようとして右舷前方を西行する古鷹の前路に向け右転し、同船と新たな衝突のおそれがある関係を生じさせ、さらに衝突を避けるための措置もとらないまま進行して、同船との衝突を招き、古鷹の船首ランプドアに擦過傷及び丸一丸の船尾帆柱折損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、呉港中央桟橋から対岸の江田島町小用港に向かう場合、呉中央卸売市場の前面を航行する状況であったから、同市場桟橋に水揚げのために出入りする小型漁船を見落とすことのないよう、市場に向かう漁船など前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、機関員を操舵に就かせて操船のかたわら書類整理にあたり、前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、卸売市場に向かって北上する丸一丸が左舷前方近距離で右転し、同船と新たな衝突のおそれがある関係を生じたことに気付かず、速やかに警告信号を行うこともさらに衝突を避けるための措置もとらないまま進行して、丸一丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が多年にわたり船員として職務に精励し海運の発展に寄与した功績によって平成10年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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