(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月9日05時50分
和歌山県江須埼西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船クリッパー |
貨物船マスコット |
総トン数 |
498トン |
973トン |
全長 |
75.89メートル |
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登録長 |
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65.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
クリッパー(以下「ク号」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材583トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成13年12月8日18時45分愛知県衣浦港を発し、福岡県博多港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士とによる5時間毎の輪番制とし、翌9日04時50分潮岬灯台から243度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で当直に就き、針路を292度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの東流に抗して9.7ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して進行した。
05時38分半A受審人は、江須埼灯台から206度1.6海里の地点に達し、自船より速力が遅い同航船が右舷正横1,000メートルばかりに並んだころ、右舷前方から接近する反航船との航過距離を離すつもりで、針路を287度に転じて続航した。
05時46分A受審人は、江須埼灯台から240度2.1海里の地点に達したとき、正船首方1,200メートルのところに運転不自由船の灯火を表示して漂泊中のマスコット(以下「マ号」という。)を視認できる状況であったが、転針したころ船首方に他船を認めなかったことから、前路に船はいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので、マ号の存在とその後同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、しばらく前示の反航船と同航船との距離模様などを監視し、自船の航行に支障がないことを確かめたのち、操舵室後方の海図台に赴き、予定進路沿岸付近の水路状況の確認作業を始めた。
こうして、A受審人は、マ号を避けることなく進行中、05時50分少し前背後に灯りを感じて船首方に振り向いたとき、外舷灯に照らされたマ号の船橋を至近に認め、操舵を手動に切り換え、左舵一杯としたが及ばず、05時50分江須埼灯台から251度2.6海里の地点において、ク号は、原針路原速力のまま、その船首がマ号の左舷中央部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、視界は良好であった。
また、マ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長Y(中華人民共和国国籍、以下中華人民共和国を「中国」という。)ほか11人(全員中国国籍)が乗り組み、軽焼マグネサイト1,428トンを積載し、船首3.8メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、同月2日08時ごろ(現地時間)中国大連港を発し、三重県四日市港に向かった。
Y船長は、船橋当直を自らと一等航海士及び二等航海士とによる4時間3直輪番制とし、密航者29人(全員中国国籍)が船内に隠れていることを知らないまま、朝鮮半島南岸沖合を東進したのち、瀬戸内海を経由して和歌山県沖合に至った。
一等航海士Oは、越えて同月9日04時ごろ(日本時間、以下同じ。)甲板長を伴って船橋当直に就き、和歌山県沖合を南下していたところ、主機の逆転減速機に異常が発生したので、修理のため機関を停止することとし、04時25分前示衝突地点付近で、南南西方に向首して漂泊を開始した。
漂泊を開始したとき、O一等航海士は、げん灯1対、船尾灯及び後部マスト上部に垂直に運転不自由船を示す紅灯2個を表示したほか、船橋前面の作業灯2個と同側面の外舷灯各舷3個ずつを点灯し、周囲の見張りに当たっていたところ、05時46分船首が197度に向いていたとき、左舷正横1,200メートルのところにク号の白、白、紅、緑4灯を初めて視認した。
その後O一等航海士は、ク号が衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったものの、警告信号を行うことなく、同船を見守りながら漂泊中、マ号は、同方位に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ク号は、球状船首に凹損を生じたが、のち修理され、マ号は、左舷中央部水面下外板に破口を生じて沈没した。
マ号の乗組員及び密航者は、全員ク号に救助された。また、密航者は到着した巡視船によって発見され、のちマ号四等機関士が密航者を船内に匿い四日市港に上陸させようとしたことにより、出入国管理及び難民認定法違反で刑事処分を受けた。
(原因)
本件衝突は、夜間、和歌山県江須埼西方沖合において、ク号が、見張り不十分で、運転不自由船の灯火を表示して漂泊中のマ号を避けなかったことによって発生したが、マ号が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、和歌山県江須埼西方沖合を北上する場合、運転不自由船の灯火を表示して漂泊中のマ号を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針したころ船首方に他船を認めなかったので、前路に船はいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、マ号の存在に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、ク号の球状船首に凹損を生じさせ、マ号の左舷中央部水面下外板に破口を生じて沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。