(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月14日18時32分
京都府舞鶴港
2 船舶の要目
船種船名 |
巡視艇ゆらかぜ |
プレジャーボートタカ |
総トン数 |
25トン |
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全長 |
19.60メートル |
10.84メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,338キロワット |
110キロワット |
3 事実の経過
ゆらかぜは、船首船橋型の鋼製巡視艇で、A受審人ほか3人が乗り組み、漂流船救助の目的で、船首1.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年10月14日18時18分舞鶴港第1区を発し、同港沖合へ向かった。
A受審人は、所定の灯火を表示し、船橋の中央で自ら操舵操船にあたり、航海士補を右舷前部でレーダー監視と見張りに、機関長を左舷側で機関監視に、機関士補を右舷後部で見張りにそれぞれ就け、18時28分舞鶴港戸島灯台(以下「戸島灯台」という。)から202度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、針路を016度に定め、機関を微速力前進にかけ、14.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
ところで、舞鶴港は、戸島付近を境にして西側が西港、東側が東港と通称され、西港に戸島灯台から195度1,550メートル及び215度1,720メートルの両地点を結んだ線を南側の境界として北方へ長さ約2.8海里幅約600メートルの国土交通省令の定める航路(以下「航路」という。)が設定されていた。
18時29分半わずか前A受審人は、航路の右側に入って北上し、同時30分戸島灯台から206度1,350メートルの地点に達したとき、左舷船首1度1.0海里のところに航路を南下するタカの白、緑、紅3灯を視認し、その後同船が、航路の右側を航行せず、これと航路内で行き会う態勢であったが、そのうち航路の右側に寄るものと思い、タカに航路の右側につくことを促すよう、直ちに警告信号を行うことなく続航した。
18時31分少し前A受審人は、タカが正船首方1,200メートルとなり、依然として航路の左側を南下していたので、航海士補に同船の動静監視を指示して進行したところ、その後タカの紅灯が見えなくなり、右舷を対して航過する態勢となったので、同じ針路、速力のまま続航した。
18時32分わずか前A受審人は、航海士補の報告により、右舷至近でタカが針路を右に転じたことを知り、同船を船尾方に替わそうと、直ちに機関を全速力前進としたが効なく、18時32分戸島灯台から224度530メートルの地点において、ゆらかぜは、原針路原速力のまま、その右舷中央部に、タカの右舷船首部が前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、タカは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首尾0.5メートルの等喫水をもって、同日04時00分舞鶴港の定係地アオイマリーナ(以下「マリーナ」という。)を発し、同港北方沖合約20海里の釣り場に至り、錨泊して約12時間釣りを行ったのち、帰途に就いた。
B受審人は、所定の灯火を表示し、丹後半島東岸に沿って南下したのち、航路北口から入航し、18時29分半戸島灯台から358度850メートルの地点に達したとき、針路を193度に定め、機関を半速力前進にかけ、16.2ノットの速力で、もうすぐ右舷方に見えてくるマリーナ入口の簡易標識ブイ(以下「標識灯」という。)を気に掛けながら手動操舵により進行した。
ところで、標識灯は、マリーナ沖合に6個設置され、東西方向約200メートルの間に3個の列が南北に約110メートル離れて2列の配置で、4秒1閃光で北側が赤色灯、南側が緑色灯の対となっており、北側東端に設置された地点が戸島灯台から229度1,320メートルであった。
18時30分B受審人は、戸島灯台から350度600メートルの地点に達したとき、右舷船首2度1.0海里のところに航路の右側を北上するゆらかぜの白、緑、紅3灯を視認できる状況であったが、マリーナ入口の標識灯を探すことに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
B受審人は、その後ゆらかぜと航路内において行き会う態勢で接近していることに気付かず、航路の右側を航行することなく進行し、18時31分ごろ右舷前方に標識灯の灯火を認め、マリーナ入口へ向首するころ合いを見ながら同じ針路のまま続航した。
タカは、18時32分少し前230度方向のマリーナ入口に向け徐々に右転し、右舷を対して航過する態勢であったゆらかぜに向首する針路となり、同時32分わずか前B受審人が船首至近に迫ったゆらかぜの白灯及び船影を認め、左舵一杯としたが及ばず、216度に向いたとき原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ゆらかぜは、右舷外板に擦過傷を、タカは、右舷外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が、前額部右耳挫創を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、舞鶴港の航路を航行中の両船が、同航路内において行き会う際、南下するタカが、見張り不十分で、航路の右側を航行せず、右舷を対して航過する態勢のゆらかぜの至近で、定係地に向けて右転したことによって発生したが、北上するゆらかぜが、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、舞鶴港の航路を南下する場合、北上中のゆらかぜを見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、マリーナ入口の標識灯を探すことに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路内で行き会う態勢のまま接近するゆらかぜの存在に気付かず、航路の右側を航行せずに進行して衝突を招き、自船の右舷外板に亀裂を伴う凹損を、ゆらかぜの右舷外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、また、自らが前額部右耳挫創を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、舞鶴港の航路の右側を北上中、航路内で行き会う態勢のタカを視認した場合、同船が航路の左側を南下していたのであるから、タカに航路の右側につくことを促すよう、直ちに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち航路の右側に寄るものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、タカとの衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。