(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月18日13時50分
大阪港堺泉北区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第六十五栄宝丸 |
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総トン数 |
498トン |
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全長 |
64.33メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
735キロワット |
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船種船名 |
漁船第十六宮太丸 |
漁船第十五宮太丸 |
総トン数 |
9.98トン |
9.94トン |
登録長 |
13.04メートル |
13.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
35 |
35 |
3 事実の経過
第六十五栄宝丸(以下「栄宝丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、メタノール980トンを載せ、船首3.60メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成14年3月18日13時40分大阪港堺泉北区第4区浜寺泊地の三井東圧化学桟橋を発し、姫路港に向かった。
A受審人は、係船索をかいらんしたのち、出航操船に当たり、13時45分少し過ぎ堺浜寺北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から121度(真方位、以下同じ。)1,430メートルの地点において、同灯台と堺浜寺南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)との間の浜寺航路出入口に向かうため、針路を313度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
13時47分半少し過ぎA受審人は、北防波堤灯台から113度920メートルの地点に達したとき、左舷船首40度990メートルのところに、前路を右方に横切る第十六宮太丸(以下「宮太丸」という。)と、その左舷側に右舷側を接舷した状態の第十五宮太丸(以下「僚船」という。)との2隻(以下「宮太丸外1隻」という。)を初めて視認し、その後同船が避航措置をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、そのうちに宮太丸外1隻が避けるものと思い、同船に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで西行した。
こうして、A受審人は、宮太丸外1隻の避航を期待して続航するうち、13時50分わずか前同船が至近に迫り、ようやく衝突の危険を感じ、右舵一杯を取り、機関を後進にかけたが及ばず、13時50分北防波堤灯台から090度450メートルの地点において、栄宝丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部に宮太丸外1隻の右舷船首部が前方から65度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で、風力2の西風が吹き、視界は良好であった。
また、宮太丸は、船びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか3人が乗り組み、いかなご漁の目的で、船首0.25メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日03時30分大阪港堺泉北区第4区浜寺泊地石津川河口左岸の石津漁港を発し、阪南港西方沖合の漁場に至って操業し、約1トンの漁獲を得て運搬船に積み込み、左舷側に僚船を接舷し、13時00分同漁場を発進し、帰途についた。
ところで、宮太丸外1隻は、1統の船びき網を、それぞれ半分ずつ各船体後部甲板上に積み込み、操業時には両船から同時に投網して魚群を包囲することにしており、このため、船首部を鎖により、船尾部を漁網とワイヤーロープとにより、互いに接舷した状態で航行していたが、宮太丸と僚船とが機関の回転数を同じとし、単独航行時と操縦性能がほとんど変わらないことから、宮太丸の方で操船に当たるようにしていた。
B受審人は、13時46分少し過ぎ北防波堤灯台から226度710メートルの地点において、針路を浜寺泊地に向かう063度に定め、機関を全速力前進の回転数毎分2,250にかけ、無線電話で僚船にも同回転数にするよう指示し、9.5ノットの速力で、手動操舵により進行した。
13時47分半少し過ぎB受審人は、北防波堤灯台から205度330メートルの地点に達したとき、右舷船首30度990メートルのところに、前路を左方に横切る栄宝丸を初めて視認したが、同船がそのうちに左転して浜寺航路出入口に向かうものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うことなく、一瞥しただけで、目的地の石津漁港や後部甲板の網修理作業の状況を見ながら東行した。
B受審人は、その後栄宝丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、行きあしを停止するなど、同船の進路を避けずに続航し、13時50分少し前右舷至近に栄宝丸を認め、機関を後進にかけたが間に合わず、また、僚船の船長が後部甲板に出ていて機関が前進にかかったままであったことから、宮太丸外1隻は、船首が右方に回頭して068度に向き、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、栄宝丸は左舷船首部に凹損を、宮太丸は、船首部及び左舷中央部外板に破損を、僚船は船首部に大破をそれぞれ生じ、のち栄宝丸及び宮太丸は修理されたが、僚船は修理不能で廃船され、また、僚船の船長が頭部打撲傷を負った。
(航法の適用)
本件は、港則法が適用され、国土交通省令の定める船舶交通が著しく混雑する特定港にあたる大阪港堺泉北区第4区浜寺泊地において、出航する栄宝丸と入航する宮太丸外1隻が衝突したものであるが、以下、適用される航法について検討する。
1 港則法
(1)第18条関係
宮太丸外1隻は漁船であるから雑種船には該当しない。また、両船は共に本条第2項の総トン数500トン以下の小型船に該当するので、雑種船及び小型船と雑種船及び小型船以外の船舶間の避航義務について規定した本条の適用はない。
(2)第15条関係
堺浜寺北防波堤及び同南防波堤間は、約330メートルの防波堤入口であるが、衝突地点が北防波堤灯台から090度450メートル、南防波堤灯台から053度560メートルと同入口から離れていること、及び出航する栄宝丸が全長64.33メートル、入航する宮太丸外1隻が登録長約13.04メートルであることから判断すると、防波堤の外で宮太丸外1隻が栄宝丸の出航を待つまでもない状況にあったものと認められるので、入航船と出航船間の出船優先について規定した本条を適用することは、妥当でない。
(3)第17条関係
両船は、互いに衝突の2分少し前990メートルで相手船を初めて視認し、その後も互いに視認することができる状況で接近したもので、時間的、距離的及び関係船舶の大きさ等からして、防波堤、ふとうその他の工作物の突端又は停泊船等による、両船間の見通しを妨げる条件を満足する状況ではなかったと認められる。よって、出会いがしらの衝突の危険を防止するために規定した本条を適用することは、妥当でない。
以上の外、特別法である港則法には、本件に適用する航法がないので、本件は、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律することになる。
2 予防法
両船は、互いに衝突の2分少し前990メートルで相手船を初めて視認したのち、互いに進路が交差した態勢で、一定の針路、速力で進行し、その1分後に570メートルに接近して衝突のおそれがあり、更に1分少しの時間を要して衝突した。
昼間、狭い浜寺泊地において、初認後約1分間あれば衝突のおそれの有無を判断することができ、更に1分少しの時間があれば、栄宝丸を右舷側に見る宮太丸外1隻が、同船の運動性能及び当時の船舶交通の状況等から、栄宝丸の進路を避ける動作をとることが可能である。また、栄宝丸が事実のとおり、衝突直前まで針路、速力を保持していたもので、最も近い桟橋等築造物までの距離が衝突地点においても約300メートルと余地があり、同船の大きさ等から警告信号を行い、協力動作をとることができる状況下にあった。
したがって、本件は、予防法第15条の横切り船の航法を適用して律するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、大阪港堺泉北区において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、宮太丸外1隻が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る栄宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄宝丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、大阪港堺泉北区において、入航操船に当たり、浜寺泊地に向け東行中、右舷船首方に前路を左方に横切る栄宝丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船がそのうちに左転して浜寺航路出入口に向かうものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後栄宝丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、行きあしを停止するなど、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、栄宝丸の左舷船首部に凹損を、宮太丸の船首部及び左舷中央部外板に破損を、僚船の船首部に大破をそれぞれ生じさせ、また、僚船の船長に頭部打撲傷を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、大阪港堺泉北区において、出航操船に当たり、浜寺航路出入口に向かうため西行中、左舷船首方に前路を右方に横切る宮太丸外1隻を認め、その後同船が避航措置をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近することを知った場合、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちに宮太丸外1隻が避けるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。