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平成14年横審第106号
件名

漁船音丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:音丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:プレジャーボート(船名なし)乗組員

損害
音 丸・・・左舷船首部に擦過傷
山崎号・・・右舷中央ガンネル部に亀裂等

原因
音 丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
山崎号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、音丸が、見張り不十分で、前路に漂泊するプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月22日10時35分
 神奈川県福浦漁港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船音丸 プレジャーボート(船名なし)
総トン数 4.9トン  
全長 15.12メートル 3.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 209キロワット  

3 事実の経過
 音丸は、一本釣り漁業に従事する、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年1月22日07時30分神奈川県福浦漁港を発し、同県真鶴港沖合の漁場で操業したのち、10時20分同漁港向け帰港の途についた。
 ところで、音丸は、速力を上げて航行すると船首が持ち上がり、速力が10ノットになると、操舵室中央部のいすに腰を下ろして前方を見るとき、正船首から左右両舷にそれぞれ約7度の範囲で死角が生じる状態で、この死角を補うためには、操舵室天井の開口部から顔を出したり、船首を左右に振ったりするなど見張りを十分に行う必要があった。
 A受審人は、帰港の途についてから、前示死角を補うため、操舵室内のいすの上に立ち、操舵室天井の開口部から顔を出して見張りを行いながら進行し、10時33分福浦港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から130度(真方位、以下同じ。)2,820メートルの地点に達し、針路を福浦漁港へ向く310度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵によって続航した。
 A受審人は、針路を定めたとき、正船首方620メートルに漂泊して魚釣り中のプレジャーボート(船名なし)(以下「山崎号」という。)を視認することができたが、神奈川県真鶴半島南東沖合で福浦漁港に向けて回頭した際、前方を一瞥(いちべつ)して、左舷船首方に10数隻の手漕ぎボートを認めただけだったので、正船首方に他船はいないものと思い、操舵室内のいすに腰を下ろして操船に当たり、船首を左右に振って船首方の死角を補うなど前方の見張りを十分に行わなかったので、山崎号に気付かずに進行した。
 その後、A受審人は、山崎号と衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航中、10時35分東防波堤灯台から130度2,200メートルの地点において、音丸は原針路、原速力のまま、その左舷船首が山崎号の右舷中央部に後方から65度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は、衝撃を感じて機関を中立にするとともに、船尾方で浮いているB指定海難関係人を見つけ、事後の措置に当たった。
 また、山崎号は、FRP製の手漕ぎボートで、B指定海難関係人が、神奈川県足柄下郡真鶴町のボートハウスこくぶと称する貸しボート店から借りて、1人で乗り組み、魚釣りの目的で、縦30センチメートル横40センチメートルの黄色の旗を取り付けた長さ約1メートルの竿を標識として船首に立て、喫水不詳で、同日07時00分貸しボート店前の砂浜を発し、08時ごろ真鶴半島南部の水族館沖合の釣り場に至り、漂泊して釣りを始めた。
 B指定海難関係人は、釣り場に自船を位置するための潮上りを10数回繰り返した後、前示衝突地点付近に至って船首を015度に向けて漂泊しながら、船尾方を向いて釣り竿2本で魚釣り中、10時33分右舷正横後25度620メートルに音丸が自船に向首し、その後衝突のおそれのある態勢で同船が接近しているのを視認できる状況であったが、付近を通過する通航船は自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わず、速やかにオールを漕いで音丸の進路線から外れるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま、釣りを続け、10時35分わずか前、至近に迫った音丸を再び認めたものの、どうすることもできず、海中に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、音丸は左舷船首部に擦過傷を、山崎号は右舷中央ガンネル部に亀裂等の損傷をそれぞれ生じた。

(原因)
 本件衝突は、神奈川県福浦漁港南東方沖合において、同漁港に帰港中の音丸が、見張り不十分で、前路に漂泊して魚釣り中のプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、神奈川県福浦漁港南東方沖合において、同漁港に帰港する場合、船首が浮上して前方に死角が生じる状態であったから、前路に漂泊して魚釣り中のプレジャーボート(船名なし)を見落とすことのないよう、操舵室天井の開口部から顔を出して船首方の死角を補うなど前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、真鶴半島南東沖合で同漁港に向けて回頭した際、前方を一瞥して、左舷船首方に10数隻の手漕ぎボートを認めただけだったので、正船首方に他船はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路に漂泊して魚釣り中のプレジャーボート(船名なし)に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、音丸の左舷船首部に擦過傷を、プレジャーボート(船名なし)の右舷中央ガンネル部に亀裂等の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 B指定海難関係人が、神奈川県福浦漁港南東方沖合において、漂泊して魚釣りを行う際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 


参考図





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