(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月8日21時54分
静岡県御前埼東南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二広洋丸 |
貨物船サントラスト |
総トン数 |
462トン |
2,402トン |
全長 |
56.37メートル |
92.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
1,985キロワット |
3 事実の経過
第二広洋丸(以下「広洋丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、石膏(せっこう)1,151トンを積載し、船首4.40メートル船尾4.90メートルの喫水をもって、平成14年8月8日14時30分愛知県衣浦港を発し、千葉県木更津港に向かった。
A受審人は、船橋当直を原則として単独4時間の3直制とし、出入港操船については、同人の実父が海技免状を受有し、操船経験も豊富であったところから実父に任せていた。
18時55分半A受審人は、舞阪灯台から191度(真方位、以下同じ。)6.9海里の地点に達したとき、前直の実父から船橋当直を引き継ぎ、法定灯火を点灯して東行し、21時00分御前埼灯台から260度7.8海里の地点に達したとき、針路を089度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
21時44分半A受審人は、御前埼灯台から145度1.5海里の地点に達したとき、左舷船首27.5度3.0海里のところに、駿河湾を南下するサン トラスト(以下「サ号」という。)の掲げた白、白、緑3灯を視認することができたものの、周囲の見張りを厳重に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を見落としたまま続航した。
21時47分半A受審人は、御前埼灯台から130度1.9海里の地点に達したとき、左舷船首27.5度2.0海里のところに、サ号の灯火を視認することができ、その後、同船が自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、右舷方を見張ることに気をとられていたうえ、これより先、レーダーで周囲の状況を確認したとき、自船に接近する他船を認めなかったので、付近に航行の支障となる他船はいないものと思い、依然として、左舷方から接近するサ号に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
こうして、広洋丸は、A受審人が接近するサ号に気付かないまま続航中、21時54分わずか前直進する態勢で接近するサ号のポールドの明かりを左舷船首至近に認めたが、協力動作をとることもできないまま、21時54分御前埼灯台から114度2.9海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首部がサ号の船橋前部右舷側外板に前方から59度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、月齢は28.6であった。
また、サ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Bほか12人が乗り組み、鉄屑3,398トンを積載し、船首5.62メートル船尾5.49メートルの喫水をもって、同日17時35分静岡県田子の浦港を発し、大韓民国釜山港に向かった。
サ号は、発航後、駿河湾を南下し、20時00分焼津港小川外港南防波堤灯台から089度7.2海里の地点で、昇橋したB船長が、折から船橋当直中の三等航海士を補佐につけ、法定灯火が点灯していることを確認したうえ、操船の指揮を執り、針路を210度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.1ノットの速力で、自動操舵により進行した。
21時44分半B船長は、御前埼灯台から086.5度3.5海里の地点に達したとき、右舷船首31.5度3.0海里のところに、同灯台の南東方沖合を東行中の、白、白、紅3灯を掲げた広洋丸を視認することができたものの、このことに気付かず、同船を見落としたまま続航した。
21時47分半B船長は、御前埼灯台から094度3.3海里の地点に達したとき、右舷船首31.5度2.0海里のところに、東行中の広洋丸の灯火を視認することができ、その後、同船が自船の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然、このことに気付かず、速やかに右転したり、速力を減じたりするなど広洋丸の進路を避けることなく進行中、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、広洋丸は、船首部外板及び球状船首に破口を伴う損傷を生じたが、のち修理され、サ号は、船橋前部右舷側外板に大破口を生じて浸水し、数分後に沈没した。また、サ号の乗組員5人は広洋丸により救助されたが、B船長ほか5人が死亡し、司厨長Dほか1人が行方不明となった。
(主張に対する判断)
本件衝突は、御前埼南方沖合を東行中の広洋丸と駿河湾を南下中のサ号とが衝突したものであるが、A受審人は、衝突直前から沈没に至る間、サ号のマスト灯などの法定灯火を視認していない旨を理事官に供述し、相手船が無灯火船であった旨を主張するので、以下この点について考察する。
(1)A受審人に対する質問調書中、「静岡県の新野川沖合で、レーダーを使用して周囲の状況をチェックした。それ以後はレーダー画面を見ていない。」旨の供述記載
(2)同人の当廷における、「21時に針路を定めてからは左舷方の見張りは行っていない。自分としてはレーダーを見ていたつもりだったので、ウイングに出て周囲の状況を確認をするということはしていなかった。また、本件時、晴天の暗夜で船橋内の航海計器の明かりが目立ち、周囲の状況が少し見づらくなっていたうえ、レーダーの前に立ち、真下にレーダーの画面を見下ろしながら、レーダー越しに前窓を通して前方の見張りをしていた。」旨の供述
(3)C二等航海士に対する質問調書中、「航海灯は出航前に私がスイッチを入れてパネル上で点灯の有無を確認していた。航海灯は、航海中もやはりパネル上で点灯の有無を確認していた。」旨の供述記載
(4)御前埼東南東方沖合を東行する際、御前埼灯台を航過後でなければ明確に駿河湾内の状況を見通せない点
(5)A受審人に対する質問調書中の記載から、サ号は、衝突後に左転しており、また、広洋丸は、衝突時の衝撃で船首を右方に振った状態となっていたことから、衝突後、A受審人は、サ号を船尾方から見る状況となっていた点
(6)A受審人の当廷における、「広洋丸が衝突時の衝撃で船首を右方に振り、同船が1回転してサ号を自船の前方に視認する状況となったとき、衝突前に見たサ号のポールドの明かりをはっきりと認めた。」旨の供述
(7)A受審人の当廷における、「衝突する2秒ないし3秒前にサ号のポールドからの明かりを視認し、パニック状態となった。」旨の供述
以上のことから、A受審人は、衝突直前至近にサ号のポールドからの明かりを視認し、パニック状態に陥り、サ号の点灯していた灯火を見落としていたと考えられ、また、サ号が無灯火であったという証拠もなく、同船が航海灯を点灯していたと考えるのが合理的である。
従って、両船の針路及び速力模様から、21時30分ごろA受審人は、レーダーでサ号の映像を捉えることができ、その後、同船の灯火を視認できる状況であったが、肉眼による見張りもレーダーによる見張りも厳重に行っていなかったので、左舷方から接近するサ号の灯火に気付かず、本件の発生を招いたものと判断するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、夜間、静岡県御前埼東南東方沖合において、南下するサン トラストが、前路を左方に横切る第二広洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する第二広洋丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、静岡県御前埼東南東方沖合において、東行する場合、他船の存在が十分に予測される海域であったから、南下するサン トラストを見落とすことのないよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーで周囲の状況を確認したとき、自船に接近する他船を認めなかったので、付近に航行の支障となる他船はいないものと思い、周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、左舷方から接近するサン トラストを見落とし、同船が自船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、第二広洋丸の船首部外板及び球状船首に破口を伴う損傷を、サン トラストの船橋前部右舷側外板に大破口を生じて浸水させ、数分後に沈没するに至らしめた。また、サン トラストの乗組員6人を死亡させ、同2人を行方不明となる事態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。