(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月7日06時34分
静岡県手石港港外
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船まさみ丸 |
漁船第八辰丸 |
総トン数 |
9.17トン |
1.46トン |
全長 |
14.35メートル |
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登録長 |
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6.21メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
257キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
まさみ丸は、船体後部に操舵室を設けたFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客3人を乗せ、遊漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、所定の航海灯を点灯し、平成12年12月7日06時25分静岡県手石港を発し、同県石廊埼南南東方沖合1.7海里の釣り場に向かった。
ところで、まさみ丸は、航走を開始すると徐々に船首が浮上し、操舵室から前方に死角を生じ、速力が8ノットのときには正船首から左右両舷約6度の間が船首死角となるので、A受審人は、平素船首を左右に振るなどして同死角を補う見張りを行っていた。
A受審人は、06時33分手石港港内の南西部にある弁財天と称する岩の頂部(高さ38メートル)(以下「弁財天頂部」という。)から112度(真方位、以下同じ。)270メートルの地点で、針路を180度に定め、機関を全速力前進が回転数毎分1,800のところ1,200にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
定針時にA受審人は、正船首250メートルのところに、漂泊している第八辰丸(以下「辰丸」という。)を視認することができる状況であったが、風波が高かったので小型漁船は出漁していないものと思い、船首を左右に振るなどして前方の死角を補う見張りを十分に行わずに続航した。
その後A受審人は、辰丸に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、同船を避けないまま進行中、06時34分弁財天頂部から145度440メートルの地点において、まさみ丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が、辰丸の右舷側後部に後方から61度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好で、日出時刻は06時38分であった。
また、辰丸は、船体後部に操縦台を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あじ一本釣り漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、周囲が明るくなっていたので所定の航海灯を点灯しないまま、同日06時20分静岡県小稲漁港を発し、弁財天と称する岩の南東方約400メートルの手石港港外の漁場である沖山出シ付近に向かった。
B受審人は、06時30分前示漁場に至り、機関を中立とし、船首を南西方に向けて漂泊し、船尾で左舷側に釣り竿を出して操業を始めた。
06時33分B受審人は、右舷後方250メートルのところに、自船に向けて進行するまさみ丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢のまま自船を避けずに接近していたが、一度に10尾のアジが掛かったため、操縦台前方に移動してこれらを船内に引き揚げたのち、針からアジを外すことに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、まさみ丸に気付かず、速やかにクラッチを入れて移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま、アジを外す作業を続けた。
06時34分わずか前B受審人は、まさみ丸のエンジン音に気付き、右舷後方を見たところ、至近に迫った同船を認め、とっさに大声をあげてクラッチを後進に入れたが、効なく、船首が241度に向首して漂泊したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、まさみ丸は船首部に擦過傷を生じ、また、辰丸は右舷後部外板に破口を生じ、まさみ丸に曳航され、小稲漁港に引き付けられる途中で沈没し、のち引き揚げられたが、廃船にされた。
(原因)
本件衝突は、日出間近の薄明時、静岡県手石港港外において、南下中のまさみ丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の第八辰丸を避けなかったことによって発生したが、第八辰丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日出間近の薄明時、静岡県手石港港外において、釣り場に向けて南下する場合、前路で漂泊中の第八辰丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、風波が高かったので小型漁船は出漁していないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、第八辰丸に気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、まさみ丸の船首部に擦過傷を生じさせ、第八辰丸の右舷側後部外板に破口を生じ、沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、日出間近の薄明時、静岡県手石港港外において、漂泊して操業を行う場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一度に掛かった10尾のアジを針から外すことに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、まさみ丸に気付かず、アジを外す作業を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。