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平成14年横審第54号
件名

漁船第55開運丸漁船第五清幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄、黒岩 貢、稲木秀邦)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第55開運丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:第五清幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
開運丸・・・船底外板、シューピース部及びプロペラに損傷
清幸丸・・・左舷船首外板を圧壊、回航途中浸水転覆し、のち廃船
甲板員が左肩打撲傷

原因
開運丸・・・見張り不十分、狭い水道の航法(右側通行)不遵守(主因)
清幸丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第55開運丸が、狭い水路の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、前路で停留中の第五清幸丸を避けなかったことによって発生したが、第五清幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月15日10時20分
静岡県大井川港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第55開運丸 漁船第五清幸丸
総トン数 4.9トン 2.9トン
全長 13.60メートル  
登録長   9.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 70

3 事実の経過
 第55開運丸(以下「開運丸」という。)は、機船船びき網漁業に運搬船として従事する、船体中央部船尾寄りに操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、しらす漁操業の目的で、船首0.20メートル船尾1.05メートルの喫水をもって、平成12年7月15日06時00分静岡県大井川港を発し、2隻の網船と共に同港沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、1回目の漁獲物を大井川町漁業協同組合岸壁へ水揚げした後、大井川港南防波堤灯台(以下、航路標識名については「大井川港」を省略する。)から173度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で再度網船から約60キログラムの漁獲物を積み取り、水揚げのため、10時14分同地点を発進し、針路を355度に定め、機関を半速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、手動操舵により進行した。
 ところで、大井川港は、大井川河口部左岸にある掘込式の港湾で、東方に開いた港口は、南側の陸岸から東方に延び、その先端に南防波堤灯台が設置された、全長約550メートル、平均水面上高さ5ないし6メートルの南防波堤と、北側の陸岸から東方に延びる全長約110メートルの北防波堤とによって形成され、港内には貨物船用の岸壁のほか、港奥の北側中央部には漁船用の船だまりが築造されていた。また、港口には、南防波堤沖合から港内に至る可航幅約100メートル、長さ約750メートルの狭い水路(以下「水路」という。)があり、左舷標識である第1号灯浮標及び第3号灯浮標、右舷標識である第2号灯浮標及び第4号灯浮標が水路の出入口から順にそれぞれ設置されていた。
 また、開運丸は、10ノット以上の速力で航行すると船首が浮上し、操舵席に座ったまま操船すると船首方各舷にそれぞれ6度にわたって死角を生じるので、座席の上に立ち、天窓から上半身を出すなどして前方の見張りを行う必要があった。
 10時19分A受審人は、南防波堤灯台から084度110メートルの地点に至り、南防波堤東端を左舷側に並航したとき、左舷船首80度305メートルのところに、第3号灯浮標の近くで停留する第五清幸丸(以下「清幸丸」という。)を視認できる状況となったが、右舷前方を同航する第3船に気を取られ、清幸丸に気付かないまま北上し、まもなく水路内に向けて左舵10度をとって左回頭を開始した。
 10時19分半A受審人は、南防波堤灯台から342度110メートルの水路中央部の地点に達して左回頭を終えたとき、右舷側至近に第3船を認めたので、これから離れるため、針路を水路左側端の第3号灯浮標のわずか右側に向首する245度とし、水路の右側端を航行することなく、同じ速力で、操舵席に座ったまま、操舵に当たって進行した。
 A受審人は、針路を245度としたとき、正船首180メートルに停留中の清幸丸を視認でき、その後、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、右舷側を航行する第3船に気を取られ、操舵席の天窓から上半身を出して、船首方の死角を補うなど、前方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、清幸丸を避けることなく続航中、10時20分南防波堤灯台から280度200メートルの地点において、開運丸は、同針路、原速力のまま、その船首が清幸丸の左舷前部に前方から82度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、清幸丸は機船船びき網漁業に運搬船として従事する、音響信号装置を備えたFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、しらす漁操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、平成12年7月15日06時30分大井川港を発し、2隻の網船と共に同港沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、当日2回目の漁獲物を大井川町漁業協同組合岸壁へ水揚げした後、10時06分同岸壁を発進し、沖合の漁場に向かったが、南防波堤北側を5.0ノットの速力で手動操舵により進行中、潤滑油の圧力計の針が動かなくなったことに気付き、これを修理することとし、同時18分半機関を中立とし、同時19分前示衝突地点付近において、船首を147度に向けて停留を開始した。
 停留を開始したころB受審人は、左舷船首52度305メートルのところに開運丸を認めることができたものの、圧力計の修理に気を取られてこれに気付かず、10時19分半同船が左回頭を終えて左舷船首82度180メートルとなったとき、自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然、同修理に気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、機関のクラッチを入れるなど衝突を避けるための措置をとることもなく停留中、147度を向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、開運丸は、船底外板、シューピース部及びプロペラに損傷を生じたが、のち修理され、清幸丸は、左舷船首外板を圧壊して大井川港への回航途中浸水転覆し、のち廃船処理された。また、清幸丸甲板員が全治1週間の左肩打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、静岡県大井川港において、港口の狭い水路に入航する開運丸が、水路の右側端に寄って航行しなかったばかりか、見張り不十分で、前路で停留中の清幸丸を避けなかったことによって発生したが、清幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、静岡県大井川港において、港口の狭い水路に入航する場合、船首が浮上して船首死角を生じた状態であったから、前路で停留中の清幸丸を見落とさないよう、操舵席の天窓から上半身を出して、船首方の死角を補うなど、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、右舷側を同航する第3船に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で停留中の清幸丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、開運丸の船底外板、シューピース部及びプロペラに損傷を生じさせ、清幸丸の左舷船首外板に圧壊を生じさせ、清幸丸の甲板員に全治1週間の左肩打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、静岡県大井川港において、港口の狭い水路内で停留する場合、自船に向首して接近する開運丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、潤滑油の圧力計の修理に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する開運丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく、停留を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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