(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月3日03時35分
神子元島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八福徳丸 |
貨物船フエンクアン |
総トン数 |
498トン |
1,480トン |
登録長 |
73.43メートル |
70.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
1,544キロワット |
3 事実の経過
第八福徳丸(以下「福徳丸」という。)は、鋼材輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人、B受審人ほか2人が乗り組み、鋼材1,435トンを積載し、船首2.95メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成14年7月1日11時55分大分県大分港を発し、京浜港東京区に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直体制を単独の4時間3直制とし、11時30分から15時30分まで及び23時30分から03時30分までを自らが就き、03時30分から07時30分まで及び15時30分から19時30分までをB受審人に、07時30分から11時30分まで及び19時30分から23時30分までを一等航海士にそれぞれ受け持たせていた。
翌々3日00時30分A受審人は、御前埼灯台の南南東方約15海里の地点に差しかかったころ、霧により視界が制限された状態となったが、霧中信号を行わず、また、安全な速力に減じないまま進行し、03時05分石廊埼灯台から165度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を080度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、依然として霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、自動操舵により続航した。
03時25分A受審人は、神子元島灯台から308度0.9海里の地点において、視程が約150メートルに制限された状況の下、船橋当直交替のためB受審人が昇橋してきたとき、前路に4隻の反航船と1隻の同航船のレーダー映像を探知していたが、同人に任せておけば大丈夫と思い、引き続き在橋して、これら船舶と無難に航過するまで操船の指揮をとることなく、同人に反航、同航の区別を指し示したのみで、船橋当直を交替して降橋した。
B受審人は、船橋当直を交替したとき、3海里レンジとしたレーダーで左舷船首5度2.5海里のところに反航するフエン クアン(以下「フ号」という。)の映像を初めて認めたが、いずれ同船が右転するものと思い、同船と著しく接近することとなるかどうかを判断できるよう、直ちに同映像のプロッティングを行うなどレーダーによる動静監視を十分に行わなかったばかりか、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもしないまま進行した。
03時27分B受審人は、神子元島灯台から331度0.7海里の地点に達したとき、フ号の方位が変わらず2.0海里に接近し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく、依然として同船の右転を期待し、霧中信号を行わず、右転して同船との航過距離を少し離すつもりで、自動操舵のまま針路を084度に転じて続航し、同時31分神子元島灯台から029度0.8海里の地点に至り、フ号の方位が変わらないまま1.0海里に接近したのを認め、再度自動操舵のまま、針路を088度に転じて進行した。
03時34分B受審人は、フ号のレーダー映像を左舷船首0.25海里に認めて操舵を手動に切り替え、右舵20度をとって続航中、同時35分少し前左舷船首150メートルに同船の灯火を初めて視認し、右舵一杯をとったが、及ばず、03時35分福徳丸は、神子元島灯台から058度1.3海里の地点において、140度を向首したとき、原速力のまま、その左舷後部にフ号の船首が直角に衝突した。
当時、天候は霧で、風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視程は150メートルであった。
また、フ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長R、三等航海士Gほか7人が乗り組み、鋼材1,200トンを積載し、船首3.33メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、同年7月2日18時20分京浜港東京区を発し、中華人民共和国海門港に向かった。
R船長は、船橋当直体制を自らと一等航海士及びG三等航海士による単独の4時間3直制とし、当直時間を固定せずに出港時間によりその都度決めることとし、発航後は自らが船橋当直に就き、その後G三等航海士及び一等航海士の順で入直することとしていた。
23時40分R船長は、伊豆大島の北北東方約12海里の地点で、船橋当直をG三等航海士に引き継いだが、夜間命令簿により、神子元島付近には航行船が多いので注意して航行すること、何かあれば直ちに報告せよなどの指示をしていたので大丈夫と思い、視界が制限されたときの報告すべき視程や、他船をレーダーで探知したときには、その動静監視を十分に行うことなど視界制限状態における具体的な指示を行うことなく船橋当直をG三等航海士と交替して降橋した。
翌3日03時00分G三等航海士は、神子元島灯台から052度5.9海里の地点において、針路を230度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの速力とし、自動操舵によって進行し、そのころ、霧のため視界が約400メートルに制限された状態となったのを認めたが、霧中信号を行わず、また、安全な速力に減じなかった。
03時14分G三等航海士は、神子元島灯台から053度3.7海里の地点に達したとき、6海里レンジとしたレーダーで右舷船首20度6.0海里のところに福徳丸の映像を初めて探知し、操舵を手動に切り替え、同時23分同灯台から055度2.3海里の地点に至り、同船の映像を右舷船首24度3.0海里に認めたが、同映像のプロッティングを行うなどレーダーによる動静監視を十分に行うことなく、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの安全な速力に減じて続航した。
03時27分G三等航海士は、神子元島灯台から056度2.0海里の地点に至ったとき、福徳丸が右舷船首25度2.0海里に接近し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を視認してから避航動作をとっても間に合うものと思い、依然、霧中信号を行わず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
03時31分G三等航海士は、神子元島灯台から057度1.6海里の地点に達したとき、福徳丸が右舷船首29度1.0海里に接近したが、このことに気付かないまま続航中、同時35分少し前正船首150メートルのところに福徳丸の灯火を初めて視認し、右舵一杯としたが、効なく、フ号は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福徳丸は、左舷側後部外板に破口を生じるとともに同舷側居住区を圧壊し、フ号は、船首部に損傷を生じた。また、衝突の衝撃によりB受審人が、7日間の加療を要する頸部挫傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、霧のため視界が制限された神子元島北方沖合において、東行中の福徳丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知したフ号と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、南西進中のフ号が、霧中信号を行わず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した福徳丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
福徳丸の運航が適切でなかったのは、前直の船長が、前路に複数の他船のレーダー映像を探知していた際、引き続き在橋して操船の指揮をとることなく降橋したことと、次直の船橋当直者が、視界制限時の措置が適切でなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、霧のため視界が制限された神子元島北方沖合を東行中、前路に複数の他船のレーダー映像を探知していた場合、引き続き在橋してこれら船舶と無難に航過するまで操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、次直の船橋当直者に任せておけば大丈夫と思い、引き続き在橋して操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、フ号との衝突を招き、福徳丸の左舷側後部外板に破口を生じさせるとともに同舷側居住区を圧壊させ、フ号の船首部に損傷を生じさせ、B受審人に頸部挫傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、霧のため視界が制限された神子元島北方沖合を東行中、前路にフ号のレーダー映像を探知した場合、同船と著しく接近することとなるかどうかを判断できるよう、同映像のプロッティングを行うなどレーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれフ号が右転するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行してフ号との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。