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平成14年横審第16号
件名

遊漁船福寿丸遊漁船超栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄、黒岩 貢、甲斐賢一郎)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:福寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:超栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:超栄丸甲板員

損害
福寿丸・・・左舷船尾舷縁材に亀裂等
船長が殴打され顔面打撲傷及び頸椎捻挫
超栄丸・・・損傷ない

原因
超栄丸・・・操船(接舷する際の安全対策)不適切

主文

 本件衝突は、超栄丸が、福寿丸に接舷する際、適切な安全対策を講じなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月5日06時50分
 静岡県御前埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船福寿丸 遊漁船超栄丸
総トン数 16トン 14トン
全長 19.00メートル 18.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 467キロワット 367キロワット

3 事実の経過
 福寿丸は、操舵室を船体ほぼ中央部に有するFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、遊漁を行わせる目的で、釣り客7人を乗せ、船首0.50メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成12年10月5日05時50分静岡県福田漁港を発し、沖の高松根と称する釣り場(以下「根」という。)に向かった。
 ところで、根は、御前埼灯台から277度(真方位、以下同じ。)8.0海里付近の、水深約25メートルのところにある岩盤で、その規模は、北西方向から南東方向に延びた長さ約20メートル幅約7メートルで、根周辺の水深は約32メートルとなっており、根が小さいことから、その周辺で船を流して釣りを行うには遊漁船2隻が限度であった。
 また、遊漁船は、根で釣りを行わせるにあたり、遊漁開始時刻06時30分となったら、釣りを行わせるように付近の遊漁船組合で協定しており、その方法は、船尾にスパンカを展張し、船首を風に立てて、潮流に乗って根の西方から交互に根の直上付近を通って釣りを行い、根の東方一定のところまで流されて魚が釣れなくなると釣り開始地点まで潮上りし、釣りを再開するというもので、その際、釣り糸は他の釣り客の釣り糸と絡ませないため、真下に来るよう潮流に逆らわないで流し、機関は潮上りするときなど船位を修正するときのみに使用していた。
 06時20分A受審人は、根の中心(以下「基点」という。)から270度90メートルの地点に至り、遊漁開始時刻まで停留して待ち、同時刻となったとき、船尾にスパンカを展張し、船首を風に立てて330度に向け、折からの東方へ流れる潮流に乗じて0.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で漂流を開始し、釣り客に釣りを行わせた。
 06時36分半A受審人は、基点から090度30メートルの地点に達したとき、釣り客に釣り糸を揚げさせたのち、漂流開始地点まで5.0ノットの速力で潮上りし、同時37分少し過ぎ同地点から釣りを再開し、以後、この動作を繰り返しながら遊漁を続けた。
 06時44分半A受審人は、漂流開始地点まで潮上りして釣りを再開し、同時48分基点から270度37メートルの地点に達したとき、左舷船尾72度40メートルのところに、東方に向かって遊漁中の超栄丸の船首部を視認し、同船はそのまま自船の船尾方を無難に航過して行くものと思い遊漁を続け、同時49分半根の北西端に差し掛かったとき、左舷船尾45度30メートルのところに超栄丸の船首部を視認したが、依然、同船はそのまま自船の船尾方を無難に航過して行くものと思い、その後、同船が自船の船尾方の死角に入ったことから、そのまま遊漁を続けた。
 福寿丸は、A受審人が潮流に乗じて遊漁中、06時50分御前埼灯台から277度8.0海里の地点において、船首が330度を向き、原速力のまま、突然、衝撃を受け、その左舷船尾部に、超栄丸の船首部が後方から45度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には東方へ流れる0.6ノットの潮流があった。
 また、超栄丸は、船体中央部に操舵室を有し、同室後方に受風面積が大きい客室を特別に設けた、軽合金製小型遊漁兼用船で、B受審人が父親のC指定海難関係人と2人で乗り組み、遊漁を行わせる目的で、釣り客4人を乗せ、船首0.50メートル船尾1.84メートルの喫水をもって、同日05時50分福田漁港を発し、根に向かった。
 06時25分B受審人は、基点から252度120メートルの地点に至り、遊漁開始時刻まで停留して待ち、同時刻となったとき、船尾にスパンカを展張し、船首を354度に向け、折からの東方へ流れる潮流に加え、風の影響も受けて1.0ノットの速力で、根の南西端を船首部から20メートルばかり離す進路で漂流を開始し、釣り客に釣りを行わせた。
 B受審人は、06時35分基点から134度55メートルの地点まで流されたとき、釣り客に釣り糸を揚げさせ、漂流開始地点まで10.0ノットの速力で潮上りし、再び釣りを行わせるという動作を繰り返したのち、同時46分半同地点まで潮上りし、その際、福寿丸の左舷船尾部を右舷船首68度60メートルのところに視認して釣りを再開した。
 ところで、B受審人は、平素からA受審人と遊漁客の獲得を巡って口論するなど互いに不仲の間柄であったうえ、前々から遊漁中、同人に自船の前路を塞がれるなど幾度か遊漁の邪魔をされたことがあり、本件時も同人が常に自船の前方に位置するように操船して釣りをするので、なかなか根の直上付近を流すことができず、同人の遊漁方法に対する不満が非常に高まった状態となっていた。
 06時48分B受審人は、基点から239度70メートルの地点に達したとき、右舷船首52度40メートルのところに、福寿丸の左舷船尾部を視認し、その態勢のまま流すと自船の船首部から福寿丸の船尾部までの船間距離を20メートルばかりに保つことができる状況であったものの、同時49分半基点から203度40メートルの地点に達したとき、右舷船首28度38メートルのところに、根の北西端に差し掛かった福寿丸が東方へ流れる潮流を抑制しながら根に沿って南東進しているように見えたので、また前路を塞がれるのかとA受審人の遊漁方法に腹立ちを覚えて逆上し、自ら福寿丸に乗り移り、A受審人に対して抗議するため同船に接舷することとした。
 B受審人は、洋上での他船への接舷作業にあたっては、釣り客を危険に陥れ、互いの船舶に損傷などを生じさせることのないよう、釣り客を安全な場所に退避させたうえ、両船とも十分な防舷材を準備し、相手船に対して小角度で接近し、接舷する直前に前進行きあしを完全に停止するなどの安全対策を講じる必要があったが、A受審人に対する不満が高じて興奮状態であったうえ、同人に前もって接舷する旨を伝えれば邪魔をされるものとの考えもあったことから、事前に適切な安全対策を講じることなく福寿丸に接舷することにした。
 こうして、06時50分少し前B受審人は、右舷船首22度30メートルのところに、福寿丸の左舷船尾部を認める状況となったとき、同船に対して事前に何の警告も発しないまま、機関を極微速力前進にかけ、船首を福寿丸の左舷船尾部に向く015度に定めて発進し、接舷態勢に入ったとき、興奮していて減速することを失念していたことから、2.5ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突後、B受審人は、福寿丸に乗り移ろうと操舵室から一歩足を踏み出したとき、機関を前進にかけたままであることに気付き、急いで同室内に入って機関を停止したのち、船首部から同船に乗り移り、このことに気付いたC指定海難関係人もすぐに同船に乗り移った。
 衝突の結果、超栄丸は、損傷がなかったが、福寿丸は、左舷船尾舷縁材に亀裂などの損傷を生じた。また、A受審人は、自船に乗り込んだB受審人とC指定海難関係人に殴打され、顔面打撲傷及び頸椎捻挫などを負った。

(原因)
 本件衝突は、静岡県御前埼西方沖合の沖の高松根と称する釣り場において、遊漁中の超栄丸が、遊漁中の福寿丸に接舷する際、事前に適切な安全対策を講じなかったことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は、静岡県御前埼西方沖合の沖の高松根と称する釣り場において遊漁中、同業者であるA受審人の遊漁方法について抗議しようと接舷する場合、洋上での接舷は危険を伴う作業であったから、釣り客を危険に陥れ、互いの船舶に損傷などを生じさせることのないよう、事前に適切な安全対策を講じておくべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素からA受審人とは遊漁客の獲得を巡って口論するなど互いに不仲の間柄であり、A受審人に前もって接舷する旨を伝えれば接舷の邪魔をされるものとの考えもあったことから、事前に適切な安全対策を講じておかなかった職務上の過失により、機関を極微速力前進にかけ、福寿丸の左舷船尾部に向け進行して同船との衝突を招き、福寿丸の左舷船尾舷縁材に亀裂などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図(1)

参考図(2)





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