(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月2日02時00分
青森県大畑港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十六清宝丸 |
総トン数 |
19.44トン |
全長 |
22.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第五十六清宝丸(以下「清宝丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、いか釣り漁の目的で、船首0.9メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年11月1日04時20分青森県大畑港を発し、北海道静内郡静内町南方沖合約6海里の漁場に向かった。
A受審人は、10月中は苫小牧港を基地とし、原則日帰りで昼間の操業を続けていたが、同月31日朝方から夕方までの操業でいか300箱を漁獲し、価格の良い大畑港で水揚げすることし、11月1日02時00分同港に入港して水揚げの後出港したものであった。
A受審人は、出港操船の後、05時頃甲板員に当直を任せ、約3時間の休息を取っただけで再び当直につき、12時30分漁場に至って操業を行い、500箱を得るという大漁で、その整理に総員で夕方までかかったので疲労が蓄積され、又十分な睡眠がとれない状況であった。
A受審人は、発航にあたり、大漁のため2人の乗組員が疲労しているのを考慮し、今後の基地と決めた大畑港まで7時間余りの当直を自分1人で行うこととした。
18時40分A受審人は、静内灯台から197度(真方位、以下同じ。)6.6海里の地点を発し、GPSに入力してある大畑港の防波堤入り口付近のポイントに向かった。
A受審人は、津軽海峡の強い海流の影響で船体動揺も大きく、また、しばしば船位が偏位するのでその調整等でかなり緊張した状態で手動操舵によって当直を続け、翌2日01時05分大畑港第1東防波堤灯台から047度10.1海里の地点に達したとき、針路を226度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、津軽海峡の主流域を抜けて船体動揺も治まり、周囲に他船がいなくなったので、定針後まもなく操舵室右舷の椅子に腰掛けて見張りをしながら進行したところ、疲労の蓄積からかその後眠気を感じたが、入港まで後1時間ほどで、それまでは居眠りに陥ることはあるまいと思い、椅子から立ち上がって外気に当たるとか、手動操舵に切り替えるなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
A受審人は、いつしか椅子に腰掛けたまま居眠りに陥り、02時00分大畑港第1東防波堤灯台から135度330メートルの地点において、原針路、原速力のまま、第2東防波堤に衝突した。
当時、天候は曇で風力4の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、船首部を大破したが、引船の支援で離礁し、のち修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、青森県大畑港に向かって津軽海峡を航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、青森県大畑港に向かって津軽海峡を自動操舵で航行中、椅子に腰掛けてまもなく眠気を催した場合、居眠り運航にならないよう、椅子から立ち上がって外気に当たるなり、手動操舵に切り替えるなりして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入港まであと少しなので、それまでは居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、椅子に腰掛けたまま居眠りに陥り、防波堤に向首したまま進行して衝突を招き、船首部を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。