(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月17日12時22分
新潟港外港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八明神丸 |
プレジャーボートヒロセ |
総トン数 |
19.92トン |
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全長 |
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7.20メートル |
登録長 |
16.30メートル |
6.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
62キロワット |
3 事実の経過
第八明神丸(以下「明神丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、いか一本釣漁の目的で、船首0.7メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成13年6月17日11時45分新潟港西区を発し、粟島西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、自身で操船して離岸し、西区を流れる信濃川に沿って下航して外港に出て、12時14分少し過ぎ新潟港西区第2西防波堤灯台(以下「第2西防波堤灯台」という。)から160度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に達したとき、針路を349度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、西防波堤突端を左舷に見て通過したのち、12時18分第2西防波堤灯台から354度780メートルの地点で、周囲を一瞥(いちべつ)しただけで他船はいないものと思い、操舵室右舷後部の海図台で海図を見ながら僚船と電話交信を始めた。
A受審人は、12時20分半第2西防波堤灯台から352度1,500メートルの地点に達したとき、正船首方500メートルにヒロセが存在し、まもなく同船が錨泊して釣りを行っているのを認めることができ、そのまま進行すると同船と衝突するおそれがあったが、電話を続けていて周囲の見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かなかった。
A受審人は、右転するなどヒロセを避けることなく進行し、12時22分第2西防波堤灯台から351度2,000メートルの地点において、明神丸の船首部が、原針路、原速力のまま、ヒロセの右舷船首部に後方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、視界は良好であった。
また、ヒロセは、ほぼ船体中央部に操縦席があるFRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、同乗者1人を乗せ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日05時30分信濃川河口から約12キロメートル上流右岸の係留地を発し、新潟港西区北方沖合2海里ほどの釣場に向かった。
B受審人は、信濃川を下航して外港に出て、06時00分第2西防波堤灯台から351度2,000メートル付近の釣場に至って機関を停止し、魚群探知器で計測した水深35メートルの地点に投錨し、錨索を70メートルほど延出して船首部に繋止(けいし)し、錨泊して釣りの準備を始めた。
B受審人は船尾部付近に位置して両舷から、同乗者は船首部付近に位置して両舷からそれぞれ1本の竿を出して釣りを行い、12時頃10隻ほどのいか釣船が出港していくのを視認し、何隻かは自船を避けていくのを認めた。
B受審人は、12時20分半船首が067度を向いていたとき、同乗者の声で右舷船尾78度500メートルに自船に向首して接近する明神丸を初めて認めたが、他のいか釣船と同じように自船を避けていくものと思い、同船に避航の様子がないまま更に接近してきたが、避航を促す音響信号を行わなかった。
B受審人は、明神丸が、今に避ける、もう避けると思っていたが、なおも接近してきたので危険を感じ、12時22分わずか前大声を出したが、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、明神丸は船首部に擦過傷を、ヒロセは右舷船首部に亀裂及びアンカーウィンチに損傷を生じたが、のちそれぞれ修理された。
(原因)
本件衝突は、明神丸が、新潟港から出港中、見張り不十分で、前路で錨泊して釣りを行っているヒロセを避けなかったことによって発生したが、ヒロセが、避航を促す音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、新潟港から出港する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室右舷後部の海図台で海図を見ながら僚船との電話交信に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊して釣りを行っているヒロセに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、明神丸の左舷船首部に擦過傷を、ヒロセの右舷船首部に亀裂及びアンカーウィンチに損傷を生じさせるに至った。
B受審人は、新潟港外港において、錨泊して釣りを行っているとき、自船に向首接近する明神丸に避航の様子が無いまま接近するのを認めた場合、同船に対し避航を促す音響信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、他のいか釣船が自船を避航していったので明神丸も避けるものと思い、避航を促す音響信号を行わなかった職務上の過失により、衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。