(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月12日00時15分
北海道苫小牧港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八松政丸 |
漁船第二十八漁紀丸 |
総トン数 |
4.4トン |
4.0トン |
全長 |
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12.67メートル |
登録長 |
11.00メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
190キロワット |
3 事実の経過
第十八松政丸(以下「松政丸」という。)は、刺し網漁業に従事する、船体のほぼ中央に操舵室を配置したFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、かれい刺し網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成14年6月11日21時30分北海道苫小牧港漁港区を発し、同港東港地区沖合の漁場に向かった。
A受審人は、22時20分苫小牧港港域内の、苫小牧港東港地区東防波堤灯台(以下「東港地区東防波堤灯台」という。)南東方1海里付近の漁場に至り、刺し網の揚投網を行い、かれいなど約300キログラムを獲て操業を終え、翌12日00時07分東港地区東防波堤灯台から144度(真方位、以下同じ。)2,030メートルの地点を発進し、帰航の途に就いた。
A受審人は、発進時、針路を291度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,800にかけ、9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、航行中の動力船の灯火を表示して船首を左右に少し振りながら苫小牧港港域内を西行した。
定針後まもなく、A受審人は、前方の見通しが効く操舵室外右舷側の通路付近で汚れた甲板の水洗い作業を始め、00時08分半、東港地区東防波堤灯台から151度1,680メートルの地点に達したとき、右舷船首3度1.0海里のところに、第二十八漁紀丸(以下「漁紀丸」という。)の白、紅2灯のほか明るい灯火を視認でき、その後、同船が漁ろうに従事していることを示す灯火を表示していなかったものの、航行中の動力船の灯火のほかに明るい作業灯の様子やその極低速力で進行している模様から、通常の航行中の動力船とは異なる状態の船舶と判断できる状況で、漁紀丸の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近した。しかし、同人は、前路に灯火を見なかったことから他船がいないものと思い、甲板の水洗い作業を続け、前方の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、警告信号を行わないまま、更に接近しても機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとることなく同一針路、速力で続航した。
00時15分わずか前、A受審人は、水洗い作業を終え、操舵室に入ろうとしたとき、船首至近に迫った漁紀丸を初めて認めたが、どうすることもできず、00時15分東港地区東防波堤灯台から226度1,200メートルの地点において、松政丸の船首が、原針路、原速力のまま、漁紀丸の左舷中央部に後方から74度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、海上には約1メートルの波があり、潮候は上げ潮の末期であった。
また、漁紀丸は、刺し網漁業に従事する、船体のほぼ中央に操舵室を配置したFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かれい刺し網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月11日22時30分苫小牧港漁港区を発し、同港東港地区沖合の漁場に向かった。
ところで、漁紀丸のかれい刺し網漁は、前日、1反の長さ約30メートルの網45反を連結した刺し網を、苫小牧港港域内の船舶交通の輻輳しない海域に投網し、翌日、右舷船首部に設置された揚網機により1時間ないし1時間半かけ揚網した後、積んできた代わりの刺し網を投網して操業を終えるものであった。
B受審人は、23時10分東港地区東防波堤灯台から291度1,130メートルの地点にあたる、ほぼ南北方向に投網していた長さ約1,350メートルの刺し網北端部に至り、航行中の動力船の灯火を掲げたまま、前後部甲板及び左右舷側通路を照射する多数の明るい作業灯を点灯し、漁ろうに従事していることを示す灯火を表示せず、機関を停止回転にかけクラッチを中立として揚網作業を開始した。
B受審人は、揚網機の船尾側に立ち、時々遠隔操縦装置管制器を操作して機関を前進にかけ刺し網の揚網作業に当たり、171度方向に平均0.6ノットの極低速力で、他船からは自船が漁ろうに従事している船舶であることが判断されない状態のまま進行した。
翌12日00時08分半、B受審人は、東港地区東防波堤灯台から231度1,140メートルの地点に達し、船首が217度に向いていたとき、左舷船尾77度1.0海里のところに、西行する松政丸の白、緑2灯のほか時折紅灯を視認でき、その後、同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、揚網作業に没頭し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、警告信号を行うことなく揚網して進行中、00時15分少し前、左舷方至近に迫った松政丸を初めて認めたが、どうすることもできず、漁紀丸は、217度に向首し、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、松政丸は、船首部に擦過傷を生じ、漁紀丸は、左舷中央部に亀裂を生じたほか船尾マストを曲損したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、苫小牧港港域内において、漁場から帰航中の松政丸が、見張り不十分で、極低速力で接近する漁紀丸に対して警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、刺し網を揚網して進行中の漁紀丸が、漁ろうに従事していることを示す法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、警告信号を行わなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、苫小牧港港域内において、同港東港地区沖合の漁場から帰航する場合、極低速力で接近する漁紀丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に灯火を見なかったことから他船がいないものと思い、甲板の水洗い作業を続け、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁紀丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、松政丸の船首部に擦過傷を生じさせ、漁紀丸の左舷中央部に亀裂を生じさせたほか船尾マストを曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、苫小牧港港域内において、極低速力で進行する場合、左舷方から接近する松政丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、揚網作業に没頭し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わないまま揚網して進行し衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって、主文のとおり裁決する。