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平成14年函審第41号
件名

漁船幸丸遊漁船第五十八恵祐丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月17日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、安藤周二、工藤民雄)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五十八恵祐丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
幸 丸・・・船首部ブルワーク等を破損
恵祐丸・・・操舵室左舷側及び左舷中央部ブルワークを圧壊
甲板員2人及び釣り客10人が胸部打撲、頸椎捻挫及び両膝打撲等

原因
幸 丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
恵祐丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、幸丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第五十八恵祐丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月20日05時28分
 北海道常呂漁港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船幸丸 遊漁船第五十八恵祐丸
総トン数 14トン 7.3トン
全長   17.50メートル
登録長 17.08メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   441キロワット
漁船法馬力数 160  

3 事実の経過
 幸丸は、定置網漁業に従事する、レーダーを装備したFRP製の船尾船橋型漁船で、A受審人が1人で乗り組み、定置網の網起こしに出漁して霧で帰航できなくなった僚船を先導する目的で、船首0.5メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成14年7月20日05時20分北海道常呂漁港を発し、同漁港西方約4海里の漁場に向かった。
 A受審人は、発進時、霧模様であったものの、常呂港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)の明かりが見えたことから港口を出て全速力で進行したところ、間もなく霧が濃くなり、視程が約50メートルに狭められたが、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく、作動していたレーダーを1.5海里レンジとして続航した。
 A受審人は、05時24分少し過ぎ北防波堤灯台から328度(真方位、以下同じ。)560メートルの地点で、GPSプロッターに記憶させていた漁場区域を示すボンデンに向く291度の針路に定め、機関をほぼ半速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 定針したとき、A受審人は、正船首0.75海里に遊漁を行って漂泊中の第五十八恵祐丸(以下「恵祐丸」という。)の映像をレーダーにより探知できる状況で、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていたが、これまで漁場に向かう針路付近に釣り船を見かけなかったことから、レーダー画面を一瞥して前路に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止することなく続航中、05時28分北防波堤灯台から301度1.0海里の地点において、原針路、原速力のまま、幸丸の船首が、恵祐丸の左舷中央部に前方から89度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はなく、潮候は低潮時にあたり、視程は約50メートルであった。
 また、恵祐丸は、レーダーを装備したFRP製の中央船橋型遊漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、釣り客12人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同日04時28分常呂漁港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して同港北方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、出港時から霧模様のもと、04時40分釣り場に至って遊漁を始め、釣果がないことから釣り場を移動し、05時12分北防波堤灯台から301度1海里付近で、主機を停止回転にかけクラッチを中立位置とし、操舵室左右舷の作業灯を点灯して漂泊を開始した。
 漂泊後、B受審人は、霧が濃くなり、視程が約50メートルに狭められたが、霧中信号を行わず、レーダーを0.25海里レンジとしたまま遊漁を行い、05時24分少し過ぎ北防波堤灯台から301度1.0海里の地点において、船首が200度に向いているとき、幸丸をほぼ左舷正横0.75海里に探知できる状況で、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていたが、漂泊中の自船を他船が避けてくれるものと思い、使用レンジを適宜切り替えるなど、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、幸丸に対して注意喚起信号を行わないまま漂泊を続けた。
 05時27分B受審人は、レーダー画面上ほぼ左舷正横0.2海里に幸丸の映像を初めて認め、急速に自船に近付いてくるので、同時28分わずか前機関を前進にかけたが及ばず、恵祐丸は、船首が200度に向いているとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸丸は、船首部ブルワーク等を破損し、恵祐丸は、操舵室左舷側及び左舷中央部ブルワークを圧壊し、常呂漁港に曳航され、のちいずれも修理され、同船の甲板員2人及び釣り客10人が胸部打撲、頚椎捻挫及び両膝打撲等を負った。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界が著しく制限された北海道常呂漁港北西方沖合において、漁場に向け西行する幸丸が、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、レーダーによる見張り不十分で、前路で漂泊中の恵祐丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったことによって発生したが、恵祐丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、接近する幸丸に対して注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界が著しく制限された常呂漁港北西方沖合を漁場に向け西行する場合、前路で漂泊中の恵祐丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで漁場に向かう針路付近に釣り船を見かけなかったことから、レーダー画面を一瞥して前路に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の恵祐丸と著しく接近することを避けることができない状況となっていることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止することなく進行して恵祐丸との衝突を招き、幸丸の船首部ブルワーク等に破損を、恵祐丸の操舵室左舷側及び左舷中央部ブルワークに圧壊をそれぞれ生じさせ、同船の甲板員及び釣り客に胸部打撲、頚椎捻挫及び両膝打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、霧のため視界が著しく制限された常呂漁港北西方沖合において、漂泊して遊漁を行う場合、接近する幸丸を見落とさないよう、使用レンジを適宜切り替えるなど、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漂泊中の自船を他船が避けてくれるものと思い、使用レンジを適宜切り替えるなど、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸丸と著しく接近することを避けることができない状況となっていることに気付かず、注意喚起信号を行わないまま同船との衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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