(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月10日15時21分
伊万里港
2 船舶の要目
船種船名 |
巡視艇にじぐも |
貨物船レジェンド |
総トン数 |
149.55トン |
3,743トン |
全長 |
31.00メートル |
129.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,530キロワット |
1,323キロワット |
3 事実の経過
にじぐもは、唐津港を基地とする型幅6.3メートルの軽合金製巡視艇で、船長Hほか7人が乗り組み、レジェンド(以下「レ号」という。)への立入検査の目的で、船首1.5メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成14年6月10日12時00分基地を発し、14時50分伊万里港久原北2号岸壁に4本の係留索をとり、左舷出船付けで着岸した。
H船長は、自船の前方約200メートルの久原北3号岸壁(以下「バース」という。)に15時00分到着予定のレ号を待つうち、15時05分伊万里港第2号灯浮標(以下「2号灯浮標」という。)の東側のところに、バースに向けて南下する同船を認め、4人の乗組員と船橋で立入検査の打合せを行いながら同船の行動を見ていたところ、同船がバース前を通過したのちも自船に向首接近し、前方約80メートルのところで両舷錨を相次いで投下したものの更に接近したので、どうすることもできず、同時21分少し前総員退避命令を発し、15時21分伊万里港釘島防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から253度(真方位、以下同じ。)1,680メートルの地点において、にじぐもは031度に船首を向けて着岸中、その右舷船首部にレ号の右舷船首部がほぼ平行に衝突した。
当時、天候は曇で風力4の南東風が吹き、潮候は低潮時であった。
また、レ号は、2基2軸を装備した型幅15.6メートルの船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長U(以下「U船長」という。)、機関長P及び一等航海士Rほか11人が乗り組み、丸太及び製材3,365トンを載せ、船首3.2メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、同月7日15時20分(現地標準時)ロシア連邦ナホトカ港を発し、伊万里港に向かった。
越えて、10日13時40分U船長は、長崎県青島水道の北方1海里ばかりの地点に達したとき、昇橋して操船指揮をとり、伊万里港に一度入港の経験があったことから自信があり、バウスラスターを装備していたので水先人及びタグボートをとらずに伊万里湾に入航し、14時00分同県魚固島南方1海里ばかりの地点で、入航部署を発令して両舷錨の投下準備を行い、一等航海士を操舵につけて手動操舵で同湾を東行した。
U船長は、15時05分2号灯浮標の東側にあたる防波堤灯台から305度1,060メートルの地点で針路を210度に定め、機関を両舷極微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
15時09分半U船長は、バースまで約500メートルとなる防波堤灯台から275度1,160メートルの地点に達したとき、バースに向けて針路を222度に転じると共に、バースに並航した時に行きあしが停止するよう左舷機を停止して、その後操縦ハンドルを半速力後進に入れたものの、後進が始動しなかったが、右舷機は正常に作動して片舷機で着岸できるものと思い、直ちに右舷機の後進確認を行うことなく続航した。
15時12分頃U船長は、機関長から主機始動空気弁の故障により左舷機が始動不能となった旨報告を受け、同時14分2.3ノットの速力になって久原北岸壁北端に並んだとき、右舷機を停止して全速力後進に操縦ハンドルを入れたが、同機の後進も始動せず、直ちに非常用テレグラフを後進に押したが反応がなかった。
U船長は、15時15分岸壁との衝突を避けるため左舵一杯とし、ゆっくり左転して右舷船尾端が岸壁に接触したのち、更にほぼ岸壁と平行に進行したので、同時19分右舷錨を投じて引き続き左舷錨を投じ、それぞれ2節及び1節半を延出して同時20分半錨鎖の延出を停止したが及ばず、レ号は211度に船首を向けたまま約1.3ノットの行きあしで前示のとおり衝突した。
衝突の結果、にじぐもは両舷船首部及び左舷中央部上甲板端の防舷材を損傷したほか係留索4本を切断し、レ号は右舷船首部外板に擦過傷を生じ、のちにじぐもは修理された。
(原因)
本件衝突は、伊万里港において、バースに接近中のレジェンドが、主機左舷機の後進が始動しなかった際、同右舷機の後進始動の確認が不十分で、右舷機の後進始動が不能であることが把握されないまま、着岸しているにじぐもに向かって進行したことによって発生したものである。
よって主文のとおり裁決する。