(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月13日22時05分
関門港
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船金比羅丸 |
総トン数 |
4.9トン |
登録長 |
10.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
154キロワット |
3 事実の経過
金比羅丸は、主に山口県六連島及び福岡県白島周辺の沖合で遊漁に従事するFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、乗客11人を乗せ、関門海峡における花火大会を見物する目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年8月13日18時00分関門港若松第二区松ケ島船溜り(ふなだまり)を発し、同大会が催される山口県巌流島北方沖合に向かった。
ところで、洞海湾口防波堤は、同湾左岸の岸壁南東端から東北東方に約560メートル延び、同防波堤突端に若松洞海湾口防波堤灯台(以下「若松防波堤灯台」という。)が設置されており、同防波堤上に照明設備がなく、夜間、靄(もや)などがかかった際には遠方から見えにくい状況であった。
また、A受審人は、日頃洞海湾から白島及び六連島周辺等の沖合に昼間出ていたことから、関門港西入口付近の地物及び航路標識等を見て確認することができたものの、レーダーなどの船位測定機器を装備しておらず、夜間関門港内を安全に航行するには、灯質から航路標識を識別できるよう大尺度の海図を購入して航路標識の灯質を調べるなど、水路調査を十分に行うことが必要であった。
しかし、A受審人は、夜間に帰航する予定で松ケ島船溜りを出航するに当たり、夜間でも地物及び航路標識等を見て安全に航行できるものと思い、大尺度の海図を購入して航路標識の灯質を調べるなど、水路調査を十分に行わなかった。
A受審人は、巌流島北方沖合に至って乗客とともに花火大会を見物し、21時15分見物を終えて帰途に就き、乗客の内9人を操舵室前の甲板上に座らせ、残りの乗客2人を操舵室後方の甲板上に座らせて関門港内を西行して洞海湾入口付近に達したころ、洞海湾方面の地表付近に靄がかかり、その方面の地物、航路標識及び若松港口信号所の信号灯を確認できないまま航行していたところ、洞海湾北方に位置する北九州市若松区の三井鉱山株式会社のクレーン上部を認めて洞海湾入口を通り過ぎたことに気付き、22時03分少し前引き返すこととして反転した。
反転したとき、A受審人は、水路調査を十分に行っていなかったことから、たまたま船首方向に見えた赤色灯火が若松航路第2号灯浮標の赤色灯火であったものの、若松防波堤灯台の赤色灯火と誤認し、22時03分同灯台から304度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点で、針路を同灯台に向かう131度に定め、機関を全速力前進に掛け、11.0ノットの対地速力で進行した。
22時04分半A受審人は、若松防波堤灯台から287度250メートルの地点に達したものの、同灯台の赤色灯火が視認できず、依然若松航路第2号灯浮標の赤色灯火を同灯台の赤色灯火と誤認していることに気付かないまま洞海湾口防波堤に向けて続航中、22時05分洞海湾口防波堤北側の、若松防波堤灯台から250度100メートルの地点において、金比羅丸は、原針路、原速力で、その船首が洞海湾口防波堤の法線に対して64度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、洞海湾方面の地表付近に靄が発生していた。
衝突の結果、金比羅丸は船首部が圧壊したが、のち修理となり乗客4人が頬(ほお)骨骨折等を負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、関門港において、水路調査不十分で、洞海湾口防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間に帰航となる関門海峡における花火大会の見物客を乗せ、関門港若松第二区松ケ島船溜りを出航する場合、レーダーなどの船位測定機器を装備していないから、夜間においても航路標識を活用して同港内を安全に航行できるよう、大尺度の海図を購入して航路標識の灯質を調べるなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、夜間でも地物及び航路標識等を見て安全に航行できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、若松航路第2号灯浮標の赤色灯火を若松防波堤灯台の赤色灯火と誤認していることに気付かないまま洞海湾口防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き、金比羅丸の船首部を圧壊させ、乗客4人に頬骨骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。