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平成14年門審第38号
件名

貨物船ゼニス フォーカス貨物船チュン フ衝突事件
二審請求者〔受審人A〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、橋本 學、島 友二郎)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:ゼニスフォーカス水先人 水先免状:関門水先区

損害
ゼ 号・・・右舷後部外板に破口
チュ号・・・左舷錨等に曲損

原因
チュ号・・・港則法の航法(避航動作)不遵守(主因)
ゼ 号・・・港則法の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、関門第2航路を関門航路に向けて航行するチュン フが、関門航路を航行するゼニス フォーカスの進路を避けなかったことによって発生したが、ゼニス フォーカスが、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aに対しては懲戒を免除する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月2日12時46分
 関門港関門航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船ゼニスフォーカス 貨物船チュンフ
総トン数 2,035トン 1,288トン
全長 93.00メートル 72.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,354キロワット 1,029キロワット

3 事実の経過
 ゼニス フォーカス(以下「ゼ号」という。)は、船尾船橋型貨物船で、船長Kほか10人が乗り組み、フェロシリコン2,667トンを載せ、船首5.10メートル船尾5.75メートルの喫水をもって、平成13年1月31日12時00分(現地時間)ロシア連邦ポシェット港を発し、関門港に向かい、翌月2日10時50分同港関門航路東側の六連島区に至り、着岸時間調整のため、六連島東防波堤灯台から103度(真方位、以下同じ)1,520メートルの地点に右舷錨を投じ、錨鎖3節半を延出して錨泊した。
 A受審人は、ゼ号を嚮導(きょうどう)して関門港若松区第4区戸畑商港岸壁に着岸させる目的で、12時10分同船に乗船し、船橋上部のレーダーマスト左舷側に、行き先を示す国際信号旗の第2代表旗、Y旗及びN旗を上下に連掲するとともにH旗を掲げ、操舵手が操舵輪に就き、K船長が操船の指揮と機関操縦装置の操作に当たる状況下、同時20分前示錨地を発進した。
 発進したあと、A受審人は、若松港口信号所の表示がまだ入航信号でなかったことから、ゆっくりとした速力で関門航路に入り、12時35分若松洞海湾口防波堤灯台(以下「洞海湾口防波堤灯台」という。)から039度1.5海里の地点に至り、同信号所の表示が間もなく入航信号に変わることを示すX及びIの交互点滅信号になったことを確認したところで、針路を同航路に沿う216度に定め、機関を港内全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で、同航路の中央を手動操舵により進行した。
 A受審人は、定針したとき右舷船首方1.5海里ばかりの、関門第2航路北口付近にチュン フ(以下「チュ号」という。)を初めて視認し、そのレーダーマストに掲げられた国際信号旗から関門港を通過する船舶であることを知り、その後同船に対する動静監視を行いながら続航し、12時38分半いつものように針路をほぼ関門航路第6号灯浮標に向く195度とし、さらに同時40分半わずか過ぎ洞海湾口防波堤灯台から049度1,560メートルの地点に達したとき、針路を若松航路入口のほぼ中央に向く180度に転じ、関門航路の右側を同航路に沿って南下した。
 12時41分A受審人は、チュ号が右舷船首79度930メートルとなったとき、同船と関門航路で出会うおそれがあることを認め、同時43分K船長に要請して警告信号を行わせ、針路、速力を保って進行した。
 A受審人は、12時44分半チュ号が自船の進路を避ける気配を見せないまま、間近に接近したが、そのうちチュ号が避航動作をとるものと思い、直ちに機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、同時45分少し過ぎ右舷船首至近に迫ったチュ号を見て衝突の危険を感じ、左舵一杯を命じるとともに、自ら短音2回を発したが、及ばず、12時46分洞海湾口防波堤灯台から102度1,250メートルの地点において、ゼ号は、船首が161度を向いたとき、その右舷後部に、チュ号の左舷船首部が、後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には極微弱な西流があった。
 また、チュ号は、船尾船橋型貨物船で、船長Gほか7人が乗り組み、ボーキサイト1,100トンを積載し、船首3.70メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、同年1月30日07時00分(現地時間)中華人民共和国天津新港を発し、関門海峡を経由する予定で兵庫県東播磨港に向かった。
 G船長は、翌月2日09時00分長崎県壱岐島東方沖合で船橋当直に就き、見習い航海士を補佐に当たらせて玄界灘を東行し、12時25分関門海峡西口に至ったとき、船橋上部のレーダーマストに馬島西方を航行して関門港を通過することを示す国際信号旗のK旗、P旗及びU旗を上下に連掲し、機関を用意したのち、同時35分洞海湾口防波堤灯台から325度1.1海里の地点で、関門第2航路に入るとともに、針路を135度に定め、機関を半速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で、昇橋してきた二等航海士を見習い航海士と交代させて手動操舵に就け、同航路の西側線付近をこれに沿って進行した。
 12時41分G船長は、左舷船首56度930メートルのところに関門航路を南下するゼ号を初めて認め、同船と関門航路で出会うおそれがあることを知ったが、同船のレーダーマストに掲げられた国際信号旗の第2代表旗、Y旗及びN旗が表す意味を理解することができなかったことから、同船は関門航路を東行する船舶で、いずれ大瀬戸第1号導灯に向けて左転するものと判断し、機関を使用して減速するなど、同船の進路を避けることなく続航した。
 G船長は、間もなくゼ号が警告信号を行ったものの、依然避航動作をとらないまま、12時44分関門航路西側線付近を航行するつもりで、針路を141度に転じ、同船の動静を窺いながら進行中、同時46分少し前ゼ号が左舷船首至近に迫って衝突の危険を感じ、右舵一杯をとり、機関を全速力後進にかけたが、効なく、チュ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ゼ号は、右舷後部外板に破口を、チュ号は、左舷錨等に曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、関門港において、両船が関門航路で出会うおそれがある態勢で接近中、関門第2航路を航行するチュ号が、関門航路を航行するゼ号の進路を避けなかったことによって発生したが、ゼ号が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門港において、ゼ号を嚮導し、関門航路をこれに沿って若松区第4区に向け航行中、関門第2航路を航行するチュ号が関門航路で出会うおそれがある態勢のまま、自船の進路を避ける気配を見せないで間近に接近するのを認めた場合、直ちに機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、そのうちチュ号が避航動作をとるものと思い、直ちに機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、ゼ号の右舷後部外板に破口を、チュ号の左舷錨等に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告すべきところ、同受審人が多年にわたり船員として職務に精励し、海運の発展に寄与した功績により、昭和62年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条の規定を適用してその懲戒を免除する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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