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平成14年門審第107号
件名

ケミカルタンカー第三十恭海丸漁船蛭子丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、西村敏和、)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:第三十恭海丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第三十恭海丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:蛭子丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
恭海丸・・・左舷後部外板に擦過傷
蛭子丸・・・右舷船首ブルワーク及びかんぬきに損傷

原因
蛭子丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
恭海丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第三十恭海丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三十恭海丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月18日04時00分
 山口県佐波島南南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 ケミカルタンカー第三十恭海丸 漁船蛭子丸
総トン数 498トン 4.6トン
全長 65.02メートル  
登録長   10.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第三十恭海丸(以下「恭海丸」という。)は、瀬戸内海及び九州諸港間を濃硫酸の輸送に従事する船尾船橋型ケミカルタンカーで、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、空船で清水バラスト140トンを載せ、船首0.80メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成13年6月18日02時40分徳山下松港を発し、関門港若松区に向かった。
 A受審人は、B受審人と2人による単独3時間当直制としていたが、狭い水道、船舶が輻輳する海域などでの操船には自ら当たることとしていた。
 A受審人は、発航時から法定灯火を表示し、発航操船後、船橋当直(以下「当直」という。)に当たり、03時00分徳山下松港第2号灯浮標に並航したとき、昇橋してきたB受審人と当直を交替することとしたが、日頃より同人に対して見張りを十分に行うこと及び接近する他船を早めに避けることを言っていたこと、自らの本船乗船履歴よりB受審人が1年間長かったこと並びに自らの休暇下船中にB受審人が船長職を執ってきたことから、「お願いします。」と言っただけで、当直を同人に引き継いで降橋した。
 B受審人は、当直に就いた後、舵輪後方の積み上げたビール箱に腰掛けて見張りに当たり、03時43分少し過ぎ山口県向島タズノ鼻を正横に見る、佐波島灯台から086.5度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点で、針路を246度に定め、機関を全速力前進に掛け、10.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 03時55分B受審人は、佐波島灯台から112度1.7海里の地点に達したとき、左舷船首28度1.2海里のところに、前路を右方に横切る態勢の蛭子丸の白、緑2灯を視認し得る状況であったが、前方を一瞥して他船を見なかったことから他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく、その後その方位が変わらず、蛭子丸に衝突のおそれのある態勢で更に接近していたものの、レーダーを活用するなどして見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 03時59分半B受審人は、佐波島灯台から138度1.3海里の地点に達したとき、左舷船首28度200メートルのところに蛭子丸の白、緑2灯を初めて認め、船橋両舷前部に装備されていた各作業灯を数秒点灯したものの、同船が避航する動作が見えなかったことから衝突の危険を感じ、手動操舵に切り換えて右舵一杯にしたが及ばず、04時00分佐波島灯台から142度1.2海里の地点において、恭海丸は、船首が305度に向いたとき、原速力のまま、その左舷後部に蛭子丸の船首が後方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、自室で休息中、衝撃で衝突を知り、昇橋して事後の措置に当たった。
 また、蛭子丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾1.55メートルの喫水をもって、同月17日18時30分山口県秋穂漁港を発し、山口県佐波島南南東方2海里沖合の漁場に向かった。
 19時30分C受審人は、漁場に至り、その後操業に従事した後、帰途に就くこととし、翌18日03時55分佐波島灯台から151度1.8海里の漁場を発進し、針路を350度に定め、機関を全速力前進にかけ7.3ノットの速力で、マスト灯、舷灯一対及び船尾灯の代わりの裸電球を表示し、更に傘付き作業灯を点灯して自動操舵により進行した。
 定針したとき、C受審人は、右舷船首48度1.2海里のところに前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する恭海丸の白、白、紅3灯を視認し得る状況であったが、前方を一瞥して他船を見なかったことから他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく、後部甲板上で漁獲物の選別作業を始め、その後、恭海丸が衝突のおそれのある態勢で更に接近したものの、依然漁獲物の選別作業に従事し、見張りを十分に行っていなかったので、同船の灯火に気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、蛭子丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、恭海丸は左舷後部外板に擦過傷を、蛭子丸は右舷船首ブルワーク及びかんぬきに損傷をそれぞれ生じ、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、山口県佐波島南南東方沖合において、恭海丸及び蛭子丸両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る恭海丸の進路を避けなかったことによって発生したが、恭海丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、夜間、佐波島南南東方沖合において、漁場から帰航する場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一瞥して他船を見なかったことから他船はいないものと思い、後部甲板上で漁獲物の選別作業に従事し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する恭海丸の灯火に気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、恭海丸の左舷後部外板に擦過傷並びに蛭子丸の右舷船首ブルワーク及びかんぬきに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人が、夜間、佐波島南南東方沖合において、単独で当直に当たる場合、他船を見落とさないよう、レーダーを活用するなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一瞥して他船を見なかったことから他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する蛭子丸に気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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