(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月24日16時08分
大分県国東半島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第三浅川丸 |
貨物船第八大栄丸 |
総トン数 |
499トン |
497トン |
登録長 |
60.24メートル |
64.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
第三浅川丸(以下「浅川丸」という。)は、主に液体化学薬品及び石油製品の輸送に従事する鋼製油送船で、A受審人ほか4人が乗り組み、液体危険物1,001.044キロリットルを積載し、船首3.30メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成13年1月24日14時50分大分港を発し、京浜港へ向かった。
A受審人は、出港操船に引き続き、単独で船橋当直に当たり、15時18分臼石鼻灯台から187度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点で、針路を055度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進に掛け、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
そして、A受審人は、16時01分少し過ぎ臼石鼻灯台から103度5.8海里の地点に至ったとき、左舷船首33度2.0海里のところに、南下中の第八大栄丸(以下「大栄丸」という。)を初認し、その後、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、自船が保持船の立場にあったことから、そのうちに大栄丸が避航動作をとるものと思い、同じ針路、速力で続航した。
こうして、A受審人は、16時04分半わずか過ぎ臼石鼻灯台から098.5度6.2海里の地点に達したとき、同方位1.0海里のところに、尚(なお)、衝突のおそれがある態勢で接近する大栄丸を認めたが、依然として、同船が避航動作をとるものと思い、しばらくして汽笛により短音を7乃至(ないし)8回吹鳴して警告信号を行ったものの、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとらずに進行中、同時08分少し前左舷船首至近に迫った大栄丸を認めて衝突の危険を感じ、急いで左舵一杯をとり、機関のクラッチを中立としたが、及ばず、16時08分臼石鼻灯台から095度6.7海里の地点において、浅川丸は、025度に向首したとき、その船首が、大栄丸の右舷船尾に前方から38度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、視界は良好であった。
また、大栄丸は、専ら石材及び砂利の運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成13年1月24日11時00分福岡県苅田港を発し、大分県津久見港へ向かった。
出港後、B受審人は、船橋当直を乗組員4人による3時間交替制に定め、C指定海難関係人に14時00分から17時00分までの当直を命じたのであるが、その際、同指定海難関係人に対し、接近する他船を認めたならば、その動静監視を十分に行うよう明確に指示する必要があったものの、同指定海難関係人が、航海当直部員の認定を受けており、また付近海域の航海にも慣れていたことから、特に指示しなくても大丈夫と思い、その旨の明確な指示を行わなかった。
14時00分C指定海難関係人は、姫島水道で前任者と船橋当直を交替し、15時05分国東港南防波堤灯台から080度2.4海里の地点で、針路を167度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進に掛け、10.3ノットの速力で進行した。
そして、C指定海難関係人は、16時01分少し過ぎ臼石鼻灯台から085度6.4海里の地点に至ったとき、右舷船首35度2.0海里のところに、浅川丸を初認し、その後、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、まだ距離が2.0海里あったことから、しばらくの間は大丈夫と思い、その動静監視を十分に行わずに続航した。
こうして、C指定海難関係人は、16時04分半わずか過ぎ臼石鼻灯台から090度6.5海里の地点に達したとき、浅川丸が、尚も衝突のおそれがある態勢で同方位1.0海里まで接近したが、依然として、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、避航動作をとらないまま進行中、同時07分半300メートルまで接近した同船を認めて衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて右舵一杯をとろうとしたものの、慌てていたことから切り替え操作を間違え、自動操舵のまま、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、浅川丸は、船首ブルワークに凹損を、大栄丸は、右舷船尾外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、大分県国東半島南東方沖合において、浅川丸及び大栄丸の両船が、互いに針路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する大栄丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る浅川丸の進路を避けなかったことによって発生したが、浅川丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
大栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が、航海当直部員の認定を受けた無資格者に単独での船橋当直を命じる際、接近する他船の動静監視を十分に行うよう明確に指示しなかったことと、同無資格者が、接近する他船の動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
B受審人は、大分県国東半島南東方沖合を南下する際、C指定海難関係人に単独での船橋当直を命じる場合、同指定海難関係人に対し、接近する他船の動静監視を十分に行うよう明確に指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同指定海難関係人が、航海当直部員の認定を受けており、付近海域の航海にも慣れていたことから、特に指示しなくても大丈夫と思い、その旨の明確な指示を行わなかった職務上の過失により、同指定海難関係人が、接近する浅川丸の動静監視を十分に行わず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、浅川丸の船首ブルワークに凹損を、大栄丸の右舷船尾外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、大分県国東半島南東方沖合を航行中、避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近する大栄丸を、左舷前方に認めた場合、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、自船が保持船の立場にあったことから、そのうちに大栄丸が避航動作をとるものと思い、機関を使用して行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、浅川丸の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。