(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月24日16時30分
愛媛県 宇和島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十七蛭子丸 |
漁船せりな |
総トン数 |
360.28トン |
4.98トン |
登録長 |
44.00メートル |
10.57メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
第五十七蛭子丸(以下「蛭子丸」という。)は、活魚輸送に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成12年8月24日08時00分関門港下関区を発し、愛媛県宇和島港に向かった。
15時45分ごろA受審人は、宇和嘉島灯台から299度(真方位、以下同じ)7.3海里の地点で昇橋して船長から船橋当直を引き継ぎ、針路を宇和島湾に向く103度に定め、機関を回転数毎分470の全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
16時20分A受審人は、同灯台から342度2.4海里の地点に達したとき、右舷船首6度1.8海里のところに北上しているせりなを初めて視認し、同船を一瞥(いちべつ)して自船の前路を替わって行くものと思い、コンパスを使用してせりなの方位変化を確認するなど同船に対する動静監視を十分に行うことなく、船橋内に敷かれた絨毯(じゅうたん)の汚れが気になり、雑巾を使用して掃除を行いながら続航した。
16時27分A受審人は、同灯台から011度2.0海里の地点に達したとき、せりなが同方位1,000メートルに近づき、双眼鏡を使用すれば同船が漁ろうに従事していることを示す所定の形象物を掲げていないものの、操舵室後方の櫓(やぐら)からワイヤロープを延出し、極低速力で航行しているのを認めることができ、同船がトロールにより漁ろうに従事していることが分かり、その後その方位がほとんど変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、依然同船が自船の前路を替わって行くものと思い、せりなに対する動静監視を十分に行うことなく、同船が接近したことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行中、16時30分宇和嘉島灯台から025度2.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、蛭子丸は、その船首がせりなの左舷後部に前方から66度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、せりなは、小型機船底びき網漁業に従事する全長12メートル以上のFRP製漁船で、汽笛を備えず、B受審人とその祖父の2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日12時00分愛媛県奥浦漁港を発し、同県嘉島北東方沖合の漁場に向かった。
ところで、せりなの底びき網漁は、操舵室後方の甲板に櫓とネットホーラを設け、同ホーラから櫓を通して延出された長さ350メートルのワイヤロープ1本とその先端に75メートルのロープを取り付け、さらにその先に開口用桁を取り付けた約50メートルの底引き網を連結し、水深70メートルのところで操業するもので、2時間30分えい網したあと30分かけて揚網、漁獲物の取り込み及び漁網の修理を行い、再び投網して操業を繰り返すものであった。
B受審人は、漁場に到着後、トロールにより漁ろうに従事していることを示す鼓型の形象物を表示せず、嘉島の北東方1.5海里沖合のところから北上しながら操業し、16時00分宇和嘉島灯台から040度1.6海里の地点に戻って再び投網し、針路を大崎鼻南西方沖合800メートルの三双碆に向く349度に定め、機関を回転数毎分2,300の前進にかけ、えい網速力を1.3ノットとして自動操舵により進行した。
16時10分B受審人は、同灯台から034度1.7海里の地点に達したとき、左舷船首60度3.5海里のところに、東行する蛭子丸を初めて視認し、祖父が操舵室前の保冷室で待機していたので、漁獲物を船尾から同室に運ぶ作業を行いながら続航した。
16時27分B受審人は、同灯台から027度2.0海里の地点に達したとき、蛭子丸が同方位1,000メートルに近づき、その後その方位がほとんど変わらず、同船と衝突のおそれがある態勢となり、蛭子丸が漁ろう中の自船の進路を避けないまま接近する状況であったが、航行中の蛭子丸は間近になると漁ろうに従事中の自船を避けると思い、同船の方位変化を確認するなど同船に対する動静監視を十分に行うことなく、同船が接近したことに気付かず、警告信号を行うこともできないまま、更に間近になっても機関を停止して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
16時30分少し前B受審人は、操舵室の右舷前で左舷中央部至近に迫る蛭子丸の船首部を視認して衝突の危険を感じ、祖父に「危ないよ。」と声をかけ、直ぐに同室に入り舵輪とクラッチレバーに取り付いたものの、どうすることもできず、せりなは、原針路、原速力のままえい網中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、蛭子丸は船首部にペイント剥離を生じ、せりなは左舷後部ブルワーク及び外板に亀裂を伴う破口を生じ、操舵室及び機関室に海水が侵入して機器及び機関に濡損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、愛媛県嘉島北東方沖合において、蛭子丸が、動静監視不十分で、トロールにより漁ろうに従事しているせりなの進路を避けなかったことによって発生したが、せりなが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、愛媛県嘉島北東方沖合を宇和島港に向けて東行中、せりなを初めて視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、コンパスを使用して同船の方位変化を確認するなど同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同船が自船の前路を替わって行くものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が接近したことに気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、蛭子丸の船首部にペイント剥離を生じさせ、せりなの左舷後部及び船底各外板に亀裂を伴う破口を生じさせ、操舵室及び機関室に海水が浸水し、機器及び機関を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、愛媛県嘉島北東方沖合において、トロールにより漁ろうに従事して極低速力で北上中、東行する蛭子丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の方位変化を確認するなど同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、航行中の同船は間近になると漁ろうに従事中の自船を避けると思い、蛭子丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で間近に接近したことに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。