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平成14年広審第91号
件名

貨物船第八幸福丸漁船清丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、勝又三郎、佐野映一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第八幸福丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
幸福丸・・・右舷側後部外板に凹損
清 丸・・・船首部を損壊

原因
幸福丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
清 丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八幸福丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している清丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月26日14時20分
 周防灘北東部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八幸福丸 漁船清丸
総トン数 191トン 3.8トン
全長 44.21メートル 13.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット 32キロワット

3 事実の経過
 第八幸福丸(以下「幸福丸」という。)は、主に瀬戸内海諸港間において苛性ソーダ水溶液の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、船長T及びA受審人ほか1人が乗り組み、同水溶液300トンを積載し、船首2.1メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成14年2月26日12時10分山口県徳山下松港を発し、愛媛県三島川之江港に向かった。
 T船長は、船橋当直を単独3直3時間ないし4時間交替制として出航操船にあたり、12時30分黒髪島西方沖合で出航配置の後片づけを終えて昇橋したA受審人に船橋当直を引き継いだ。また、毎月5回ほど開催するミーティングのほか、平素から船橋当直中の安全運航の励行や必要であれば必ず船長を呼ぶように指導していた。
 13時22分半少し過ぎA受審人は、火振岬灯台から216度(真方位、以下同じ。)1,050メートルの地点で、針路を102度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で進行した。
 14時10分A受審人は、室積港灯台から221度2.0海里の地点に達したとき、右舷船首16度1.7海里のところに船首を北方に向けた清丸を初めて視認し、同船の形象物を認めるとともにその船型や速力模様から、自船の前路に向かって底引き網により操業していることが分かったが、一見しただけで清丸の船首方を替わるものと思い、コンパスで方位変化を確認するなどして引き続き清丸の動静監視を十分に行わなかったので、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かないまま、速やかに右転するなどその進路を避けずに続航した。
 こうして、A受審人は、14時18分室積港灯台から185度1.7海里の地点に至ったとき、清丸が同じ方位のまま衝突のおそれがある態勢で640メートルに接近したものの、依然として動静監視不十分で、このことに気付かず、なおも避航動作をとることなく、そのころ尿意を催したので、T船長に報告しないまま、上甲板から小用を足すつもりで左舷側ウイング後方の階段から下りて船橋を離れた。
 A受審人は、船橋左横の上甲板上で小用を終え昇橋したところ、14時20分少し前右舷船首至近に迫った清丸を認めて衝突の危険を感じ、機関を中立に操作し、手動操舵に切り替えて左舵一杯としたが及ばず、14時20分室積港灯台から175度1.8海里の地点において、幸福丸は、左転中の船首が082度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その右舷側後部に、清丸の船首が直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は低潮時であった。
 自室で休息していたT船長は、機関の回転数が下がったのに気付き、続いてガリガリという船体を擦る音を聞いて急ぎ昇橋したところ、清丸と衝突したことを知り海上保安部に連絡するなど事後の措置にあたった。
 また、清丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.15メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日07時00分山口県光漁港を発し、07時30分ごろ室積港南方沖合の漁場に到着し、操舵室上方に漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げて操業を開始した。
 ところで、B受審人が行う底引き網漁業は、まんがん曳きと呼ぶもので、長さ5メートルの漁網の網口に縦30センチメートル横3.5メートルの枠の下側に80本の爪が付いたものを直径9ミリメートルのワイヤロープ先端に連結したうえ、同ロープを船尾中央から約120メートル延出して3ノット前後の速力で20分ほどえい網し、海底に生息するえび、赤貝、かに、かれいなどをかき出して漁網に追い込み、その後船尾部に備えられたやぐらを使用して揚網したのち、再び投網してえい網を繰り返すというもので、えい網中に漁獲物の選別作業を行っていた。
 B受審人は、当日十数回の操業を続け、14時10分室積港灯台から174度2.3海里の地点でえい網を再開し、針路を352度に定め、舵を中央にしてえい網により針路を保持し、3.0ノットの対地速力で進行した。
 えい網とともにB受審人は、後部甲板に腰を下ろして右舷側に向いた姿勢で漁獲物の選別作業に取り掛かり、このとき左舷船首54度1.7海里に東行する幸福丸を視認でき、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、漁ろうに従事する船舶が表示する形象物を掲げて操業している自船を通航船が避けるものと思い、適宜立ち上がるなどして周囲の見張りを十分に行わなかったので、幸福丸の存在とその接近に気付かず、警告信号を行わず、更に間近に接近しても機関を使用するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 こうして、B受審人は、選別作業を続けていたところ、突然、衝撃を感じ、清丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸福丸は、右舷側後部外板に凹損を生じ、清丸は、船首部を損壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、周防灘北東部において、幸福丸が、動静監視不十分で、底引き網により漁ろうに従事している清丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、周防灘北東部を東行中、右舷前方に底引き網により漁ろうに従事中の清丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、コンパスで方位変化を確かめるなどして引き続き動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見しただけでその船首方を替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、清丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、速やかに右転するなどその進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、幸福丸の右舷側後部外板に凹損を生じさせ、清丸の船首部を損壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、周防灘北東部において、北方に向け低速力で底引き網により漁ろうに従事しながら船尾甲板上で腰を下ろし漁獲物の選別作業を行う場合、東行する幸福丸を見落とすことのないよう、適宜立ち上がるなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁ろうに従事する船舶が表示する形象物を掲げて操業している自船を通航船が避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する幸福丸に気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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