(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月5日08時48分
香川県小豆島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十一盛栄丸 |
貨物船八福吉丸 |
総トン数 |
496トン |
154トン |
全長 |
63.02メートル |
47.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
404キロワット |
3 事実の経過
第二十一盛栄丸(以下「盛栄丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取兼石材運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、石材1,300トンを積載し、船首3.6メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成14年6月5日06時50分兵庫県家島諸島男鹿島立ノ浜の係留地を発し、香川県観音寺港に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続き船橋当直に就き、同日08時30分備前黄島灯台(以下「黄島灯台」という。)から119度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点に達したとき、針路を255度に定め、機関を回転数毎分255の全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵により進行した。
08時33分A受審人は、黄島灯台から125度3.2海里の地点で、霧のため急速に視界が悪化して視程が約50メートルに狭められ、視界制限状態となったものの、安全な速力とせず、霧中信号を行わないまま、自船位置を画面の中心から船尾方に移動させた6海里レンジのレーダーを見ていたところ、正船首方5.0海里に同航船の映像及び正船首わずか左5.0海里に反航する八福吉丸の映像を探知し、その後レーダーによりこれら両船の動静を監視しながら続航した。
08時40分A受審人は、黄島灯台から146度2.5海里の地点に達したとき、八福吉丸のレーダー映像がほぼ同方向2.6海里に接近するのを認め、左舷を対して航過しようとして、自動操舵のまま徐々に右転を始めた。
08時43分A受審人は、270度に向首したころ、八福吉丸のレーダー映像を左舷船首19度1.5海里に認めることができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、自船が右転したので、同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま転針を続け、08時45分針路を280度として進行した。
08時48分わずか前A受審人は、正船首至近に八福吉丸の船橋を視認し、とっさに自動操舵のまま左舵をとり、クラッチを後進に入れたが及ばず、08時48分盛栄丸は、黄島灯台から178度2.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、八福吉丸の右舷側後部に、前方から55度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約50メートルであった。
また、八福吉丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人ほか1人が乗り組み、鋼材224トンを積載し、船首1.2メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、同日04時15分広島県福山港を発し、神戸港に向かった。
B受審人は、出航操船に引き続き船橋当直に就き、同日08時21分半黄島灯台から228度5.5海里の地点に達し、霧模様で視界が次第に悪くなる状況下、団子瀬東灯浮標を右舷正横約350メートル離して通過したとき、針路を074度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの速力で自動操舵により進行した。
08時30分B受審人は、それまで約500メートルあった視程が霧のため約50メートルに狭められ、視界制限状態となったものの、安全な速力とせず、6箇月前から故障していた汽笛が整備不良で霧中信号を行うことができないまま、自船位置を画面の中心から1.5海里船尾方に表示させた3海里レンジのレーダーをときどきのぞきながら続航した。
08時40分少し過ぎB受審人は、正船首方2.5海里に反航する盛栄丸のレーダー映像を探知し、08時43分黄島灯台から191度2.7海里の地点で、左舷船首3度1.5海里に同船のレーダー映像を認めるようになったとき、右舷前方近距離に探知した漁船らしいレーダー映像を、右舷側に十分離して替わそうとし、手動操舵に切り替え左転して針路を045度としたところ、その後盛栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、自船が大きく左転したことから同船と右舷を対して無難に航過するものと思い、盛栄丸に対しレーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、更に左舷方近距離に探知した別の漁船らしい映像の船を目視で確かめようとしながら続航した。
08時47分少し過ぎB受審人は、右舷船首27度460メートルに接近した盛栄丸のレーダー映像を認めて衝突の危険を感じ、機関を停止したものの、同映像が急速に接近するので、同船を船尾方に替わそうと再度機関を全速力前進にかけて原針路、ほぼ原速力のまま進行中、八福吉丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、盛栄丸は、バルバスバウに破口及び凹損を生じ、のち修理され、八福吉丸は、船橋前右舷側外板に亀裂及び破口を生じ、衝突の衝撃で鋼材が荷崩れを起こして右舷側に傾斜し、破口部から浸水して沈没し、のち引き揚げられて解撤された。また、B受審人が、頸椎捻挫及び腰椎捻挫等の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界制限状態となった香川県小豆島北方海域において、西行する盛栄丸が、安全な速力とせず、レーダーによる動静監視が不十分で、前路に探知した八福吉丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行する八福吉丸が、安全な速力とせず、レーダーによる動静監視が不十分で、前路に探知した盛栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧により視界制限状態となった小豆島北方海域を西行中、レーダーにより左舷船首方に反航する八福吉丸の映像を認め、左舷を対して航過しようとして右転した場合、引き続きレーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が右転したので、同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して、同船との衝突を招き、盛栄丸のバルバスバウに破口及び凹損を生じさせ、八福吉丸の船橋前右舷側外板に亀裂及び破口を生じさせて沈没させ、B受審人に頸椎捻挫及び腰椎捻挫等の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、霧により視界制限状態となった小豆島北方海域を東行中、正船首方に反航する盛栄丸のレーダー映像を認めた状況のもとで、右舷前方近距離に探知した漁船らしい映像を十分に離して替わそうと大きく左転した場合、継続してレーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が大きく左転したので盛栄丸と右舷を対して無難に航過するものと思い、盛栄丸に対しレーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。