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平成14年広審第82号
件名

プレジャーボート満潮丸プレジャーボート美鈴丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:満潮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:美鈴丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
満潮丸・・・船首部に擦過傷
美鈴丸・・・左舷中央部外板に亀裂等、のち廃船

原因
満潮丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
美鈴丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、満潮丸が、見張り不十分で、漂泊中の美鈴丸を避けなかったことによって発生したが、美鈴丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月2日11時55分
 安芸灘北部 上蒲刈島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート満潮丸 プレジャーボート美鈴丸
全長 8.62メートル 7.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 80キロワット 36キロワット

3 事実の経過
 満潮丸は、木製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人2人を乗せ、魚釣りの目的で、平成13年11月2日11時43分広島県安芸郡下蒲刈町の大地蔵漁港を発し、安芸灘の斎島周辺海域に向かった。
 ところで、満潮丸の操舵室は、甲板上高さが約1.4メートルで、中央より少し船尾側に位置し、屋根に両色灯とスピーカーが設置され、舵輪と機関操縦装置が室内前部と船尾側室外の2箇所に設置されていた。
 A受審人は、船舶所有者の知人から満潮丸の管理を任されて魚釣りに使用し、いつもはほとんど1人で釣りに出かけていたところ、この日は久しぶりに会った知人と一緒に斎島周辺でハマチなどを狙って釣りをすることとし、発航後操舵室後方少し右舷寄りに立って同室にもたれ、室外の舵輪と機関操縦装置を使用し、同室屋根ごしに前路を見張りながら操船にあたったが、両色灯とスピーカーによる死角があったほか、当時知人が2人とも船尾甲板に座っていたことから、いつもより船尾トリムが大きくなり、操舵位置から船首方向の見通しが困難となっていた。
 A受審人は、大地蔵漁港内を5ノット前後の速力で南下して同港南東方の牛ケ首の岬を左舷側至近に見て回り、11時45分半蒲刈大橋橋梁灯(C1灯)(以下「蒲刈大橋中央橋梁灯」という。)から228度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を096度に定め、機関を全速力より1,000回転ほど低い回転数毎分1,800の前進にかけ、10.7ノットの対地速力で進行した。
 定針後A受審人は、増速によってさらに船首が浮上し、操舵室の屋根による死角のため船首方向の他船を視認できなくなり、そのころ上蒲刈島沖合に数隻の釣り船が散在していたが、左舷側近距離に停船していた釣り船を見て、船尾甲板に座っていた同乗者と雑談し、操舵室屋根ごしに見張りをしながら操舵にあたった。
 11時53分A受審人は、蒲刈大橋中央橋梁灯から168度1.1海里の地点に達したとき、正船首方向660メートルのところに美鈴丸が漂泊中で、その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが、屋根ごしに前方を見ただけで前路に他船はいないと思い、船首を左右に振るとか見張りの位置を移動するなどして操舵室屋根の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、同船を避けることなく続航し、11時55分満潮丸は、蒲刈大橋中央橋梁灯から152度1.3海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、美鈴丸の左舷中央部に90度の角度で衝突し、同船甲板上に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で弱い北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は、衝撃を感じて直ちに機関を停止し、美鈴丸の乗船者を救助したあと、同船を引いて大地蔵漁港に帰港した。
 また、美鈴丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、知人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時40分広島県豊田郡川尻町の定係地を発し、上蒲刈島と下蒲刈島の間の三之瀬瀬戸を通航し、同時55分ごろ牛ケ首東方約1.7海里のところに至り、機関を中立回転にかけたままクラッチを外し、その後漂泊しながら同乗者とともにコウイカ釣りを始めた。
 11時50分B受審人は、昼食をとることとし、それまで運転していた機関を止めて釣りを中断し、船尾甲板で持参したカップ麺に熱湯を入れて昼食の準備にとりかかった。そして、同時53分前示衝突地点で、006度に向首して漂泊していたとき、左舷正横660メートルに満潮丸を視認することができ、その後自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、昼食の準備に気を奪われて周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、満潮丸が自船を避けないまま間近に近づいても備え付けの電気ホーンを使用して注意喚起信号を行わず、速やかに機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらなかった。
 B受審人は、間もなく船尾甲板に座って食事を始め、11時55分わずか前ふと左舷側を見て至近に迫った満潮丸に気付き、中央部にいた同乗者に船首側に逃げるよう告げ、衝突を避けるため機関を始動しようとしたとき、美鈴丸は、006度を向いたまま漂泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、満潮丸は船首部に擦過傷が生じ、美鈴丸は左舷中央部外板に亀裂が生じるとともにオーニング展張用ステイ及び操舵スタンドなどが破損し、のち廃船とされた。

(原因)
 本件衝突は、安芸灘北部の上蒲刈島南方沖合において、満潮丸が、釣り船が散在する海域を釣り場に向けて航行中、見張り不十分で、漂泊中の美鈴丸を避けなかったことによって発生したが、美鈴丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、安芸灘北部の上蒲刈島南方沖合において、操舵室後方に立って操舵しながら釣り船が散在する海域を航行する場合、船尾トリムと航走時の船首浮上とによって生じた操舵室屋根の死角のため、船首方向の見通しが困難であったから、前路で漂泊中の美鈴丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るとか見張り位置を移動するなどして操舵室屋根の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操舵室後方右舷寄りの位置に立ったまま、屋根ごしに前方を見ただけで前路に他船はいないと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、美鈴丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、満潮丸の船首部に擦過傷を、美鈴丸の左舷中央部外板に亀裂及びオーニング展張用ステイなどに破損などの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 B受審人は、安芸灘北部の上蒲刈島南方沖合において、漂泊しながら魚釣りを行う場合、自船に向首したまま接近する満潮丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、釣りの合間に昼食をとることとし、その準備に気を奪われて周囲の見張りを十分に行わず、注意喚起信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図
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