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平成14年神審第60号
件名

プレジャーボートヒロミ
プレジャーボートエスピーエックス−ヨシ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月12日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(前久保勝己、阿部能正、内山欽郎)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:ヒロミ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:エスピーエックス−ヨシ所有者 

損害
ヒロミ・・・右舷中央部に破口
エ 号・・・船首部に擦過傷
操縦者が溺水により死亡

原因
エ 号・・・見張り不十分、無資格者運航、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
ヒロミ・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、エスピーエックス−ヨシが、有資格者を乗り組ませなかったばかりか、見張り不十分で、ヒロミとの衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ヒロミが、見張り不十分で、エスピーエックス−ヨシとの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月20日10時20分
 滋賀県琵琶湖

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートヒロミ プレジャーボートエスピーエックス−ヨシ
登録長 4.82メートル 2.30メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 139キロワット 69キロワット

3 事実の経過
 ヒロミは、カナダのボンバルディア社が製造した、最高速力が毎時約90キロメートル(以下「キロ」という。)のウォータージェット推進によるFRP製プレジャーボートで、船体中央部右舷寄りに操縦席を有していた。
 A受審人は、友人5人と共にヒロミなど数隻のプレジャーボートに分乗し、レジャーの目的で、平成12年8月20日09時30分ごろ滋賀県近江八幡市の牧水泳場に着き、同水泳場沖合で繰り返し遊走したのち、ヒロミに乗艇して遊走することとした。
 A受審人は、ヒロミの操縦席に座り、友人1人を同席左方の助手席に座らせ、船首尾共0.3メートルの喫水をもって、10時19分37秒牧水泳場南方の岡山三角点(標高187.7メートル)から354度(真方位、以下同じ。)445メートルの地点を発進し、針路を000度として沖合に向け、毎時15.0キロの対地速力で進行した。
 発進後、A受審人は、接近する他船はいないと思い、右後方の見張りを十分に行わなかったので、10時19分39秒エスピーエックス−ヨシ(以下「エ号」という。)が右舷船尾82度105メートルの地点を発進し、その後衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、速やかに転舵したり増速したりして、エ号との衝突を避けるための措置をとることなく続航中、10時20分00秒岡山三角点から355度540メートルの地点において、原針路原速力のままのヒロミの右舷中央部に、エ号の船首が後方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、エ号は、カナダのボンバルディア社が製造した、最大とう載人員2人のウォータージェット推進によるFRP製水上オートバイで、船体中央部に備えた操縦ハンドルで船尾ノズルの方向を変えることにより旋回し、同ハンドル右側のスロットルレバーの引き具合により速力調整を行うようになっていた。
 B指定海難関係人は、婚約者のEほか10人ばかりと共に、エ号ほか5隻の水上オートバイを自動車に載せ、レジャーの目的で、同日08時ごろ牧水泳場に到着した。
 ところで、B指定海難関係人は、海技免状を受有しておらず、また、Eも海技免状を受有していないことを知っていたものの、平成11年夏にエ号を購入してからこれまで、遊走に出かける際、10回ばかり同人を同行させてエ号の操縦を行わせていた。
 B指定海難関係人は、09時ごろからエ号を着水させて牧水泳場沖合で繰り返し遊走したのち、10時18分同乗者1人を乗せて水際付近に戻ってエ号から降りたところ、それまで浜辺で遊んでいたEが救命胴衣を着けてエ号に乗艇したので、同人が間もなく遊走を開始する状況であることを知ったが、有資格者を乗り組ませなかった。
 E(以下「E操縦者」という。)は、同乗者1人を座席前方に座らせ、その後方の座席を跨いで立ったまま、同乗者越しに操縦ハンドルを握り、10時19分39秒岡山三角点から007度440メートルの地点を発進し、針路を315度として沖合に向け、毎時25.0キロの対地速力で進行した。
 発進したとき、E操縦者は、北上中のヒロミが左舷船首37度105メートルのところに存在し、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、エ号の後を追うようにして発進した仲間の水上オートバイに気を取られたためか、前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、エ号は、速やかに転舵したり停止したりするなど、ヒロミとの衝突を避けるための措置がとられることなく続航中、10時20分直前E操縦者が前方至近にヒロミを認めたものの、どうすることもできず、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ヒロミは、右舷中央部に破口を生じ、エ号は、船首部に擦過傷を生じ、操縦者及び同乗者が衝撃で水中に投げ出され、間もなくB指定海難関係人らに救助されて病院に搬送されたが、E操縦者(昭和51年8月10日生)が溺水により死亡した。

(原因)
 本件衝突は、滋賀県琵琶湖南岸の牧水泳場において、エ号が、有資格者を乗り組ませなかったばかりか、見張り不十分で、ヒロミとの衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ヒロミが、見張り不十分で、エ号との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、滋賀県琵琶湖南岸の牧水泳場において、沖合に向けて遊走する場合、右後方から接近するエ号を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、エ号の存在と接近に気付かず、速やかに転舵したり増速したりして、エ号との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、ヒロミの右舷中央部に破口を、エ号の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせ、エ号の操縦者が溺水により死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、滋賀県琵琶湖南岸の牧水泳場において、エ号に有資格者を乗り組ませなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後エ号を売却処分し、無資格で乗り組まないようにした点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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