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平成14年神審第45号
件名

貨物船第七青龍丸引船第二共栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月12日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、大本直宏、黒田 均)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:第七青龍丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二共栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
青龍丸・・・船首部外板に擦過傷
共栄丸・・・左舷後部外板に破口、浸水し、沈没、のち廃船
船長が左手関節部に裂傷

原因
青龍丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
共栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第七青龍丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第二共栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二共栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月18日10時40分
 大阪港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七青龍丸 引船第二共栄丸
総トン数 499トン 18.45トン
登録長 63.34メートル 14.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 99キロワット

3 事実の経過
 第七青龍丸(以下「青龍丸」という。)は、船橋から船首端まで約50メートルの船尾船橋型の鋼製砂利採取運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、山砂200立方メートルを載せ、船首1.5メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成14年1月18日10時10分大阪港大阪第3区の日本セメント水揚岸壁を発し、同港大阪第2区の東洋埠頭岸壁へ向かった。
 A受審人は、離岸操船に引き続き単独で港内操船にあたり、木津川を下航したのち西行し、10時35分少し前大阪北港口防波堤灯台(以下「港口防波堤灯台」という。)から108度(真方位、以下同じ。)1,420メートルの地点で、針路を296度に定め、機関を微速力前進にかけ、6.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 A受審人は、定針後、右舷方の中央突堤越しに、安治川を下航する仕事仲間の第一進洋丸(以下「第3船」という。)を同突堤上建造物の合間から時々見かけたので、同船の動向を気にしながら続航した。
 10時36分半A受審人は、港口防波堤灯台から106度1,070メートルの地点に達し、間もなく中央突堤先端を右方に替わるとき、第3船が同先端越しに現れ、このとき、右舷船首64度720メートルのところに、南下中の第二共栄丸(以下「共栄丸」という。)を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、右方から接近する第3船の動向に気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、共栄丸の存在及び接近模様に気付かなかった。
 A受審人は、共栄丸の進路を避けずに同じ針路速力で進行し、自船の船尾方を替わる第3船の動静を目で追っていたとき、船尾甲板にいた機関長から船首方に船がいる旨の報告を受けて船首方を振り向き、10時40分少し前右舷船首至近に迫った共栄丸を初めて認め、右舵一杯とするとともに、汽笛を吹鳴し機関を全速力後進としたが及ばず、10時40分港口防波堤灯台から080度370メートルの地点において、青龍丸は、337度に向いて5.0ノットの速力となったその船首部が、共栄丸の左舷後部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、共栄丸は、大阪湾内の各港間を活動範囲とする船首船橋型の鋼製引船で、B受審人が1人で乗り組み、はしけを曳航する目的で、船首1.0メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日10時20分大阪港大阪第2区の天保山運河の定係地を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港へ向かった。
 B受審人は、天保山運河を出て安治川を下航し、10時32分半わずか前港口防波堤灯台から063度1,890メートルの地点で、針路を237度に定め、機関を7.0ノットの全速力前進にかけ、手動操舵により進行した。
 B受審人は、右舷前方の梅町岸壁沖合に錨泊している2隻のはしけを認め、1隻の引船が接舷し待機している様子であったので、間もなく大型船が前方の内港航路に進入してくるものと予想し、前方の見張りを特に気に掛けながら続航した。
 10時36分半B受審人は、港口防波堤灯台から068度1,110メートルの地点に達したとき、左舷船首57度720メートルのところに、西行中の青龍丸を視認することができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、右舷方の錨泊船や前方のみに気を取られ、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、青龍丸の存在及び接近模様に気付かなかった。
 10時38分半B受審人は、港口防波堤灯台から074度680メートルの地点で、針路を247度に転じたものの、依然として青龍丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航し、同時40分わずか前汽笛を聞いて左舷後方を振り向いたとき、至近に迫った青龍丸を初認したが、どうすることもできず、共栄丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、青龍丸は、船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、共栄丸は、左舷後部外板に破口を生じて浸水し、天保山岸壁へ向けて航行開始後間もなく沈没し、のち引き揚げられて廃船処分された。また、B受審人は、左手関節部に全治2週間の裂傷を負った。

(航法の適用)
 本件は、大阪港大阪第2区において、西行中の青龍丸と南下中の共栄丸とが衝突したものであるが、港則法の適用水域であるので、まず、同法について検討する。
 港則法第18条第1項には、雑種船における航法の規定がある。雑種船の定義は、同法第3条に、「汽艇、はしけ及び端舟その他ろかいのみをもって運転し、又は主としてろかいをもって運転する船舶をいう。」と規定され、法の解釈及び判例を総合すると、汽艇については、主として港内をその活動範囲とする小型船になる。
 共栄丸は小型船に相当するものの、事実で示したとおり、大阪湾内の各港間を活動範囲としていることから雑種船とは認められず、同法第18条の適用はない。
 港則法には、他に適用すべき航法がないので、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の適用について検討する。
1 第3船の存在
 第3船は、青龍丸と明確な方位変化があり、共栄丸と互いの針路が交差しておらず、いずれも衝突のおそれがなかったのであるから、第3船の存在は、予防法における定型航法の適用を妨げることにならない。
2 共栄丸が衝突1分半前に転針したことが予防法における定型航法の適用に及ぼす影響について
 共栄丸が衝突の1分半前に転針しないで原針路のまま進行した場合、10時40分ごろその船首部が青龍丸の右舷側後部に衝突する相対位置関係であった。
 同位置関係において、衝突の3分半前及び1分半前における青龍丸から共栄丸を見る方位及び距離は、次のとおりである。

10時36分半 右舷船首64度 720メートル
10時38分半 右舷船首66度 300メートル

一方、共栄丸は衝突の1分半前まで原針路、原速力のまま進行していることによって、両船の方位変化は1分間に約1度で、近距離でもあり、明確な方位変化とはいえず、衝突するおそれがあると判断しなければならない状況であったものと認められる。よって、共栄丸が衝突の1分半前に転針したことは、予防法における定型航法の適用を妨げることにならない。
3 衝突の3分半前まで両船が互いに相手船を視認し得ない地形的環境であることが 青龍丸の避航動作に及ぼす影響について
 両船が互いに初認し得たときの距離が720メートルで、その1分後に510メートルの距離となったのであるが、視認し得る態勢となったときに認めていれば、相手船の態勢を判断するにあたって、時間 的に十分な余裕があり、両船の船舶の大きさ及び青龍丸の操縦性能等 からして、同船は共栄丸の進路を避けるための動作をとる余裕水域があったと認められる。したがって、衝突の3分半前まで両船が互いに相手船を視認し得ない地形的環境であることは、青龍丸の避航動作を妨げることにならない。
4 第3船の存在が青龍丸の避航動作に及ぼす影響について
 青龍丸、共栄丸及び第3船の相対位置関係において、衝突の3分半前から衝突までの間に、第3船を挟んで共栄丸及び青龍丸が直線上に重なることが無かったので、青龍丸から共栄丸が第3船の陰に隠れて見えなくなる状況は発生しない。次に、青龍丸が共栄丸の進路を避けるために右転すれば、右転の程度によっては第3船と新たな衝突のおそれを生ずることとなることも考えられる。ところが、青龍丸は、大幅な右転もしくは減速又は減速と右転の併用によって、共栄丸及び第3船のいずれも避航できるのであるから、この第3船の存在によって、共栄丸に対する避航動作が妨げられることはない。
 一方、共栄丸にとって、事実認定のとおり、第3船の存在及び地形的環境等によって、同船の針路及び速力の保持義務を妨げられる要素は存在しない。
 したがって、本件は、両船とも行動の自由を制約されず、かつ、避航動作をとる十分な余裕がある衝突の3分半前を航法適用の時機としてとらえ、予防法第15条の横切り船の航法を適用して律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、大阪港大阪第2区において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、西行中の青龍丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る共栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の共栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独で港内操船にあたり、大阪港大阪第2区内を西行する場合、南下中の共栄丸を見落とさないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右方から接近する第3船の動向に気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する共栄丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部外板に擦過傷を、共栄丸の左舷後部外板に破口を生じさせて浸水させ、また、B受審人の左手関節部に裂傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、単独で操船にあたり、大阪港大阪第2区内を南下する場合、西行中の青龍丸を見落とさないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大型船が前方の内港航路に進入してくるものと予想していたことから、右舷方の錨泊船や前方のみに気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する青龍丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らが前示の傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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