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平成14年横審第52号
件名

貨物船大国丸漁船正昭丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月29日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:大国丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:正昭丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大国丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
正昭丸・・・右舷船首部を圧壊

原因
正昭丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大国丸・・・警告信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は、正昭丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路でほぼ停留している状態の大国丸を避けなかったことによって発生したが、大国丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月22日21時05分
 千葉県布良鼻西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船大国丸 漁船正昭丸
総トン数 498トン 4.93トン
全長 74.43メートル  
登録長 9.95メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 220キロワット

3 事実の経過
 大国丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、大豆粕(かす)1,203トンを積み、船首3.15メートル船尾4.55メートルの喫水をもって、平成12年12月22日18時00分京浜港横浜区を発し、航行中の動力船の灯火を表示して釧路港に向かった。
 A受審人は、19時45分に昇橋して20時00分に船橋当直を引き継ぎ、同時35分布良鼻灯台(めらばなとうだい)から300度(真方位、以下同じ。)7.2海里の地点で、針路を146度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
 20時50分A受審人は、布良鼻灯台から287度5.0海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首7度4.0海里のところに、正昭丸が表示した白、緑、紅3灯を初めて認め、更にその右方約30度の間に4隻の漁船らしき船舶(以下「漁船群」という。)が表示する航行中の動力船が表示する灯火及び左舷船首10度1.8海里のところに反航する貨物船が表示する同灯火をそれぞれ認め、これらの灯火の動静監視を行いながら続航した。
 20時59分A受審人は、布良鼻灯台から277度4.2海里の地点に達したとき、右舷船首8度1.4海里のところに、方位に明確な変化のないまま、衝突のおそれのある態勢で互いに接近する正昭丸を認めたが、同船の右舷側には漁船群が、左舷側には反航貨物船がそれぞれ行き会う態勢で接近しており、自ら転舵による避航動作をとることができなかったため、正昭丸に対して探照灯の照射による注意喚起信号を行えば、自船の状況に気づいて避航動作をとってくれるものと思い、汽笛による警告信号を行うことなく、正昭丸に向けて探照灯を直接照射したり、点滅照射したりして避航を促すとともに、機関を半速力前進に減じ、6.2ノットの速力で、同じ針路のまま進行した。
 21時03分A受審人は、布良鼻灯台から272.5度4.0海里の地点に達し、正昭丸が右舷船首8度550メートルに接近したとき、同船との衝突の危険を感じたが、転舵による避航動作をとることができなかったので、引き続き探照灯を照射しながら、行きあしを止めて正昭丸を含む漁船群の航過を待つこととし、手動操舵に切り替え、機関を中立としてほぼ停留した状態となり、その後左舷側の反航貨物船が左舷正横約550メートルを航過したので、左舵一杯としたが及ばず、21時05分布良鼻灯台から272.5度4.0海里の地点において、大国丸は、船首が117度を向き、1.0ノットの残存速力になったとき、正昭丸の船首が、右舷船首部に前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 また、正昭丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、きんめだい漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日14時10分神奈川県三崎港を発し、千葉県布良鼻南方沖合約6海里の漁場に向かい、16時10分ごろ同漁場に至って操業を始めた。
 20時20分B受審人は、布良鼻灯台から191度6.5海里の地点で、操業を終えて帰途に就くこととし、航行中の動力船の灯火を表示し、付近で操業していた4隻の僚船と相前後して同地点を発進し、船体中央やや船尾寄りにある操舵室の前部右舷側に設けた背もたれ付きのいすに腰掛け、針路を337度に定め、機関を全速力前進が回転数毎分2,200のところ同毎分1,800にかけ、9.5ノットの速力で、自動操舵によって進行した。
 20時50分B受審人は、布良鼻灯台から236度3.7海里の地点に差し掛かり、同灯台を右舷正横少し前に認めたとき、左舷船首4度4.0海里のところに、大国丸が表示した灯火を認めることができる状況であったが、操業時に暴露甲板で寒気に曝されて(さらされて)いたことから、操舵室に入っていすに腰掛けたところ、同室内が機関の余熱で暖かく、前後に僚船が航行していることや、帰途に就いたことで気が緩み、眠気を催したものの、三崎港までの海域が船舶の輻輳(ふくそう)する海域なので、まさか居眠りをすることはあるまいと思い、窓を開けて外気にあたり、気を引き締めて前路の見張りに当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、大国丸に気づかず、いすに腰掛けたまま続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
 20時59分B受審人は、布良鼻灯台から259度3.7海里の地点で、左舷船首3度1.4海里のところに、方位に明確な変化のないまま、衝突のおそれのある態勢で互いに接近する大国丸を認めることができ、かつ、このとき同船が自船に向けて探照灯を照射し、避航を促すための注意喚起信号を行っていることも認めることができる状況であったが、居眠りに陥っていてこのことに気づかず、同じ針路、速力で進行した。
 21時03分B受審人は、布良鼻灯台から268度3.9海里の地点で、大国丸の方位が変わらないまま550メートルに接近したとき、同船が引き続き自船に向けて探照灯を照射しながら、ほぼ停留している状態となったが、依然、居眠りに陥っていてこのことに気づかずに続航中、正昭丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大国丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じただけであったが、正昭丸は右舷船首部を圧壊し、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、千葉県布良鼻西方沖合において、操業を終え、三崎港に向けて帰航中の正昭丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路でほぼ停留している状態の大国丸を避けなかったことによって発生したが、大国丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、千葉県布良鼻西方沖合において、操業を終え、三崎港に向けて帰航中、眠気を催した場合、同港までの海域が船舶の輻輳する海域であったから、居眠り運航とならないよう、窓を開けて外気にあたり、気を引き締めて前路の見張りに当たるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、まさか居眠りをすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、前路でほぼ停留している状態の大国丸に気づかず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、大国丸の右舷船首部外板に擦過傷及び正昭丸の右舷船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 A受審人は、夜間、千葉県布良鼻西方沖合において、衝突のおそれのある態勢で接近する正昭丸を認め、同船の右舷側に漁船群、左舷側に反航貨物船がそれぞれ行き会う態勢で接近し、自ら転舵による避航動作をとることができず、行きあしを止めて正昭丸を含む漁船群の航過を待つこととした場合、正昭丸に対して汽笛による警告信号を行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、正昭丸に対して探照灯の照射による注意喚起信号を行えば、自船の状況に気づいて避航動作をとってくれるものと思い、汽笛による警告信号を行わなかった職務上の過失により、機関を中立としてほぼ停留した状態で正昭丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図





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