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平成14年横審第76号
件名

プレジャーボートドルフィン
プレジャーボートシーフ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月26日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、原 清澄、小須田 敏)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:ドルフィン船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
ドルフィン・・・擦過傷
シーフ・・・右舷側サイドミラーを破損
同乗者が2箇月間の入院加療を要する脳挫傷等

原因
ドルフィン・・・船員の常務(船間距離)不遵守

主文

 本件衝突は、ドルフィンが、前路を航行するシーフとの船間距離を十分に確保しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月6日13時10分
 千葉県江戸川

2 船舶の要目

船種船名 プレジャーボートドルフィン プレジャーボートシーフ
全長 4.91メートル 2.86メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 128キロワット 89キロワット

3 事実の経過
(1)ドルフィン
 ドルフィンは、アメリカ合衆国シュガー サンド マリン社製のFRP製船体に、同国マーキュリー社製のスポーツジェットエンジンと称する機関を搭載し、最高速力が毎時90キロメートルのウォータージェット推進装置を装備したミラージュ・スーパースポーツと称するモーターボートで、最大搭載人員が5人であった。
 また、ドルフィンは、操縦席が船体中央部右舷側にあり、同席右横にスロットルレバーが取り付けられ、同レバーを中立にするとわずかに前進するものの舵効が十分に得られないことや、リバースゲートを降下させて船体を後進させるときには、同レバー頭頂部直下のロック金物を引き上げながら後方に倒さなければならないことなど操船上の注意が必要であった。
(2)シーフ
 シーフは、ヤマハ発動機株式会社製で、連続最大回転数毎分6,750の2サイクル3シリンダの機関を搭載し、ウォータージェット推進装置を装備したヤマハマリンジェットMJ-1200GPと称するFRP製水上オートバイで、最大搭載人員が2人であった。
(3)江戸川
 江戸川は、東京都江戸川区篠崎町と千葉県市川市稲荷木との間に架けられた江戸川大橋の下流約400メートルのところで二股に分かれており、東側下流の江戸川放水路には増水時に増水分の水量を東京湾に放水するときを除いて常時閉鎖されている行徳可動堰(せき)が、また、西側下流の旧江戸川には渇水時に海水の遡上(そじょう)を防ぐために閉鎖するときを除いて常時開放されている江戸川水門及び江戸川水閘門(こうもん)が、それぞれ分岐部付近に設けられていた。一方、江戸川大橋付近から上流側で東京都葛飾区金町浄水場付近までは、左右両岸の河川敷を除く川幅が、狭いところで約100メートル、広いところで約200メートルになっており、上流に向かって順にJR総武本線鉄道橋、国道第14号線市川橋、京成電鉄京成本線鉄道橋及び北総開発鉄道江戸川橋梁(以下「北総線鉄橋」という。)が架けられていた。このため、江戸川において遊走するプレジャーボートは、江戸川大橋の下流側に高速で遊走するための十分な水域が得られないことから、上流側において、前示各橋の下を通過する際に減速するなどして注意深く遊走していた。
 北総線鉄橋は、葛飾区と千葉県松戸市との間に築造された5基の橋脚上に架けられており、江戸川の川筋には1基の橋脚が、川幅130メートルのほぼ中央部に上流に向かって327.5度(真方位、以下同じ。)方向に築造されていた。同橋脚は、東京東防波堤灯台から019.5度9.0海里の地点にあたる、江戸川左岸側川筋に設けられた矢切第一取水塔(以下「基点」という。)から309.5度200メートルの地点を中心として、長さ12.5メートル、幅4.6メートル、東京湾平均海面上の桁下高さが約11メートルで、同左岸までの川幅を60メートルに狭めていた。
(4)本件発生に至る経緯
 ドルフィンは、A受審人が1人で乗り組み、遊走の目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成12年8月6日12時40分わずか前東京東防波堤灯台から035.5度7.2海里の地点にあたる、江戸川右岸の江戸川区篠崎一丁目の護岸を発し、同川の上流に向かった。
 これより先、A受審人は、I船舶所有者から江戸川での遊走の誘いを受け、友人のY(四級小型船舶操縦士免状受有)とともに参加したもので、同日11時30分ごろから同船舶所有者が陸送してきたドルフィン、シーフ両船を、Y友人と交互に乗り換えては遊走を行い、ドルフィンの操船要領や操船上の注意事項を体得し、12時ごろから参加者全員が集まって昼食を摂ったのち、シーフに先立って発航に至ったものであった。
 発航後、A受審人は、操縦席に腰掛けて前路の見張りに当たり、舵輪とスロットルレバーとを操作して針路、速力を適宜変更し、Y友人が船長として同乗者1人を乗せて後から発航したシーフと相前後しながら、手動操舵によって江戸川を上航した。
 13時09分20秒A受審人は、基点から295.5度100メートルの地点に至り、北総線鉄橋まで100メートルの距離になったとき、右舷前方約35メートルのところにシーフが上航していたが、このあたりで発航地点に戻ることとして左回頭を開始したところ、同船が依然として同鉄橋に向かって航行しているのを認めたので、同船に後続して引き続き上航することとし、回頭を続けた。
 13時09分30秒A受審人は、基点から310.5度100メートルの地点に至ったとき、北総線鉄橋の下を通過したシーフを正船首110メートルに認め、針路を同船と同じ318度に定め、推進装置を半速力前進にかけ、毎時40キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)で、同船の真後ろを同鉄橋下に向かって進行した。
 13時09分40秒A受審人は、基点から314.5度210メートルの地点に達し、正船首55メートルにシーフを認めるようになったとき、同船が減速しているように見えたことから、自船も減速することとし、推進装置を微速力前進として毎時30キロメートルの速力に減じたものの、このまま続航すると、シーフに衝突のおそれがある態勢で著しく接近する状況であったが、同船との船間距離が約20メートル以下になったら左転すれば安全に航過できるものと思い、直ちに左転するなり、更に減速するなりして前路を航行するシーフとの船間距離を十分に確保することなく、同じ針路のまま同船を追走する態勢で進行した。
 13時09分50秒A受審人は、基点から315.5度295メートルの地点に達し、正船首30メートルにシーフを認めるようになったとき、もう少し接近したら左転することとして江戸川右岸の葛飾区柴又あたりの景色に目を移し、同時09分55秒前路に目を戻したとき、正船首15メートルにシーフを認め、同船に著しく接近する状況になったことを認めて衝突の危険を感じ、慌ててスロットルレバーを中立とし、引き続きシーフを右方に替わそうとして左舵をとったが、船首がわずかに左方に振れたものの、十分な舵効を得ることができず、更に同船に接近するため、急いで推進装置を後進にかけて行きあしを止めようとしたところ、焦って(あせって)後進時に必要なスロットルレバー頭頂部直下のロック金物を引き上げることを失念し、同レバーを後進側に倒そうとしたが倒れず、推進装置を後進にかけることができずに続航中、13時10分東京東防波堤灯台から018度9.1海里の地点において、ドルフィンは、船首が293度に向いたとき、原速力のまま、その船首が、シーフの右舷船尾に後方から25度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、下流に向かって緩やかな河川流があった。
 A受審人は、衝突直後にドルフィンの行きあしが止まったとき、シーフから投げ出されたY船長及び同乗者が川面にうつ伏せになって浮いているのを認め、急いで川に飛び込み、両人を仰向けにして付近で遊走中のプレジャーボートに救助を求め、事後の措置に当たった。
 また、シーフは、Y船長が1人で乗り組み、I船舶所有者が経営する会社の従業員1人を同乗者として後部座席に乗せ、遊走の目的で、船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって、同日12時40分ドルフィンに続いて同じ発航地点を発し、同船と相前後しながら、江戸川の上流に向かった。
 13時09分20秒Y船長は、基点から312度120メートルの地点で、針路を318度に定め、推進装置を半速力前進にかけ、毎時40キロメートルの速力で、北総線鉄橋の下に向かって進行した。
 13時09分30秒わずか前Y船長は、基点から314度185メートルの地点に達したとき、北総線鉄橋の下を安全に通過するため、推進装置を微速力前進として毎時20キロメートルの速力に減じ、同じ針路で続航した。
 Y船長は、13時09分30秒基点から314.5度210メートルの地点に達したとき、ドルフィンが正船尾110メートルのところで自船を追走する態勢となり、その後自船との船間距離を十分に確保することなく、衝突のおそれがある態勢で著しく接近する状況であったが、同船に気づかないまま同じ針路、速力で進行中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ドルフィンは、修理の必要がない程度の擦過傷を生じ、シーフは、右舷側サイドミラーに破損を生じたが、のち修理され、シーフ同乗者が2箇月間の入院加療を要する脳挫傷、外傷性くも膜下出血、急性脳腫脹及び頚髄頚椎損傷を負った。
 A受審人は、本件後、シーフ同乗者の入院費を含む治療費及び休業補償などの支払について、全額を自己負担した。

(原因)
 本件衝突は、千葉県江戸川において、ドルフィンが、前路を航行するシーフを正船尾から追走中、船間距離の確保が不十分で、シーフに著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県江戸川において、前路を航行するシーフを正船尾から追走する場合、同船に著しく接近することがないよう、同船との船間距離を十分に確保するべき注意義務があった。ところが、同受審人は、シーフとの船間距離が約20メートル以下になったら左転すれば安全に航過できるものと思い、シーフとの同距離を十分に確保しなかった職務上の過失により、シーフに著しく接近する状況になったことを認めて衝突の危険を感じた際、慌ててスロットルレバーを中立とし、引き続き同船を右方に替わそうとして左舵をとったところ、同レバーが中立になっていたので十分な舵効を得ることができず、急いで推進装置を後進にかけて行きあしを止めようとしたものの、同レバーの操作を誤り、同装置を後進にかけることができないまま進行してシーフとの衝突を招き、ドルフィンに擦過傷を、シーフの右舷側サイドミラーに破損をそれぞれ生じさせ、シーフの同乗者に2箇月間の入院加療を要する脳挫傷、外傷性くも膜下出血、急性脳腫脹及び頚髄頚椎損傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1





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