(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月23日15時30分
遠州灘西部
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船日昇丸 |
漁船兼進丸 |
総トン数 |
199トン |
14トン |
全長 |
57.14メートル |
21.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
588キロワット |
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漁船法馬力数 |
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160 |
3 事実の経過
日昇丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人のほか1人が乗り組み、鋼材48トンを積載し、船首1.6メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成13年11月22日11時30分広島県呉港を発し、京浜港東京区に向かった。
ところで、A受審人は、B指定海難関係人と2人の6時間交代で、自らが05時30分から11時30分までと17時30分から23時30分まで、同指定海難関係人が00時30分から05時30分までと23時30分から05時30分のそれぞれ単独による船橋当直を行うこととしていた。
A受審人は、翌23日11時30分ごろ三重県三木埼の東方の海域に至って、B指定海難関係人に船橋当直を委ねることとしたが、同指定海難関係人が丙種甲板部航海当直部員の認定を受けており、普段から単独の同当直を行っていたので、具体的な注意事項を指示することもないと思い、周囲の他船の動静監視を十分に行い、接近する他船がある場合には、直ちに報告するよう指示を徹底することなく、針路についてのみ引き継いで降橋した。
B指定海難関係人は、当直を交代したのち熊野灘を北上し、13時28分大王埼灯台から140度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点にて、針路を065度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、遠州灘西部を自動操舵により進行した。
15時06分少し過ぎB指定海難関係人は、神島灯台から130度16.8海里の地点に達したとき、右舷前方5海里に兼進丸を初めて視認したが、まだ距離があると思い、特に注意を払わずにいたところ、同時25分少し前右舷前方約1.5海里の同船を一瞥(いちべつ)するとその右舷側が見えたので、自船の右舷方を通過するものと思い、その後の同船の動静を十分に監視しなかった。
15時27分B指定海難関係人は、神島灯台から120度18.4海里の地点で、右舷船首38度1.0海里に、この少し前伊良湖岬に向けて航走を開始した兼進丸が前路を左方に横切る態勢となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、引き続き同船の動静を十分に監視していなかったので、このことに気付かないまま続航した。
15時28分半A受審人は、兼進丸が右舷船首38度1,000メートルに接近していたが、B指定海難関係人から報告を受けなかったので、操船の指揮をとることができず、同船の針路を避けることなく進行し、同時30分少し前B指定海難関係人が至近に迫った兼進丸を視認したものの、どうすることもできず、15時30分日照丸は神島灯台から19度18.6海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が兼進丸の左舷船首部に前方から61度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、自室で休んでいたところ、船体に衝撃を感じたので、急いで昇橋して兼進丸に衝突したことを知り、海上保安部に通報するなど事後の措置に当たった。
また、兼進丸は、船体中央部に操舵室、その後方にトロールウィンチを設けたFRP製漁船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか1人が乗り組み、けんさきいか漁の目的で、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、汽笛が故障したままで、12月23日02時30分愛知県西幡豆漁港鳥羽地区を発し、04時30分遠州灘西部の漁場に到着した。
ところで、C受審人は、平成8年末から兼進丸の甲板員として雇入契約の公認をうけていたが、同12年5月に海技免状を取得後、同契約の職務を変更しないまま、船長として同船の運航に当たっていた。
D指定海難関係人は、操業の指揮をとって漁場を東西に往復して底引網漁を行い、14時40分ごろこの日の最終となる5度目の引網を終了し、機関を中立としてから操舵室を出て、トロールウィンチの前方で操舵室の後部壁面外側の右舷側に設置した舵輪、クラッチ、スロットル及び同ウィンチを操作して揚網を開始した。
15時06分少し過ぎD指定海難関係人は、神島灯台から120度20.3海里の地点で左舷前方5海里に日昇丸を視認できる状態であったが、揚網に集中していて、これに気付かず、同時12分網が引き揚げられて漁獲物が船尾甲板に取り出されたあと、帰港に先立って、空になった魚網を海中に戻し、伊良湖岬に船首を向け、機関を微速力前進にかけ、約6ノットの速力として洗網を開始した。
15時22分D指定海難関係人は、洗網を終えて、機関を一旦(いったん)中立とし、トロールウィンチで網を巻き取っていったが、網の左右を均等に巻き込むために、ときどき機関などを適宜使用して船首を左右に振りながら網の揚収を続けた。
15時27分少し前D指定海難関係人は、網の揚収を終えたので、操舵室に戻って機関を前進に入れ、スロットルを徐々に上げて伊良湖岬に向けて航走を開始したが、後部甲板のトロールウィンチのブレーキが緩んでいることが気に掛かり、同ブレーキの調整のための道具を準備していて周囲の見張りを行わなかった。
C受審人は、機関が前進にかけられ増速されていったので、自船が帰途についたことを知ったものの、漁獲物の仕分けが終わるまでの操船を引き続き同指定海難関係人に任せることとしたが、自分より操船経験が豊富だから具体的な指示を与えなくても問題ないと思い、周囲の見張りを十分に行い、接近する他船があるときは、直ちに報告するように指示を徹底することなく、後部甲板で船首方を向いて漁獲物の仕分けを続けた。
15時27分D指定海難関係人は、神島灯台から119度19.4海里の地点にて、針路を306度に向け、機関を16.0ノットの全速力前進としたとき、左舷船首23度1.0海里に日昇丸が前路を右方に横切り、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する態勢となったが、依然周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、トロールウィンチのブレーキを調整することとし、操舵室を出て後に回り、操舵室を無人とした。
15時28分半C受審人は、日昇丸が左舷船首23度1,000メートルとなり、同船に避航の気配が見られなかったが、操船の指揮をとることも、汽笛が修理されていないので警告信号を吹鳴することもできず、日昇丸が更に接近してその動作だけでは衝突を避けることができなくなったものの、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し、原針路、原速力のまま、前述のとおり衝突した。
C受審人は、後部甲板で漁獲物の仕分けを行っていたところ、衝撃を受け、日昇丸と衝突したことを知り、僚船に連絡するなど事後の措置に当たった。
衝突の結果、日昇丸は球状船首部の右舷外板に凹損を生じ、兼進丸は左舷船首部を圧壊し、左舷側後部舷縁に亀裂及び操舵室左舷上部の側壁に凹損をそれぞれ生じたが、のち修理された。また、C受審人が1週間の安静加療を要する左手挫傷等を、D指定海難関係人が全治3週間の腹部打撲等を、及び甲板員Iが6週間の休業加療を要する骨盤骨折をそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、遠州灘西部において、両船が互いに針路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、日昇丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る兼進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、兼進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、日昇丸との衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
日昇丸の運航が適切でなかったのは、船長が甲板部当直部員の認定を受けた船橋当直者に対して、他船の動静監視を十分に行い、接近する他船がある場合には、直ちに報告するよう指示を徹底しなかったことと、船橋当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
兼進丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の操舵室当直者に対して、周囲の見張りを十分に行い、接近する他船があった場合には、直ちに報告するよう指示を徹底しなかったことと、操舵室当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、遠州灘西部を東航中、甲板部当直部員の認定を受けた甲板長に単独の船橋当直を委ねる場合、他船の動静監視を十分に行い、接近する他船がある場合には、直ちに報告するよう指示を徹底すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、甲板長が、丙種甲板部航海当直部員の認定を受けており、普段から単独の当直を行っていたので、具体的な注意事項を指示することもないと思い、指示を徹底しなかった職務上の過失により、当直についた甲板長が兼進丸の動静監視を十分に行わず、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することについての報告を受けられないまま、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、日昇丸の球状船首部の右舷外板に凹損を生じさせ、兼進丸の左舷船首部を圧壊させ、左舷側後部舷縁に亀裂及び操舵室左舷上部の側壁に凹損をそれぞれ生じさせ、また、C受審人に1週間の安静加療を要する左手挫傷等を、D指定海難関係人に全治3週間の腹部打撲等を、及び甲板員Iに6週間の休業加療を要する骨盤骨折をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、船長として兼進丸に乗り組み、遠州灘西部の漁場で底引き網漁を終え、基地に向かって北上中、操舵室当直を無資格の甲板員に行わせる場合、周囲の見張りを十分に行い、接近する他船があるときには、直ちに報告するよう指示を徹底すべき注意義務があった。しかし、同人は、甲板員が自分より操船経験が豊富だから具体的な指示を与えなくても問題ないと思い、指示を徹底しなかった職務上の過失により、当直についた甲板員が見張りを十分に行わず、警告信号を行わず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する日昇丸についての報告を受けられないまま、同船に避航の気配が見られず、更に接近してその動作のみでは衝突を避けることができなくなっても、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、単独の船橋当直について遠州灘西部を東行中、右舷船首に兼進丸を認めた際、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
D指定海難関係人が、遠州灘西部の漁場で底引き網漁を終え、単独の操舵室当直についた際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。