(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月27日08時38分
三重県加布良古水道東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船漁盛丸 |
プレジャーボートヤマト |
総トン数 |
4.4トン |
|
全長 |
14.56メートル |
7.97メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
77キロワット |
3 事実の経過
漁盛丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成12年8月27日04時30分三重県菅島漁港を発し、同県菅島東方4海里ばかり沖合の、鯛島礁付近の漁場に向かった。
04時45分A受審人は、前示漁場に至り、操舵室後部左右両舷から正横方向に、先端に疑似餌(ぎじえ)を付けたナイロン製テグスに約20センチメートル(以下「センチ」という。)間隔に重りを付けた漁具を長さ11メートルの竿に取り付け、この漁具を約70メートル繰り出し、鯛島礁の周囲を反時計回りに航行しながら、操業を開始した。
08時17分半A受審人は、石鏡(いじか)灯台から037度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点に達したとき、針路を152度に定め、機関を5.0ノットの操業速力とし、自動操舵により進行した。
08時33分半A受審人は、石鏡灯台から062.5度2.7海里の地点に達して針路を050度に転じたとき、正船首400メートルのところに船首を315度に向け、錨泊して魚釣り中のヤマトを視認することができたが、当初から操業していた20数隻の同業船が漁獲が無いこともあって、既に港に引き上げてしまっていたことから、もう付近に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、これを見落としたまま続航した。
08時34分少し前A受審人は、石鏡灯台から063度2.7海里の地点に達したとき、魚信があって魚が掛かったので、操業速力を2.0ノットに減じ、操舵室を出て後部甲板に降り、釣れた魚の取り込み作業にかかった。
ところで、漁盛丸は、後部甲板に出ると操舵室で遮られ、前路を見通すことができず、見張りを十分に行うためには、甲板の左右端のいずれかに移動して行わなければならない状況であった。
A受審人は、釣れた魚を取り込むことに気をとられたまま進行し、08時35分少し前石鏡灯台から063度2.8海里の地点に達したとき、正船首方のヤマトに200メートルまで接近していたものの、依然として前路の見張りを行っていなかったので、同船に気付かず、これを避けないまま続航し、08時38分甲板上への魚の取り込みを終え、5.0ノットの操業速力に上げようとスロットルを操作したとき、石鏡灯台から062.5度2.9海里の地点において、漁盛丸は、原針路のまま、その船首が2.0ノットの操業速力をもってヤマトの左舷後部に前方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
また、ヤマトは、FRP製モーターボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りを行う目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日07時00分鳥羽市安楽島漁港を発し、鯛島礁付近の釣り場に向かった。
08時15分B受審人は、水深が25メートルの前示衝突地点の釣り場に着き、船首から重さ5キログラムの4爪錨を投入し、直径20センチメートルの化学繊維製錨索を約50メートル繰り出したうえ、船首部左舷側に取り付けたクリートに固縛し、船首を315度に向けた状態で釣りを始めた。
08時33分B受審人は、左舷ほぼ正横400メートルのところに、船首を南南東方に向けて操業中の漁盛丸を視認したが、錨泊中の自船に著しく接近する状況となれば、同船が自船を避けて行くものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく釣りを続けた。
08時33分半B受審人は、漁盛丸が針路を左に転じて自船に向首する状況となり、同時35分少し前同船が衝突のおそれがある態勢で200メートルまで接近していたものの、続いて魚信があり、魚が掛かったので、釣れた魚を取り込むことに気を取られ、このことに気付かず、注意喚起信号を吹鳴することも、更に接近したとき機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらないまま魚の取り込み作業を続けた。
こうして、B受審人は、著しく接近する態勢の漁盛丸に気付かないまま、魚を取り込み中、08時38分わずか前左舷側至近に迫った同船を認めたものの、自らの身をかばうのが精一杯で、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、漁盛丸は、損傷がなかったが、ヤマトは、左舷後部外板に亀裂を生じ、のち同船は、新替された。
(原因)
本件衝突は、三重県加布良古水道東方沖合において、操業中の漁盛丸が、見張り不十分で、錨泊して魚釣り中のヤマトを避けなかったことによって発生したが、ヤマトが、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、三重県加布良古水道東方沖合において、操業しながら航行する場合、錨泊して魚釣り中のヤマトを見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、当初から操業していた20数隻の同業船が漁獲が無いこともあって既に港に引き上げてしまっていたことから、もう付近に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で錨泊して魚釣り中のヤマトを見落とし、同船を避けることなく進行して衝突を招き、ヤマトの左舷後部外板に亀裂を生じさせるに至った。
B受審人は、三重県加布良古水道東方沖合において、錨泊して魚釣り中、近距離に操業中の漁盛丸を視認した場合、同船と著しく接近することのないよう、引き続き同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁盛丸の船首が南南東方を向いて操業していたこともあって、錨泊中の自船に著しく接近する状況となれば、同船が自船を避けて行くものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する漁盛丸に気付かず、注意喚起信号を吹鳴することも、更に接近したとき機関を使用するなど衝突を避けるための措置もとらないまま、釣れた魚を取り込むことに気を取られて錨泊を続け、同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。