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平成14年横審第61号
件名

貨物船風戸丸貨物船宝徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、原 清澄、黒岩 貢)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:風戸丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:風戸丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:宝徳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
D 職名:宝徳丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)

損害
風戸丸・・・船首部及び球状船首部に破口を伴う凹損
宝徳丸・・・右舷中央部外板に大破口、浸水し、沈没
船長、甲板長、一等航海士及び機関長がそれぞれ重油中毒

原因
宝徳丸・・・報告・引継の不適切、狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
風戸丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、宝徳丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、風戸丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Dの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月9日05時55分
 千葉県犬吠埼南南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船風戸丸 貨物船宝徳丸
総トン数 749トン 498トン
全長 69.92メートル 77.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 1,471キロワット

3 事実の経過
 風戸丸は、専ら硫酸の輸送に従事する船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、A及B両受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首3.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成13年5月8日17時15分静岡県清水港を発し、福島県小名浜港に向かった。
 ところで、A受審人は、日頃から霧中信号の吹鳴、状況に応じた減速及び船長への報告などの措置を定めた視界制限状態時における注意事項や当直員心得を船橋内に掲示していたうえ、月1回ないしは3回の割合で開催していた船内安全会議において、同状態時における注意事項を読み上げるなどしてその周知徹底を図っていた。
 こうしてA受審人は、船橋当直を、同受審人が08時から12時までと20時から24時までの時間帯に、次いで二等航海士、B受審人の順にそれぞれ単独による4時間3直制で行うことに決め、翌9日00時00分野島埼灯台の南西方約11.5海里の地点で、二等航海士に同当直を引き継いで降橋した。
 04時00分B受審人は、太東埼灯台から103度(真方位、以下同じ。)8.1海里の地点で、二等航海士から船橋当直を引き継ぎ、針路を036度に定め、機関を全速力前進にかけて13.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 B受審人は、その後一時的に視界が狭められる状況となることもあったので、日出後も法定灯火を表示したまま続航し、05時30分犬吠埼灯台から198度9.3海里の地点に差し掛かったとき、それまで見えていた船首方2海里の同航船を視認することができなくなり、間もなく霧のため急速に視界が制限される状態となったことを知ったものの、そのうち回復するものと判断し、このことをA受審人に報告しなかったばかりか、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしないままレーダーによる見張りを行いながら進行した。
 05時39分B受審人は、犬吠埼灯台から188度7.5海里の地点に達したとき、左舷船首11度5.6海里のところに宝徳丸のレーダー映像を初めて探知したが、同船の船尾方へ伸びる航跡を一瞥(いちべつ)しただけで左舷を対して無難に替わるものと思い、その後レーダープロッティングを行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、同船と著しく接近することとなる状況であったことに気付かず、十分に余裕のある時期に大角度に右転するなどしてこの事態を避けるための動作をとらなかった。
 B受審人は、間もなく宝徳丸が自船の前路に向けて左転したことにも気付かないまま続航し、05時44分犬吠埼灯台から183度6.5海里の地点に至り、同船の映像を左舷船首11度3.7海里に探知したとき、宝徳丸と近距離を隔てて航過するように見えたため、航過距離を更にとるつもりで046度に針路を転じて進行した。
 05時49分B受審人は、犬吠埼灯台から175度5.7海里の地点に達したとき、宝徳丸の映像を左舷船首21度1.8海里のところに探知するようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったものの、依然としてレーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、更に10度右転すれば宝徳丸を替わすことができるものと考え、直ちに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく、056度に転針して続航した。
 05時52分半B受審人は、宝徳丸の方位に変化が認められないまま0.7海里に接近したことを知り、機関を停止するとともに手動操舵に切り替え、その後汽笛の自動吹鳴装置のスイッチを入れて進行中、同時55分わずか前2回目の長音が吹鳴したころ、左舷船首方200メートルのところに同船の船影を視認し、機関を全速力後進にかけるとともに右舵一杯としたが、及ばず、05時55分風戸丸は、犬吠埼灯台から163度5.2海里の地点において、071度に向首して6.5ノットの速力となったとき、その船首が宝徳丸の右舷中央部にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の北西風が吹き、視程は200メートルであった。
 A受審人は、自室で休息中、自船が吹鳴した汽笛の音に目覚め、身支度を整えて自室を出ようとしたときに衝突の衝撃を感じ、急いで昇橋して事後の措置に当たった。
 また、宝徳丸は、主に石膏(せっこう)などの輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、C及びD両受審人ほか3人が乗り組み、石膏1,500トンを積載し、船首3.2メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、同月8日17時20分福島県相馬港を発し、千葉港に向かった。
 ところで、C受審人は、D受審人が臨時の一等航海士として発航の5日前に乗船したとき、航海計器や主機遠隔操縦装置の取扱いなどについて説明するとともに、船橋当直中に不安を感じたら報告するよう指示したが、同受審人が自らと同じ四級海技士の免状を受有し、砂利採取運搬船の船長経験もあったことから、視界制限状態などの状況となれば船長への報告があるものと思い、同報告の指示を徹底しなかった。
 こうしてC受審人は、船橋当直を、同受審人が07時から11時までと19時から23時までの時間帯に、次いで甲板長、D受審人の順にそれぞれ単独による4時間3直制で行うことに決め、同日23時00分塩屋埼の南東方約4海里の地点で、甲板長に同当直を引き継いで降橋した。
 D受審人は、翌9日03時00分茨城県鹿島港沖合で、甲板長から船橋当直を引き継ぎ、その後一時的に視界が狭められる状況となることもあったので、日出後も法定灯火を表示したまま進行し、05時00分犬吠埼灯台から040度5.0海里の地点に差し掛かったとき、霧模様のため視程が約1海里となったことを知ったものの、それまでの経験から、この時期における犬吠埼沖合の霧は一時のものであり、そのうち回復するものと判断し、このことをC受審人に報告しなかったばかりか、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしないままレーダーによる見張りを行いながら続航した。
 D受審人は、南下するにつれて一段と視界が悪化する状況下、05時23分犬吠埼灯台から094.5度3.0海里の地点で、針路を218度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
 05時38分D受審人は、犬吠埼灯台から147度2.7海里の地点に達したとき、左舷船首12度6.0海里のところに風戸丸の映像を初めて探知したが、同時39分左舷船首13度5.6海里に同映像を認めるようになったため、同船と左舷を対して無難に替わるものと思い、その後レーダープロッティングを行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、風戸丸と著しく接近することとなる状況であったことに気付かず、十分に余裕のある時期に大角度に右転するなどしてこの事態を避けるための動作をとらなかった。
 05時40分D受審人は、犬吠埼灯台から153.5度2.8海里の地点に至り、風戸丸の映像を左舷船首14度5.2海里に探知するようになったとき、折から右舷前方0.5海里に探知していた自船よりもやや速い同航船が左転したように見えたので、自船も左転して沖出したのちに風戸丸と右舷を対して航過するつもりで、その前路に向けて左転し、180度の針路で続航した。
 D受審人は、その後同航船の動向に気を取られていて接近する風戸丸の方位に明らかな変化がないことに気付かないまま南下を続け、05時49分犬吠埼灯台から163度4.2海里の地点に達したとき、風戸丸の映像を右舷船首25度1.8海里に探知するようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったものの、依然としてレーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、直ちに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
 05時50分D受審人は、犬吠埼灯台から163.5度4.4海里の地点に至り、右舷船首23度1.5海里に接近した風戸丸を替わすつもりで手動操舵に切り替えて左転し、160度の針路でレーダー画面を目視しながら続航中、同時54分0.3海里に接近した風戸丸の映像が海面反射域内に入って識別できなくなり、その後不安を感じながら前方に目を向けて見張りに当たっていたところ、同時55分わずか前右舷方至近距離のところから迫ってくる同船の船影を視認し、あわてて機関を停止したが、効なく、05時55分宝徳丸は、同じ針路、速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C受審人は、自室で休息中に衝突の衝撃を感じ、急いで昇橋して事後の措置に当たった。
 衝突の結果、風戸丸は、船首部及び球状船首部に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理され、宝徳丸は、右舷中央部外板に大破口を生じて船倉内に浸水し、12時41分犬吠埼東方沖合で沈没した。
 海中に投げ出された宝徳丸の乗組員は、風戸丸に救助されたが、C受審人が左下腿打撲及び重油中毒などを、宝徳丸甲板長が右手挫創及び重油中毒などを、D受審人及び宝徳丸機関長が重油中毒などを負った。

(原因)
 本件衝突は、霧で視界制限状態となった犬吠埼南南東方沖合において、南下中の宝徳丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した風戸丸と著しく接近することとなる状況となった際、十分に余裕のある時期に大角度の右転をせず、その後同船の前路に向けて左転し、風戸丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、北上中の風戸丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した宝徳丸と著しく接近することとなる状況となった際、十分に余裕のある時期に大角度の右転をせず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
 宝徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底しなかったことと、同当直者の視界制限状態時における報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 D受審人は、霧で視界制限状態となった犬吠埼南東方沖合を南下中、レーダーで前路に風戸丸の映像を探知した場合、レーダープロッティングを行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、風戸丸の映像がわずかに左方に変わることから左舷を対して無難に替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することとなる状況となった際、十分に余裕のある時期に大角度の右転をせず、その後沖出しするつもりで風戸丸の前路に向けて左転し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、直ちに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して風戸丸との衝突を招き、風戸丸の船首部及び球状船首部に破口を伴う凹損を生じさせ、宝徳丸の右舷中央部外板に大破口を生じさせて沈没させたほか、自らと宝徳丸乗組員3人に重油中毒などを負わせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、霧で視界制限状態となった犬吠埼南方沖合を北上中、レーダーで前路に宝徳丸の映像を探知した場合、レーダープロッティングを行うなど、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、宝徳丸の映像の船尾方へ伸びる航跡を一瞥しただけで左舷を対して無難に替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することとなる状況となった際、十分に余裕のある時期に大角度の右転をせず、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、直ちに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して宝徳丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、臨時の一等航海士が乗船した場合、視界制限状態となったときなどの報告についての指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同航海士が船長経験などを有していたことなどから、視界制限状態などの状況となれば船長への報告があるものと思い、同報告についての指示を徹底しなかった職務上の過失により、霧で視界制限状態となったときの報告が得られず、自ら操船の指揮を執ることができないまま進行して風戸丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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