(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月26日09時01分
千葉港第1区
2 船舶の要目
船種船名 |
調査船きよすみ |
総トン数 |
19トン |
全長 |
19.8メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,110キロワット |
3 事実の経過
きよすみは、平成13年2月27日に建造登録された2基2軸のFRP製水質調査船で、A受審人ほか2人が乗り組み、外部との通信担当者1人を乗せ、千葉港内の水質調査の目的で、船首0.85メートル船尾1.75メートルの喫水をもって、平成13年4月26日09時00分千葉港第1区きよすみ専用浮桟橋(以下「専用浮桟橋」という。)を離桟することとなった。
ところで、きよすみは、上甲板中央部に、後部が水質調査室となった操舵室を有し、同室最前部中央に操舵スタンドを、その左舷側に各種航海計器を、右舷側に各主機の操縦ハンドル及び主機遠隔操縦装置のモニターをそれぞれ配し、左手で舵輪を持ちながら右手で2個の操縦ハンドルを同時に握って操縦することが可能であった。さらに、同船は、船体重量の割に出力が大きいことから、離着桟時には、主機の操縦ハンドルを小刻みに操作するなどの慎重な機関操作が求められていた。
また、専用浮桟橋は、中央及び出洲各ふ頭に挟まれた泊地最奥にあり、南東に面する長さ250メートルの岸壁から、約10メール間隔で直角に突き出すように併設された12個の官庁関係船艇用浮桟橋の1つで、それらの中央部に位置していた。専用浮桟橋は、チェーンで海底に固定され、周囲に6個の係船用ビットを配した船幅方向の幅が5メートル船長方向の長さが15メートルの鋼製浮体で、岸壁と同桟橋の間には幅1.2メートル長さ11メートルの橋(以下「渡り橋」という。)が架けられ、その岸壁側付け根出入口に開閉扉が設置され、同出入口両側には防護柵(以下「防護柵」という。)が設けられていた。そして、きよすみは、専用浮桟橋の北東側に船首尾各2本の係留索をとり、入船左舷付で係留されていた。
A受審人は、外航船の操機員や機関士を12年間勤め、その後火力発電所に6年ばかり勤務したのち、平成3年に先代のきよすみの機関士として採用され、現きよすみには建造時から船長として乗船していたが、まだ、2箇月足らずの経験しかなかったため、同船の操船に慣れていなかった。
09時00分A受審人は、船首索1本を残して他の係船索を解纜(かいらん)し、船尾を専用浮桟橋から離すため左舵一杯として右舷機を前進にかけ、船首尾線が桟橋法線に対し20度の角度となるまで船尾を同桟橋から離し、船首が300度(真方位、以下同じ。)を向首したとき、舵中央として船首索を放ち、両舷機を後進にかけて離桟したところ、まもなく右舷側に隣接した浮桟橋に接近し過ぎたことを認め、同時01分わずか前元の係留位置に戻ろうと両舷機を前進にかけた。
その際、A受審人は、右舷側の浮桟橋への接近で慌てていたことから、きよすみの機関特性を考慮して小刻みに主機の操縦ハンドルを操作するなど、機関操作を適切に行うことなく、いっきに微速力前進まで操作したところ、速力(対地速力、以下同じ。)が急激に4.0ノットまで上がった。
A受審人は、直ちに操縦ハンドルを中立に戻したが及ばず、09時01分きよすみは、千葉ポートタワー(高さ125メートル)から076度670メートルの地点において、300度を向首したその左舷船首が、4.0ノットの速力のまま専用浮桟橋北端に衝突し、さらに船首端が北東側防護柵に衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
桟橋衝突の結果、きよすみの左舷船首に亀裂及び船首材に擦過傷をそれぞれ生じ、専用浮桟橋北端の係船用ビット及び北東側防護柵がそれぞれ曲損したが、のち、いずれも修理された。
(原因)
本件桟橋衝突は、千葉港第1区において、専用浮桟橋からの離桟操船を行った際、機関操作が不適切で、同桟橋北端に向け急発進したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、千葉港第1区において、専用浮桟橋からの離桟操船を行う場合、機関特性を考慮して主機の操縦ハンドルを小刻みに操作するなど、機関操作を適切に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、右舷側に隣接した浮桟橋に接近し過ぎたことによって慌て、機関操作を適切に行わなかった職務上の過失により、専用浮桟橋北端に向け急発進して同桟橋との衝突を招き、左舷船首に亀裂及び船首材に擦過傷をそれぞれ生じさせ、同桟橋北端の係船用ビット及び北東側防護柵をそれぞれ曲損させるに至った。