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平成14年函審第38号
件名

漁船永隆丸漁船幸運丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、安藤周二、工藤民雄)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:永隆丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:幸運丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
永隆丸・・・操舵室右舷側を圧壊
幸運丸・・・右舷船首部外板に破口を伴う凹損等
船長が頬骨等を骨折

原因
幸運丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
永隆丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、幸運丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の永隆丸を避けなかったことによって発生したが、永隆丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月9日09時45分
 北海道白神岬西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船永隆丸 漁船幸運丸
総トン数 7.3トン 3.79トン
登録長 13.51メートル 10.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 287キロワット  
漁船法馬力数   50

3 事実の経過
 永隆丸は、さめ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年4月9日04時00分青森県小泊港を発し、北海道白神岬西方沖合の漁場に向かった。
 ところで、永隆丸のさめ延縄漁は、3月末から5月初旬にかけて同漁場で、枝縄の付いた長さ約200メートルの幹縄を30本ばかり連結して投縄し、約2時間待機して揚縄するものであった。
 A受審人は、07時00分漁場に至り、同時15分投縄を開始し、08時00分投縄を終え、同時35分松前灯台から251度(真方位、以下同じ。)6.5海里の地点で機関を中立とした後、折からの海潮流により南東方向に1.7ノットの対地速力で圧流されながら漂泊を続けた。
 A受審人は、操舵室で見張りに当たり、09時35分松前灯台から236度6.0海里の地点において、船首が045度に向いているとき、右舷船尾85度1.3海里に幸運丸を初認し、その後同船の動静を監視していたところ、自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めたが、操業についての話で自船に向かってくるものと思い、警告信号を行わないまま、更に接近しても機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることなく、操舵室右舷側の通路に出て見守っているうち、09時45分わずか前幸運丸が右舷正横至近に迫り、危険を感じて船尾に逃れた直後、09時45分松前灯台から234度6.0海里の地点において、永隆丸の船首が045度に向き、その右舷中央部に幸運丸の船首が後方から85度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は低潮時で、衝突地点付近には南東方に流れる1.7ノットばかりの海潮流があった。
 また、幸運丸は、たこ樽流し漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、同日05時30分松前港を発し、僚船とともに白神岬西方沖合の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、操舵機が5年前に故障して以来、直径約7センチメートル長さ約2.4メートルの木製棒を舵柄として使用し、操舵室後方の左舷に立ち右手でこれを握り左足を一歩踏み出して上半身を室内に入れ、前面窓から前方を見通して見張りと操舵に当たっていた。
 B受審人は、06時30分漁場に至り、水深約130メートルのところに仕掛けの付いた樽7個を投入し、折からの南東流に流して操業を続け、樽が水深の深いところに流れた後、最初に投入した地点に戻ることにした。
 B受審人は、08時50分樽の回収作業を始め、09時20分同作業を終えて松前灯台から209度6.4海里の地点を発進し、操業中の僚船を右舷方に見る320度の針路に定め、機関を半速力前進より少し多い回転数毎分2,400にかけ、折からの南東流に抗し6.3ノットの対地速力で進行した。
 B受審人は、いつものように発進時から操舵室後方の左舷に立ち右手で舵柄を握って操舵に当たり、09時35分松前灯台から223.5度6.0海里の地点に達したとき、正船首1.3海里に漂泊している永隆丸を視認できる状況で、その後同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していたが、右舷方の僚船の操業模様に気をとられ、前路の見張りを十分に行うことなく、これに気付かず、永隆丸を避けないまま進行中、09時45分わずか前船首至近に迫った同船を認め、驚いて機関を後進にかけようとしたが間に合わず、幸運丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、永隆丸は、操舵室右舷側を圧壊し、ブルワークに損傷等を、幸運丸は、右舷船首部外板に破口を伴う凹損等をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、B受審人は、頬骨等を骨折した。

(原因)
 本件衝突は、北海道白神岬西方沖合において、幸運丸が、漁場を移動中、見張り不十分で、前路で漂泊中の永隆丸を避けなかったことによって発生したが、永隆丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、白神岬西方沖合において、操舵室後方で操舵に当たり、漁場を移動する場合、漂泊中の永隆丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、右舷方の僚船の操業模様に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、永隆丸に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して永隆丸との衝突を招き、同船の操舵室右舷側に圧壊及びブルワークに損傷等を、幸運丸の右舷船首部外板に破口を伴う凹損等をそれぞれ生じさせ、自身が頬骨等を骨折するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、白神岬西方沖合において、単独で船橋当直に就いて漂泊中、幸運丸が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めた場合、機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、操業についての話で自船に向かってくるものと思い、機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、幸運丸との衝突を招き、両船に前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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