日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年函審第16号
件名

プレジャーボートトムス定置網衝突事件
二審請求者〔補佐人村上 誠〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年11月12日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、安藤周二、工藤民雄)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:トムス船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:株式会社M小樽小樽港マリーナ統括部長

損害
定置網の一部を切断、プロペラ軸等が損傷

原因
船位確認不十分、入航船の安全確保に関する措置不十分

主文

 本件定置網衝突は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 係留施設の統括者が、入航船の安全確保に関する措置を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月30日17時45分
 北海道小樽港港外

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートトムス
全長 8.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 11キロワット

3 事実の経過
 株式会社M小樽(以下「会社」という。)は、平成元年6月プレジャーボートの保管業務等を目的とし、小樽市が主体となって第三セクター方式により設立され、係留施設の小樽港マリーナ(以下「マリーナ」という。)を運営していた。また、同年9月小樽市と小樽市漁業協同組合は、漁具被害の防止のため、プレジャーボートの夜間航行を原則として禁止するなどの協定を締結していた。
 会社は、利用契約者の船(以下「利用契約船」という。)が出航している際にはマリーナを閉鎖できないなどの実状があり、事故防止面からできるだけ夜間の出入港を避け、小樽港の航路を通航しないよう利用契約者に対して周知していた。
 小樽港の航路は、北防波堤と島堤との間にあり、同堤北端に小樽港島堤灯台(以下「島堤灯台」という。)が設置され、同灯台南南東方約900メートルの島堤南端と南防波堤北端との間には、幅約100メートルの切り通しが設けられて両端に標識灯がなく、島堤南端北北東方約40メートルのところから島副防波堤が東南東方に約100メートル延びていた。
 会社は、同9年10月以来、前示切り通しから北東方に延びる長さ約260メートル幅約80メートルを利用契約船の出入港用の水路(以下「水路」という。)とし、同13年9月10日水路の目印として沖側北端に赤色旗及び南端に黄色旗を付けた各ボンデンを、さらに港内に向け約50メートル間隔で水路の両端各2箇所に同ボンデンを配置し、これをマリーナ連絡紙により利用契約者に知らせていた。
 また、水路は、南側近くに小さけ定第12号と称する定置漁業権免許漁場が島堤灯台から152度(真方位、以下同じ。)1,170メートル、139度1,210メートル、140度1,290メートル及び152度1,260メートルの4地点を結ぶ長方形の範囲に設定され、同漁場内には、定置網が設置され、同網周囲に旗を付けたボンデン8個が配置されていた。 
 B指定海難関係人は、同12年5月会社に入社して小樽港マリーナ統括部長に就任し、施設や事務等を統括する責任者の業務を行い、出入港船を把握しており、マリーナ連絡紙により利用契約者に対し、小樽港周辺における定置網設置状況などの航行安全に関する情報を提供していた。
 ところで、B指定海難関係人は、帰港が遅れるなどにより日没後に入航する利用契約船が増加している状況で、統括部長に就任した後、これを知ったものの、定置網及びマリーナが設置した出入口を示す沖側ボンデンの各位置を緯度経度等で明確に周知のうえ、日没後に入航する利用契約者に対してGPSプロッターやレーダーの装備を奨励するなど、入航船の安全確保に関する措置を十分にとらなかった。
 A受審人は、昭和54年に海技免状を受有し、プレジャーボートの豊富な操船経験があり、平成8年4月会社とマリーナ利用契約を締結し、同11年レジャーに使用する目的で、GPSプロッターやレーダーを装備しないものの夜間の航行を許可されている船内機付きFRP製ヨットのトムスを購入し、マリーナに係留していた。
 A受審人は、翌12年から小樽港沖合をトムスで頻繁に航行し、プレジャーボートの夜間航行が原則として禁止されていることを知らないまま30回ばかり日没後の航行経験を有し、これまで灯台や陸上の明かりの方向を確認して水路へ無難に入航しており、また、航路については通航してはならないものと理解していた。
 トムスは、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を乗せ、船首0.4メートル船尾1.5メートル中央2.0メートルの喫水をもって、翌13年9月30日16時00分マリーナを発し、港外に向かった。
 A受審人は、島堤南端と南防波堤北端間の切り通しを通過し、マリーナが設置していた水路左端を示す赤色旗、同右端を示す黄色旗の間を通航して北東進し、16時13分南防波堤北端から北東方約650メートル付近で機関を停止し、メインセール及びジブセールを展帆して帆走に切り替え北上した。
 A受審人は、17時16分ごろ風が弱くなって帆走できなくなったことから帰港することとし、17時17分半島堤灯台から065度890メートルの地点で、針路を182度に定め、機関を半速力前進として3.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により南下した。
 A受審人は、船尾に立って見張りと操船に当たり、17時26分島堤灯台から116度870メートルの地点において、街明かりに照らされている勝納ふとうのサイロを右舷方に見て水路入口に近付いたことを知り、速力を1.0ノットに減じ、島堤南端と南防波堤北端間の切り通しを肉眼で探しながら南下を続け、17時40分半島堤灯台から137度1,130メートルの地点に達したとき、切り通しがほぼ右舷正横となったが、これまで水路へ無難に入航しているから大丈夫と思い、灯台や陸上の顕著な明かりの方向を確認するなど、船位の確認を十分に行わなかったので、これに気付かず、切り通しに向けて右転しないまま進行中、17時45分島堤灯台から142度1,240メートルの地点において、原針路、原速力で、定置網の垣網に衝突した。
 当時、天候は晴で風がほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期にあたり、日没時刻は17時20分であった。
 衝突の結果、トムスは、定置網の一部を切って救出され、プロペラ軸等が損傷した。
 B指定海難関係人は、その後再発防止策として、マリーナ連絡紙により日没前の帰港を呼びかけ、定置網設置状況及び見張りに対する注意喚起を行ったほか、マリーナ出入口等の掲示板上に照明設備を整えて定置網位置に関する速報を掲示し、原則として禁止されていた航路の通航が気象海象などに応じ可能とされる措置をとった。

(原因)
 本件定置網衝突は、夜間、小樽港港外において帆走を終え帰港する際、船位の確認が不十分で、定置網に向首進行したことによって発生したものである。
 係留施設の統括者が、入航船の安全確保に関する措置を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、小樽港港外において帆走を終え南下中、標識灯が設置されていない島堤南端と南防波堤北端との間の切り通しに向け右転して帰港する場合、切り通しを行き過ぎないよう、灯台や陸上の顕著な明かりの方向を確認するなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで水路へ無難に入航しているから大丈夫と思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、切り通しに向けて右転しないまま進行し、定置網との衝突を招き、トムスのプロペラ軸等が損傷するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、日没後に入航する利用契約船が増加している状況を知った際、定置網及びマリーナが設置した出入口を示す沖側ボンデンの各位置を緯度経度等で明確に周知のうえ、日没後に入航する利用契約者に対してGPSプロッターやレーダーの装備を奨励するなど、入航船の安全確保に関する措置を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後、航路の通航が緩和される措置などをとった点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION