(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月2日04時40分
長崎県平戸瀬戸西水道北口
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第八十六天海丸 |
プレジャーボート津田丸 |
総トン数 |
166トン |
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全長 |
29.21メートル |
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登録長 |
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11.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,676キロワット |
36キロワット |
船種船名 |
バージ第八十六天海 |
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全長 |
104.00メートル |
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幅 |
21.00メートル |
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深さ |
8.00メートル |
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3 事実の経過
第八十六天海丸(以下「天海丸」という。)は、甲板上に海砂採取用設備を装備した非自航バージ第八十六天海(以下「バージ」という。)を専ら押航する2基2軸の鋼製押船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、海水バラスト2,500トンを積み、船首3.0メートル船尾5.0メートルの喫水となったバージの船尾ノッチ部に船体を嵌合(かんごう)して、全長118.03メートルの押船列(以下「天海丸押船列」という。)を形成し、海砂採取の目的で、船首尾とも5.0メートルの等喫水をもって、平成14年6月1日14時30分山口県久賀港を発し、長崎県崎戸町平島南方約4海里の海砂採取現場に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を自身、B受審人及び甲板員の3人による単独4時間交代制とし、天海丸押船列はバージの左舷側に装備された海砂採取用設備のダビットや制御室により、天海丸の船橋中央で前方を見通したとき、左舷船首5度から8度の間及び15度から22度の間に死角が生じるので、船橋当直者に手動操舵を要するときには見張り員の増強のため機関部当直者に連絡して昇橋させること、狭水道の手前3海里ばかりの地点でその旨を報告するようそれぞれ指示していた。
翌2日02時00分B受審人は、烏帽子島灯台から037度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点で船橋当直を引き継ぎ、航行中の動力船の灯火が表示されていることを確認し、自動操舵で南西行を続け、04時25分ごろA受審人から指示のあった平戸瀬戸北口から3海里の地点に達したが、自身はA受審人が休暇中には代理船長を務め、幾度か同瀬戸の通航経験を有していたことなどから、北口に達するころまでに昇橋してもらえればよいと思い、同受審人に報告しないで南西行を続けた。
04時30分半B受審人は、広瀬灯台から023度1.9海里の地点に達したとき、針路を二目照射灯に向首する214度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、同時35分ごろ平戸瀬戸北口から1海里ばかりとなったので、手動操舵にするとともに、いつものように電話の呼び出し音1回を鳴らしてA受審人に知らせたのち、同時36分広瀬灯台から010度1,550メートルの地点で、船橋両舷に接続したバージの張り出しやぐら上で左舷船首20度1,900メートルに津田丸の掲げる多数の灯火のうちの紅灯1個を初認し、これを舷灯と思い、西水道を北上する船舶であるから左舷を対して航過しようと考え、針路を204度に左転して続航した。
B受審人は、0.75海里レンジでオフセンターとしたレーダーを見ながら進行し、04時37分広瀬灯台から006度1,150メートルの地点で、津田丸の映像が0.75海里となったので前方を見たところ左舷船首11度1,350メートルに同船が掲げる灯火のうちの白、緑、紅3灯を認め、機関を半速力前進に減じて10.0ノットの速力とし、同時37分半同方位1,150メートルとなり、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近していたが、白、緑、紅3灯を視認していたところから間もなく自船の船尾を航過するものと思って続航し、同時38分ほぼ同方位850メートルとなったとき、初めて衝突のおそれを認めたが、直ちに機関を停止、後進としたうえで汽笛による注意喚起信号を行うなど衝突を避けるための措置をとることなく、船橋上のサーチライトを短時間点灯し、これだけで自船の存在に気付いて避けてくれるものと思って進行した。
B受審人は、04時38分半津田丸に避航の気配が見えないので微速力前進に減じ、続けて機関中立としたのち、同時39分後進としたが、逆転ギアが噛み合う(かみあう)回転数まで下がっていなかったので推進器が後進とならないまま進行した。
これより前、自室で休息していたA受審人は、電話の呼び出し音で目覚め、一等航海士がいつもの地点で連絡したものと思い、ゆっくりと昇橋の準備をしていたところ、04時39分機関音の変化に気付き、急いで昇橋したときには、すでに津田丸は船首死角の中に入っていて視認できず、状況がわからないうち、04時40分広瀬灯台から320度400メートルの地点において、天海丸押船列は原針路のまま9.0ノットの速力となったとき、その球状船首左舷側が津田丸の左舷中央部に前方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南南西風が吹き、潮流はほぼ憩流時にあたり、日出時刻は05時13分であった。
A受審人は、津田丸を捜したところ、左舷船尾方に二つに折れた船影を認め、同船乗組員を救助するなど事後の措置に当たった。
また、津田丸は、船体中央部に機関室、その後方に順に船室及び操舵室を備えたFRP製プレジャーボートで、C受審人が1人で乗り組み、同僚1人を乗せ、アジ釣りを行う目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日04時23分長崎県田平港を発し、同県田助漁港口の釣り場に向かった。
発航にあたり、C受審人は、正規の灯火である白色全周灯のマスト灯及び舷灯一対のほか、目立つ方がよいと思い、マスト灯の下に、縦方向に紅色、白色の、船室の屋根前部中央に紅色の、操舵室の屋根後部中央に白色の、同室の天井後部中央に白色のそれぞれ全周灯及び機関室囲壁両舷側の前部に白色灯火をそれぞれ点灯し、自身の見張りが妨げられる状況で違法な灯火を点灯したまま発進し、救命胴衣を備えていたものの、近くの釣り場であり、海上も穏やかであったので問題ないと思い、救命胴衣を着用せず、同乗者にも着用を指示しなかった。
離岸後、C受審人は、操舵室右舷側に立ち、前面窓の右舷側が回転窓で見通しが悪いため、ときどき右舷側に顔を出して前方の見張りを行いながら手動操舵で北西行し、04時30分広瀬灯台から188度1,350メートルの地点で、針路を西水道の中央部に向首する000度に定め、慣らし運転のために、機関を毎分回転数1,000ばかりにかけ、5.4ノットの速力で進行した。
04時37分半C受審人は、広瀬灯台から244度220メートルの地点に達したとき、右舷船首13度1,150メートルのところに天海丸押船列の紅灯1個を初めて認め、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、自身の見張りが妨げられる多数の灯火を点灯していたことから、一瞥(いちべつ)して同灯火は遠くの漁船の灯火であり、自船が無難に同船の前路を航過できると思い、動静監視を行わなかったので、このことに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま続航し、同時39分広瀬灯台から304度250メートルの地点で、釣り場に向かうため、針路を田助港外防波堤灯台に向首する338度に左転して進行中、同時40分少し前船首至近に迫ったバージの球状船首を認め、全速力後進とし、前進行きあしが止まりかけたものの、同押船列の前路に位置していたので、全速力前進及び右舵一杯としたが及ばず、津田丸が069度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、バージは球状船首に擦過傷を生じ、津田丸は船体中央部で前後に分断されて右に横転し、のち船体前部が沈没した。C受審人と同乗者G(昭和18年3月25日生)が海中に投げ出され、同受審人は両下肢、左膝等に打撲傷を負い、G同乗者が行方不明となった。
(原因)
本件衝突は、夜間、長崎県平戸瀬戸西水道北口において、釣り場に向け北上中の津田丸が、違法な灯火を掲げて航行したばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、南下中の天海丸押船列が、衝突を避けるための措置が適切でなかったことも一因をなすものである。
天海丸押船列の運航が適切でなかったのは、船橋当直者が船長に指示された地点に至ったことを報告しなかったことによるものである。
(受審人の所為)
C受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸西水道北口において、釣り場に向け北上中、右舷前方に天海丸押船列の紅灯1個を認めた場合、同押船列との衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一瞥して同灯火は遠くの漁船のものであり、自船が無難にその前路を航過できると思い、その後同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、バージの球状船首に擦過傷を生じさせ、津田丸を船体中央部で分断して船体前部を沈没させ、自身も両下肢、左膝等に打撲傷を負い、津田丸同乗者を行方不明にさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
B受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸西水道北口を南下中、北上してくる津田丸との衝突のおそれを認めた場合、直ちに機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船橋上のサーチライトを短時間点灯し、これだけで自船の存在に気付いて避けてくれるものと思い、直ちに衝突を避けるための措置をとらないで進行して津田丸との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせ、津田丸同乗者を行方不明にさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。