(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月10日14時00分
沖縄県粟国島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第三光丸 |
遊漁船もみじ |
総トン数 |
9.7トン |
7.9トン |
全長 |
18.12メートル |
16.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
426キロワット |
364キロワット |
3 事実の経過
第三光丸(以下「光丸」という。)は、船体中央部からやや後方に操舵室を設けた、FRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客7人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.70メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、平成13年8月10日07時10分沖縄県都屋漁港を発し、09時00分同漁港西北西方約29海里の粟国島北岸付近の釣り場に至り、錨泊して遊漁を行ったのち、同島北西方約5海里に設置されているパヤオと呼ばれる浮魚礁でまぐろ釣りを行うこととし、13時42分半粟国島灯台から027度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点を発進して同魚礁に向かった。
発進したとき、A受審人は、操舵室右舷側のいすに腰掛け、針路を321度に定め、機関を全速力前進にかけて17.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
ところで、光丸には、当時操舵室前方の前部甲板上1.5メートルの高さに、船首楼甲板後端から後方に長さ約4メートル幅約3メートルの臨時の日除け用オーニングが張られ、釣客が前部甲板上で休息しており、いすに腰掛けた操舵位置から船首方にほとんど死角を生じなかったものが、これが張られていたため同位置からは、正船首から右舷約10度左舷約15度の範囲で死角を生じ、前方の見通しが妨げられる状況であった。
13時55分少し前A受審人は、粟国島灯台から343度4.7海里の地点に達したとき、1.5海里レンジとして前方が約3海里まで映るオフセンターにしたレーダーにより正船首1.5海里のところに、もみじの映像を初めて認め、同船が漂泊していることを知った。
13時56分半A受審人は、もみじが正船首1.0海里に接近し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、もう少し近づいてから同船を替わしても大丈夫と思い、レーダー監視を続けるなどして同船に対する動静監視を十分に行わないで、もみじが自船の前部甲板上に張ったオーニングのため、船首死角の中に入って見えない状態のまま、もみじを避けずに続航中、14時00分粟国島灯台から338度6.1海里の地点において、光丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首がもみじの左舷船尾部に後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、視界は良好であった。
また、もみじは、船体中央部からやや後方に操舵室を設けた、FRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客10人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.59メートル船尾1.44メートルの喫水をもって、同日05時45分沖縄県真栄田漁港を発し、同漁港北西方約28海里の浮魚礁に至り、漂泊して遊漁を行ったのち、10時10分ごろ衝突地点付近に移動し、機関を停止し、船首を北西方に向けて再び漂泊して遊漁を開始した。
13時54分B受審人は、操舵室で釣客の釣模様を見ながら周囲の見張りに当たっていたところ、釣果が悪くなったので、釣りをやめトローリングでも始めようと同室後部出入口の階段に船尾方を向いた姿勢で腰掛け、足元に置いたトローリング用の引き縄の点検を始めた。
13時56分半B受審人は、船首が306度を向いた状態で、漂泊して前示引き縄の点検をしていたとき、左舷船尾15度1.0海里のところに、自船の方に向かってくる光丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然操舵室後部出入口の階段に腰掛け、下を向きトローリング用の引き縄の点検に熱中していて、周囲の見張りを十分に行わなかったので、自船を避けずに接近する光丸に気付かなかった。
14時00分少し前B受審人は、光丸を左舷船尾15度150メートルのところに初めて視認したものの、釣客の知人の船が自船に釣模様を尋ねるつもりで近づいてきたものかと様子を見ていて、機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま、漂泊を続け、同時00分わずか前光丸が左舷船尾至近に接近したので、慌てて操舵室に駆け込み機関を始動しようとしたが、時すでに遅く、もみじは、船首を306度に向けて、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、光丸は右舷船首外板に亀裂(きれつ)を生じ、もみじは左舷船尾部外板に破口及び左舷中央部ブルワークに曲損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、沖縄県粟国島北西方沖合において、浮魚礁に向けて北上中の光丸が、動静監視不十分で、前路で漂泊中のもみじを避けなかったことによって発生したが、もみじが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県粟国島北西方沖合において、浮魚礁に向けて1人で操船にあたって航行中、前路で漂泊中のもみじのレーダー映像を認めた場合、レーダー監視を続けるなどして同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し近づいてからもみじを替わしても大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船の前部甲板上に張ったオーニングのため、船首死角の中に入って見えない状態のまま、もみじを避けないで進行して同船との衝突を招き、光丸の右舷船首外板に亀裂を、もみじの左舷船尾部外板に破口などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、沖縄県粟国島北西方沖合において、漂泊して遊漁を行う場合、自船に接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室後部出入口の階段に腰掛け、下を向きトローリング用の引き縄の点検に熱中していて、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を避けずに接近する光丸に間近になるまで気付かず、機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま、漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。