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平成13年門審第120号
件名

漁船一福丸貨物船エイジアン サクセス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、長浜義昭、島 友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:一福丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
一福丸・・・船体が2つに分断、船体後部が沈没
船長が顔面打撲
エ 号・・・球状船首部先端などに擦過傷

原因
一福丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
エ 号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、エイジアン サクセスが、見張り不十分で、漂泊中の一福丸を避けなかったことによって発生したが、一福丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月4日05時30分
 福岡県小呂島北北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船一福丸 貨物船エイジアンサクセス
総トン数 4.0トン 7,090トン
全長 11.90メートル 110.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   1,893キロワット
漁船法馬力数 70  

3 事実の経過
 一福丸は、船体中央から少し船尾寄りに操舵室を有し、主として一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たいはえ縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成12年8月4日00時40分福岡県玄界漁港を発し、同県小呂島北東方沖合15海里の漁場に向かった。
 A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示して玄界灘を北上し、02時30分目的の漁場に至り、両端にそれぞれ赤旗付き竹ざおを取り付けた1列の長さ4,000メートルのはえ縄3列の投縄作業を始め、05時00分小呂島北北東方沖合13海里付近で同作業を終えたので、揚縄作業を開始するまで待機することとし、機関を停止して漂泊を始めた。
 その後、A受審人は、周囲が明るくなり、視界も良好であったことから、航行中の動力船の灯火など表示していたすべての灯火を消し、2段になった操舵室の上段中央の舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて周囲の見張りに当たっていたところ、付近で操業中の漁船が無線電話により呼び出してきたので、舵輪前方の天井に設置した無線電話で自船の漁具の位置を知らせるなど、同漁船と交信を始めた。
 しばらくしてA受審人は、下段の操舵室に移動し、同室板の間に前方を向いて座り込み、引き続き2隻目の漁船と交信を行っていたところ、05時26分小呂島港西防波堤灯台から020度(真方位、以下同じ。)13.0海里の地点で、船首が135度を向いていたとき、右舷船尾45度1,680メートルのところにエイジアン サクセス(以下「エ号」という。)を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢のまま、避航しないで接近するのを認め得る状況であったが、付近で操業中の漁船との無線電話の交信に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、直ちに機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 05時30分わずか前A受審人は、右舷後方至近に迫ったエ号の黒い船体に気付いたものの、どうすることもできず、05時30分小呂島港西防波堤灯台から020度13.0海里の地点において、一福丸は、船首を135度に向けたまま、その右舷前部に、エ号の船首が、後方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、日出は05時32分で、視界は良好であった。
 また、エ号は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、船長K、一等航海士Gほか16人が乗り組み、空倉のまま、船首1.40メートル船尾5.90メートルの喫水をもって、同月3日18時00分大韓民国光陽港を発し、広島県福山港に向かった。
 翌4日04時00分G一等航海士は、対馬南東方沖合26海里の地点に達したころ操舵手1人を伴って船橋当直に就き、05時00分小呂島港西防波堤灯台から349度12.4海里の地点で、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.6ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 G一等航海士は、レーダーを作動させるとともに、時折ウイングに出るなどして周囲の見張りに当たり、05時26分小呂島港西防波堤灯台から016度12.6海里の地点に差し掛かったとき、一福丸が灯火を何ら表示していなかったものの、正船首1,680メートルのところに同船の白い船体を視認でき、その後、漂泊中の同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、前路に他船はいないものと判断し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないで続航中、エ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 G一等航海士は、衝突に気付かずに航行を続け、08時00分K船長に船橋当直を引き継いで降橋し、翌5日06時10分福山港に入港したのち、海上保安部の調査を受け、球状船首部などに付着した一福丸の船体塗料の一部を認め、衝突の事実を知った。
 衝突の結果、一福丸は、船体が2つに分断されて船体後部が沈没し、漂流していた船体前部が僚船によって玄界漁港に引き付けられ、エ号は、球状船首部先端などに擦過傷を生じた。また、A受審人は、海上に投げ出され、浮いていた船体前部につかまって漂流中、僚船によって救助されたが、1週間の入院加療を要する顔面打撲などの傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、福岡県小呂島北北東方沖合において、東行中のエ号が、見張り不十分で、前路で漂泊中の一福丸を避けなかったことによって発生したが、一福丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、福岡県小呂島北北東方沖合において、たいはえ縄漁に従事中、揚縄作業開始まで漂泊して待機する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、付近で操業中の漁船との無線電話の交信に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢のまま、避航しないで接近するエ号に気付かず、直ちに機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて同船との衝突を招き、一福丸の船体を2つに分断して船体後部を沈没させ、エ号の球状船首部先端などに擦過傷を生じさせ、自らも顔面打撲などの傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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