(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月21日05時38分
博多港第1区
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第一こんどう丸 |
遊漁船海友丸 |
総トン数 |
19トン |
4.4トン |
全長 |
13.50メートル |
|
登録長 |
11.87メートル |
11.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
147キロワット |
3 事実の経過
第一こんどう丸は、2基2軸の鋼製引船兼押船で、A受審人ほか2人が乗り組み、浚渫土砂を積込み中のバージに向かう目的で、船首1.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成13年11月21日05時25分博多港第1区の福岡船だまりを発し、博多港東航路南側にあたる同港第2区の浚渫現場に向かった。
ところで、A受審人は、平成8年から第一こんどう丸の船長として乗り組み、プッシャーバージの運航に従事し、福岡船だまりを定係地として、専ら浚渫現場から浚渫土砂を積み込んだバージを押し、アイランドシティ埋立工事区域に輸送して揚土する作業を行っていたので、港内の交通事情などをよく知っており、同船だまりから同浚渫現場に向かう場合には、できる限り他船と出会わないよう、船舶が輻輳する中央航路を航行せずに、博多港内港湾局第3号灯浮標(以下「第3号灯浮標」という。)と東防波堤との間を通過した後、同防波堤及び北防波堤の東側をこれに寄って北上することにしていた。
A受審人は、自ら手動操舵に就き、甲板員1人を左舷ウイングで左舷側の見張りに当たらせ、法定の灯火を表示し、荒津大橋下を通過して須崎ふ頭北西端沖に向け、05時32分博多港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から191度(真方位、以下同じ。)1,380メートルの地点において、針路を博多港中央ふ頭北灯浮標(以下「北灯浮標」という。)を右舷船首方に見る036度に定め、機関を回転数毎分550の半速力前進にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
A受審人は、このころ中央航路を東行して各ふ頭に着岸する大型船が多くなる時刻帯に当たっており、船首及び右舷側に接近するおそれのある他船を認めなかったことから、左舷ウイングの見張員とともに、同航路東口に当たる東防波堤と西防波堤との間(以下「防波堤入口」という。)に注意を払いながら続航した。
05時37分少し前A受審人は、東防波堤灯台から150.5度640メートルの地点において、北灯浮標に並航したとき、右舷船首59度840メートルのところに海友丸の白、紅2灯を視認し得る状況となり、その後、同船の方位に明確な変化がなく、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、中央航路を東行する大型船の確認のため、防波堤入口付近を注視していて、右舷側の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、海友丸の進路を避けずに進行した。
こうして、A受審人は、左舷正横付近となった防波堤入口付近を注視して続航し、05時37分少し過ぎ東防波堤灯台から140.5度600メートルの地点に達したとき、海友丸が同方位490メートルのところに接近したが、このころ中央航路が見通せるようになり、大型船がいないことが確認できたことから、航進目標の第3号灯浮標がある右舷船首方に視線を移したものの、今度は同灯浮標を注視することになって、依然として右舷側から急速に接近する海友丸に気付かず、行きあしを止めるなど同船の進路を避けることなく進行中、05時38分東防波堤灯台から125度580メートルの地点において、第一こんどう丸は、原針路、原速力のまま、その右舷前部と海友丸の船首とが前方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、海友丸は、最大搭載人員8人のFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客4人を乗せ、釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日05時33分博多港第1区の東浜船だまりを発し、福岡市西区小呂島付近の釣場に向かった。
B受審人は、操舵室で手動操舵に当たり、釣客を船室に乗せ、法定の灯火を表示し、機関を微速力前進にかけて船だまり内をゆっくりとした速力で出入口に向かい、05時35分ごろ同出入口を通過し、幅員約220メートルの博多港中央ふ頭と東浜ふ頭との間の水路(以下「中央ふ頭北側水路」という。)に出たところで、同水路を航行する他船を認めなかったので徐々に速力を上げ始め、船首浮上による死角を解消するため、操舵室右舷側に置いた高さ約45センチメートルのクーラーボックスの上に立ち、同室天井右舷側に設けられた見張り用の開口部から顔を出して見張りを行い、左手で舵輪を、右手でクラッチ及び燃料ハンドルを操作しながら、手動操舵によって同水路中央部をこれに沿って進行した。
ところで、海友丸は、操舵室上部の前端に、右舷側が旋回窓となった透明アクリル板を使用した風防が設置されており、見張り用の開口部から顔を出して同旋回窓の後方から見張りを行うと、左舷船首10から30度の範囲内にマスト及びレーダーアンテナの支柱が合計4本立っていて、左舷前方の見通しが部分的に妨げられる状態となっていた。また、B受審人は、漁業を営む傍ら、月間数回程度釣客を乗せて小呂島周辺の釣場に出かけていたので、港内の交通事情などをよく知っていた。
B受審人は、中央ふ頭北側水路の出口付近に差し掛かったころ、前方を一見して他船を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い、05時36分少し過ぎ東防波堤灯台から120度1,500メートルの地点において、機関回転数を全速力前進の毎分2,200まで上げ、18.6ノットの速力に増速し、同時37分少し前同灯台から119度1,310メートルの地点に達して同水路を出たところで、針路を294度に定め、博多港中央航路第7号灯浮標(以下「第7号灯浮標」という。)を正船首わずか左方に見て、手動操舵により続航した。
定針したとき、B受審人は、左舷船首19度840メートルのところに第一こんどう丸の白、緑2灯を視認し得る状況となり、その後、同船の方位に明確な変化がなく、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、水路出口付近で他船を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い込み、右舷船首方の東防波堤灯台及び船首目標としていた第7号灯浮標を注視していて、左舷前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わずに高速力で進行した。
こうして、B受審人は、高速力のまま続航し、05時37分少し過ぎ東防波堤灯台から120.5度1,010メートルの地点に達したとき、第一こんどう丸が同方位490メートルのところに接近したが、依然としてこのことに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行中、海友丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝突の衝撃で失神し、海友丸は、船首が大きく右に振られ、そのまま東防波堤に向けて続航した。
A受審人は、直ちに海友丸を追尾したが、追いつくことができず、間もなく同船が東防波堤灯台から072度560メートルのところの東防波堤に衝突したので、同船に移乗して機関を停止するとともに、海上保安庁に118番通報して救急車の手配を依頼した。
衝突の結果、第一こんどう丸は、右舷前部に凹損及びハンドレールに曲損などを生じ、海友丸は、船首船底部に破口を伴う損傷などを生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が40日の入院加療を要する前頭骨骨折などの重傷を負ったほか、釣客2人が入院加療を要する肋骨骨折などの重傷を、及び釣客2人が打撲などの軽傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、博多港中央航路東口付近において、両船が、互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、第一こんどう丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る海友丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海友丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、博多港中央航路東口付近において、東防波堤寄りをこれに沿って北上する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷側の防波堤入口付近及び右舷船首方の博多港内港湾局第3号灯浮標を注視していて、右舷側の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷側から衝突のおそれのある態勢で急速に接近する海友丸に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、第一こんどう丸の右舷前部に凹損などを、海友丸の船首船底部に破口を伴う損傷などをそれぞれ生じさせ、B受審人ほか釣客4人に重軽傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、博多港中央航路東口付近において、防波堤入口付近に向けて西行する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、中央ふ頭北側水路の出口付近に差し掛かったとき、前方を一見して他船を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い、右舷船首方の博多港東防波堤灯台及び船首目標としていた博多港中央航路第7号灯浮標を注視していて、左舷側の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷側から衝突のおそれのある態勢で接近する第一こんどう丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに、高速力のまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。