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平成14年門審第72号
件名

漁船宝栄丸貨物船ニュー ガーディアン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、長浜義昭、橋本 學)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:宝栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
宝栄丸・・・船首部を大破、のち廃船
ガ 号・・・右舷船首部に擦過傷

原因
宝栄丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、行会いの航法(右側通行)不遵守
ガ 号・・・見張り不十分、行会いの航法(右側通行)不遵守

主文

 本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近中、トロールにより漁ろうに従事していることを示す法定の灯火を表示しないで小型機船底びき網漁業に従事する宝栄丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、ニューガーディアンが、見張り不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月6日19時48分
 山口県宇部港南方の周防灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船宝栄丸 貨物船ニューガーディアン
総トン数 4.74トン 17,057.00トン
全長   166.00メートル
登録長 9.00メートル 158.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15  
出力   5,479キロワット

3 事実の経過
 宝栄丸は、小型機船底びき網漁業に従事する木製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.20メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成13年8月6日15時00分福岡県稲童漁港を発し、山口県宇部港南方の周防灘の漁場に向かい、16時10分同漁場に到着して操業を開始した。
 ところで、宇部港南方の周防灘は、小型機船底びき網漁業をはじめとして各種漁業が盛んな海域であるとともに、一般船舶の通航も多く、下関南東水道第4号灯浮標(以下「第4号灯浮標」という。)及び周防灘航路第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)など推薦航路の中央を示す灯浮標が5海里おきに設置され、第4号灯浮標及び第1号灯浮標を結ぶ103.7度〔283.7度〕(真方位、以下同じ。)の方位線が両灯浮標間の基準針路となっていて、東西方向に航行する船舶が各灯浮標を左舷に見て航行していた。
 A受審人は、船尾両舷からワイヤロープのひき綱を繰り出して、船尾から底びき網の後端までの距離を約130メートルとし、水深25ないし30メートルの海域で約1時間かけて曳き(ひき)、その間に漁獲物の選別作業などを行い、1回の操業に約1時間20分を要して、えびの漁獲を目的とした底びき網漁を繰り返し操業していた。
 A受審人は、これまで夜間に操業する際、操舵室前部のマスト頂部に黄色回転灯を点灯して操業すると、他船が自船を避けてくれていたので、トロールにより漁ろうに従事することを示す法定の灯火である緑色及び白色両全周灯(以下「漁ろう灯」という。)を表示せずに、同回転灯を点灯して操業していた。
 A受審人は、日没となったころ、いつものように漁ろう灯を表示せず、航行中の動力船の灯火である白色全周灯及び両色灯を表示したほか、黄色回転灯、船尾の揚網用やぐら頂部に100ワットの白熱球1個及び船尾甲板を照らす作業灯3個を点灯して操業を続けた。
 19時20分A受審人は、本山灯標から164度2.3海里の水深約25メートルの地点において投網し、針路を282度に定め、機関を回転数毎分2,400とし、2.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、舵棒を中央としたまま手動操舵によって曳網(えいもう)を開始し、間もなく、周囲に接近するおそれのある他船を認めなかったことから、操舵室を離れて船尾甲板で前回の操業で漁獲したえびの選別作業を始めた。
 19時43分A受審人は、本山灯標から189度2.0海里の地点において、右舷船首1.5度1,950メートルのところにニューガーディアンの白、白、緑、紅4灯を視認し得る状況となり、その後、同船とほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近したが、黄色回転灯を点灯しているので、他船の方で曳網中の自船を避けてくれるものと思い、船尾甲板で選別作業を続けていて、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じることなく進行した。
 こうして、A受審人は、船尾甲板で選別作業を行いながら曳網を続け、19時46分本山灯標から192.5度2.0海里の地点に達したとき、ニューガーディアンが同方位780メートルのところに接近したが、依然としてこのことに気付かず、針路を右に転じないまま続航中、同時48分少し前正船首至近に迫った同船を認め、汽笛を吹鳴したが、効なく、19時48分本山灯標から195度2.0海里の地点において、宝栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、ニューガーディアンの右舷船首に前方から2度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視界は良好で、日没時刻は19時12分であった。
 また、ニューガーディアンは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長P(台湾籍)ほか19人(いずれも中華人民共和国籍)が乗り組み、石炭24,002トンを積載し、船首8.54メートル船尾9.26メートルの喫水をもって、同月4日08時56分(現地時間)中華人民共和国ジンタン港を発し、関門海峡経由で兵庫県姫路港に向かった。
 P船長は、関門海峡通過後も引き続き操船の指揮を執り、一等航海士ロアンファミンを操舵室右舷側にある自動衝突予防援助機能付きのレーダーに就けて操船を補佐させ、操舵手を手動操舵に就け、法定の灯火を表示し、19時35分本山灯標から243度3.0海里の地点において、第4号灯浮標の南南西方を通過したところで、針路を104度に定め、10.2ノットの速力で、推薦航路の右側をこれに沿って進行した。
 P船長は、前部甲板に設置された4基のデッキクレーンにより死角を生じていたので、操舵室内を左右に移動しながら操船に当たり、19時43分本山灯標から218度2.2海里の地点において、左舷船首0.5度1,950メートルのところに、宝栄丸の白、緑、紅3灯を視認し得る状況となり、その後、同船とほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近したが、操舵室の左舷側に立って、左舷船首方に存在する第1号灯浮標を確認することに気を取られ、前路の見張りを十分に行わず、また、一等航海士もレーダー見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じることなく続航した。
 こうして、P船長は、操舵室の左舷側で第1号灯浮標の確認に当たっていたところ、19時46分本山灯標から204.5度2.0海里の地点に達したとき、宝栄丸がほぼ正船首780メートルのところに接近したが、依然としてこのことに気付かず、針路を右に転じないまま進行中、同時48分少し前、正船首わずか右方至近のところに宝栄丸のマスト灯及び両色灯を認め、衝突の危険を感じて左舵一杯とし、汽笛を吹鳴したが、効なく、ニューガーディアンは、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 P船長は、衝突現場で回頭したものの、損傷状況などの確認を十分に行わず、事故発生の通報もしないまま現場を離れ、同日21時05分大分県国東半島沖合を航行していたところ、海上保安庁から衝突した事実を告げられ、反転して宇部港沖に錨泊した。
 衝突の結果、宝栄丸は、船首部を大破したほか、推進器軸に曲損を生じ、のち廃船とされ、ニューガーディアンは、右舷船首部に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、山口県宇部港南方の周防灘において、両船が、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近する際、トロールにより漁ろうに従事していることを示す法定の灯火を表示しないで小型機船底びき網漁業に従事する宝栄丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、ニューガーディアンが、見張り不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、山口県宇部港南方の周防灘において、小型機船底びき網漁業に従事する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、トロールにより漁ろうに従事していることを示す法定の灯火を表示しなくても、黄色回転灯を点灯しているので、他船の方で曳網中の自船を避けてくれるものと思い、操舵室を離れて船尾甲板で漁獲物の選別作業を行い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれのある態勢で接近するニューガーディアンに気付かず、同船の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じることなく進行して衝突を招き、宝栄丸の船首部を大破させ、ニューガーディアンの右舷船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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