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平成14年門審第58号
件名

引船第二福錨引船列漁船祐徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、上野延之、橋本 學)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:第二福錨船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二福錨甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:祐徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
福錨引船列・・・曳航索及びF号の右舷船首部に擦過傷
祐徳丸・・・左舷後部に亀裂を伴う損傷

原因
福錨引船列・・・法定灯火不表示、動静監視不十分、横切の航法(避航動作)不遵守(主因)
祐徳丸・・・見張り不十分、横切の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二福錨引船列が、被曳航船舶に法定の灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、前路を左方に横切る祐徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、祐徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月18日21時18分
 福岡湾口沖合の玄界灘

2 船舶の要目
船種船名 引船第二福錨 漁船祐徳丸
総トン数 19トン 14トン
登録長 15.00メートル 17.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 503キロワット
船種船名 浚渫船FK100  
総トン数 約162トン  
全長 23.00メートル  
8.00メートル  
深さ 2.20メートル  

3 事実の経過
 第二福錨は、鋼製の引船兼作業船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、船首0.9メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、新造の浚渫船FK100(以下「F号」という。)を回航する目的で、船首尾とも0.5メートルの喫水となった非自航で無人のF号を、福錨の曳航用(えいこうよう)フックに取った直径65ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ50メートル及び直径60ミリ長さ25メートルのいずれも合成繊維索とを繋いだ曳航索と、F号の船首部両端から直径60ミリ長さ12メートルの合成繊維索2本をV字型に取った取付け索とを連結して曳航し、第二福錨の船尾からF号の後端までの距離を約105メートルの引船列(以下「福錨引船列」という。)として、平成13年7月17日08時30分兵庫県由良港の造船所を発し、長崎県佐世保港に向かった。
 ところで、F号は、新造されたばかりのバックホー搭載型のスパット式浚渫船で、船首部がバックホーを搭載するために一段低くなっており、両舷中央部及び船尾中央部の3箇所にそれぞれ一辺の長さ40センチメートルの四角柱のスパットを備えていたほかは、ボラード及びビットが設置されていただけで、佐世保港回航後に船員室、マスト及び灯火などの各設備が艤装(ぎそう)されることになっていた。
 発航に先立ち、A受審人は、佐世保港まで直航すると夜間航海になることから、F号の船首尾両舷側4箇所のボラード基部に長さ1.5メートルの鋼管を溶接して立て、その頂部の海面上2.5ないし3.2メートルのところに、灯質が黄光及び毎4秒に1閃光(明間0.4秒)で、光達距離が約4キロメートルの単1乾電池4個を使用する日光弁付き小型標識灯(以下「標識灯」という。)をそれぞれ取り付け、これが点灯すれば、法定の灯火を表示しなくても、他船に対してF号の存在を十分に認識させることができるものと思い、F号に被曳航船舶の法定の灯火である両舷灯及び船尾灯を仮設しなかった。
 A受審人は、船橋当直を、自らとB受審人とによる2直体制を採り、自らは6時間交替の単独当直、及びB受審人には一級小型船舶操縦士の免許を有する甲板員1人を補佐させて4時間交替とし、瀬戸内海を西行した。
 翌18日12時00分A受審人は、周防灘で船橋当直に就き、15時00分ごろ関門海峡東口に達したとき、昇橋したB受審人に操船を補佐させて同海峡を通過し、響灘を西行して倉良瀬戸に向かい、18時30分ごろ同瀬戸東口に差し掛かったところで、第二福錨にマスト灯3個、両舷灯、引き船灯及び船尾灯を表示し、再度、B受審人に操船を補佐させて同瀬戸に入った。
 19時30分A受審人は、筑前大島灯台から179度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点において、倉良瀬戸を通過したところで、針路を229度に定め、機関回転数毎分1,280の7.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、F号の標識灯4個がいずれも自動点灯したので、投光器によりF号を照射することなく、B受審人に船橋当直を引き継いだ。
 船橋当直に就いたB受審人は、第二福錨及びF号の各灯火が点灯していることを確認し、操舵室右舷側にある操舵装置の後方でいすに腰を掛け、甲板員を左舷側で見張りに当たらせ、引き続き同じ針路及び速力で、自動操舵により福岡湾口の玄界島北方に向けて西行した。
 21時09分B受審人は、玄界島灯台から334度1.6海里の地点において、右舷船首63度2.0海里のところに祐徳丸の紅灯を初めて視認し、同船の背後で操業する漁船群の集魚灯との関係で同紅灯の移動速度が速かったので、高速力で南下する同船が自船の前路を無難に通過するものと思い、3海里レンジとしたレーダーを有効に活用するなど、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、その後、同船の方位に明確な変化がなく、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、十分に余裕のある時期に速力を減じるなど、祐徳丸の進路を避けることなく進行した。
 こうして、B受審人は、祐徳丸の進路を避けずに続航し、21時15分半玄界島灯台から304度1.7海里の地点において、祐徳丸が同方位1,000メートルのところに接近したが、同船が自船の前路を無難に通過するものと思い込み、いすに腰を掛けたまま漫然と船橋当直を続け、依然として衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行中、同時18分わずか前、右舷前方至近に迫った同船が左回頭しているのを認めたが、どうすることもできず、21時18分玄界島灯台から294度1.7海里の地点において、福錨引船列は、原針路、原速力のまま、第二福錨の船尾から約30メートル後方の曳航索に、祐徳丸の船首が後方から82度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
 A受審人は、自室で仮眠をとっていたところ、機関音の変化に気付いて昇橋し、事後の措置に当たった。
 また、祐徳丸は、沖合たい2そうごち網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月18日05時00分僚船とともに福岡県沖ノ島漁港を発し、06時10分同漁港南西方の漁場に至って2そうごち網漁の操業を開始した。
 19時10分C受審人は、たいなど約1,050キログラムを漁獲して操業を終え、沖ノ島灯台から219度14.1海里の地点を発進し、水揚げのため福岡湾口西部にある唐泊漁港に向かい、法定の灯火を表示し、操舵室左舷前面にあるレーダーを作動させ、針路を147度に定め、機関回転数毎分1,650の12.0ノットの速力で、自動操舵によって進行した。
 C受審人は、漁場発進時から単独で船橋当直に就き、操舵室左舷側でいすに腰を掛けて操船に当たっていたところ、21時09分玄界島灯台から311度3.3海里の地点において、左舷船首35度2.0海里のところに第二福錨の白、白、白、緑4灯を視認し得る状況となったが、見張りを十分に行っていなかったので、同灯火に気付かず、また、レーダーを0.75海里レンジとしていたので、福錨引船列の映像を探知することができなかった。
 21時14分半C受審人は、玄界島灯台から303度2.3海里の地点において、ようやく左舷船首35度1,500メートルのところに第二福錨の白、白、白、緑4灯を視認し、0.75海里レンジとしたレーダーで福錨引船列の映像を探知したものの、同映像が1個だけ表示されており、F号に法定の灯火が表示されていなかったことと、投光器によりF号の方向を照射するなどの措置がとられていなかったこともあって、第二福錨がF号を曳航していることに気付かなかったばかりか、白、白、白3灯を表示した第二福錨を、大型プレジャーボートが集魚用の投光器で海面を照射してトローリングしながら単独で航行しているものと誤信し、同船の動静を監視しながら続航した。
 C受審人は、その後、第二福錨の方位に明確な変化がなく、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め、そのうち避航船である第二福錨が自船を避けるものと思い、針路及び速力を保って進行し、21時15分半玄界島灯台から301度2.1海里の地点に達して、福錨引船列が同方位1,000メートルのところに接近したとき、F号の標識灯を視認し得る状況となったが、第二福錨が単独で航行しているものと思い込み、見張りを十分に行わなかったので、依然としてF号を曳航していることに気付かず、第二福錨に対して汽笛信号装置故障のため警告信号により避航を促すこともできないまま、同船の避航を期待して続航した。
 こうして、C受審人は、第二福錨に対する動静監視を行っていたものの、その後方の見張りを十分に行わず、F号の標識灯に気付かないまま針路及び速力を保って進行中、21時18分少し前第二福錨が左舷船首約100メートルのところに接近したとき、同船との衝突を避けるための協力動作をとろうとして左転し、同船の船尾を替わしたところで右舵をとって元の針路に復したところ、福錨引船列の曳航索に向けることになり、祐徳丸は、原速力のまま、前示のとおり曳航索に衝突し、さらに、機関を停止したところ、その左舷後部が、F号の右舷船首部に衝突した。
 衝突の結果、福錨引船列は、曳航索及びF号の右舷船首部に擦過傷を、祐徳丸は、左舷後部に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、福岡湾口沖合の玄界灘において、両船が、互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、第二福錨引船列が、被曳航船舶に法定の灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、前路を左方に横切る祐徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、祐徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が適切でなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、兵庫県由良港の造船所から長崎県佐世保港に向け、第二福錨により新造の浚渫船FK100を曳航する場合、夜間航海となるから、FK100に被曳航船舶の法定の灯火である両舷灯及び船尾灯を設備すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、FK100の四隅にそれぞれ小型標識灯を取り付けたので、これが点灯すれば、法定の灯火を表示しなくても、他船に対してFK100の存在を十分に認識させることができるものと思い、法定の灯火を設備しなかった職務上の過失により、祐徳丸に対してその存在を認識させることができず、衝突を避けるための協力動作をとろうとした祐徳丸が、第二福錨引船列の曳航索に向けて進行して衝突を招き、曳航索及びFK100の右舷船首部に擦過傷を、祐徳丸の左舷後部に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
 B受審人は、夜間、福岡湾口沖合の玄界灘において、FK100を曳航して西行中、前路を左方に横切る態勢の祐徳丸の灯火を視認した場合、衝突のおそれの有無について判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、一見して祐徳丸が高速で南下しているので、自船の前路を無難に通過するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、祐徳丸が前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、十分に余裕のある時期に速力を減じるなど、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
 C受審人は、夜間、福岡県沖ノ島沖合の漁場から福岡湾口に向けて南下中、第二福錨が連掲した白、白、白3灯を視認した場合、その灯火が船舶その他の物件を曳航していることを示しているから、被曳航船舶などを見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、白、白、白3灯を表示した第二福錨を、大型プレジャーボートが集魚用の投光器で海面を照射してトローリングしながら単独で航行しているものと誤信し、同船の後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、第二福錨が小型標識灯だけを点灯したFK100を曳航していることに気付かず、自船を避航しないまま間近に接近した第二福錨との衝突を避けるため、協力動作をとろうとして同船の船尾方に転針したところ、第二福錨引船列の曳航索に向けることになり、行きあしを止めるなどの適切な協力動作をとらずに進行して同曳航索との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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