(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月11日07時40分
六連島西水路
2 船舶の要目
船種船名 |
瀬渡船第23航海丸 |
漁船No.101ソンジン |
総トン数 |
4.8トン |
242トン |
全長 |
15.50メートル |
登録長 |
11.95メートル |
37.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
323キロワット |
661キロワット |
3 事実の経過
第23航海丸(以下「航海丸」という。)は、最大搭載人員が23人のFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客8人を乗せ、瀬渡しの目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成13年4月11日05時00分山口県下関漁港南風泊地区を発し、霧模様の天候下、同漁港北西方約1.5海里沖合の馬島の護岸ブロックに6人、約3海里沖合の藍島大泊沖防波堤に2人の釣客をそれぞれ瀬渡したのち、07時30分同防波堤から発航地へ向けて帰途についた。
ところで、A受審人は、藍島に到着したころから霧が濃くなってきたので、また、霧中での航海に不慣れでもあったことから、安全を慮り、前示防波堤で霧が晴れるまでの予定で待機していたところ、しばらくして、やや視界が開け、同島瀬ケ埼の先端部や馬島が見えてきたので、レーダーによる見張りを行いながら、GPS画面上に残された往航の軌跡を辿って帰途についたものであった。
A受審人は、藍島東方約0.5海里の古敷岩を航過したころから、再び霧が濃くなって視程が200メートル以下となり、視界制限状態となったことを認めたが、それまで全速力前進であった速力をやや減じたものの、霧中信号を行うことなく航行し、07時31分半藍島港本村南2防波堤灯台から092度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点に至ったとき、六連島西水路第3号灯浮標(以下、灯浮標名については「六連島西水路」を省略する。)及び第5号灯浮標間の片島西方沖合に向首して、針路を149度に定め、適宜、機関を半速力及び微速力前進に掛け、平均8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵によって進行した。
そして、A受審人は、07時32分少し過ぎ藍島港本村南2防波堤灯台から099度1,320メートルの地点に達したとき、1.5乃至0.75海里レンジとして使用していたレーダー画面上、左舷正横1,350メートルのところに、No.101ソンジン(以下「ソ号」という。)を認め得る状況となったが、左舷前方に、片島、離島、馬島及び和合良島などの島々並びに同島嶼周辺の干出岩などの映像が多数映っていたことから、また、霧中での航海に不慣れでもあったことから、これらの映像に気をとられ、レーダーによる周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
こうして、A受審人は、その後、ソ号と著しく接近することが避けられない状況となったが、依然として、レーダーによる周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航中、一層霧が濃くなったことから、07時37分馬島港B防波堤灯台から309度1,780メートルの地点で、速力を7.0ノットに減じ、更に同時40分少し前5.0ノットとしたとき、レーダー画面上、左舷間近にソ号の映像を認めるとともに、至近に迫った同船を視認して衝突の危険を感じ、急いで機関を全速力後進に掛けたが、効なく、07時40分馬島港B防波堤灯台から299度1,200メートルの地点において、航海丸は、原針路、ほぼ5.0ノットの速力で、その左舷船首に、ソ号の船首が、後方から37度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の東南東風が吹き、衝突地点付近海域の視程は200メートル以下であった。
また、ソ号は、専ら大韓民国及び日本間の水産物輸送に従事する鋼製漁船で、大韓民国の国籍を有する船長Cほか同国人1人及びインドネシア人6人が乗り組み、鮮魚等27,074.4キログラムを積載し、船首1.10メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、同月10日21時40分大韓民国釜山港を発し、関門港下関区へ向かった。
翌11日06時30分C船長は、藍島北方沖合の響灘を南下中、船橋当直の甲板長から、霧のため視界が悪くなった旨の報告を受けて昇橋したところ、既に視程が200メートル以下となり、視界制限状態となっていることを認めたので、直ちに甲板長を操船補佐に、甲板員を操舵にそれぞれ配して、自らが操船の指揮を執ったものの、霧中信号を行うことも、安全な速力に減ずることもなく航行し、07時32分少し過ぎ馬島港B防波堤灯台から344度1.6海里の地点に至ったとき、六連島西水路に向けて、針路を186度に定め、機関を全速力前進に掛け、11.0ノットの速力で、手動操舵によって進行した。
定針したとき、C船長は、それぞれ1.5及び0.75海里レンジとして使用していた主従の両レーダーの画面上、右舷船首53度1,350メートルのところに、航海丸の映像を認めたものの、このとき、左舷船首方に映っていた第3号灯浮標に気をとられ、レーダーによる同船の動静監視を十分に行わなかったので、その後、同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく続航した。
そして、C船長は、07時35分馬島港B防波堤灯台から335度2,150メートルの地点に至ったとき、一段と霧が濃くなってきたことから、船首に甲板長を見張りに立てるとともに、機関を半速力前進として速力を9.0ノットに減じたものの、依然として、レーダーによる航海丸の動静監視を十分に行うことなく進行した。
こうして、C船長は、07時38分少し過ぎ第3号灯浮標を左舷正横に視認し、これを航過したとき、再びレーダー画面を見たところ、方位が変わらないまま300メートルまで接近した航海丸の映像を認めて汽笛を1回鳴らしたものの、同船は、間もなく、自船と同じように六連島西水路に沿って南下するものと思い、同じ針路、速力で続航中、07時40分わずか前右舷船首至近に迫った航海丸を視認して衝突の危険を感じ、急いで機関を全速力後進に掛けたが、効なく、ソ号は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、航海丸は、左舷前部のブルワークを圧壊し、ソ号は、船首部に擦過傷を生ずるに至ったが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、航海丸及びソ号両船が、視界制限状態となった六連島西水路を航行中、航海丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、ソ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行したことと、ソ号が、霧中信号を行わず、レーダーによる動静監視不十分で、航海丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行したこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界制限状態となった六連島西水路を航行する場合、他船と著しく接近することがないよう、レーダーによる周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、レーダー画面上、左舷前方に映っていた島嶼などの多数の映像に気をとられ、レーダーによる周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷正横方向から接近したソ号に気付かず、霧中信号を行わなかったばかりか、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して、同船との衝突を招き、航海丸の左舷前部ブルワークを圧壊し、ソ号の船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。