日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第70号
件名

漁船忠弘丸プレジャーボートなかむら衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、河本和夫、橋本 學)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:忠弘丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:なかむら船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
忠弘丸・・・船首部に擦過傷
なかむら・・・左舷後部外板に亀裂

原因
忠弘丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主 因)
なかむら・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、忠弘丸が、見張り不十分で、錨泊中のなかむらを避けなかったことによって発生したが、なかむらが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月24日14時40分
 山口県三田尻中関港

2 船舶の要目
船種船名 漁船忠弘丸 プレジャーボートなかむら
総トン数 4.8トン  
全長   2.97メートル
登録長 11.30メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   2キロワット
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 忠弘丸は、船体中央から少し船尾寄りに操舵室を有し、底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年7月24日14時30分山口県三田尻中関港三田尻地区西部の向島漁港を発し、大分県姫島南東方8海里の漁場に向かった。
 ところで、忠弘丸の操舵室は、左舷前部出入口付近の、縦横ともに0.5メートルのコの字状の床面を除く部分が床面上高さ0.6メートルの板の間になっており、A受審人は、平素、床面に足を置き、体を正船首から少し左舷方に向けて板の間に腰を掛け、船体中央から左舷寄りに設置した操舵輪を右手で握って手動操舵に当たっていた。
 発航後、A受審人は、いつものように操舵室板の間に腰を掛けた姿勢で操船に当たり、向島漁港港口の防波堤を航過したのち、14時37分三田尻中関港郷ケ崎防波堤灯台(以下「郷ケ崎防波堤灯台」という。)から072度(真方位、以下同じ。)60メートルの地点で、針路を三田尻中関港三田尻地区港口中央付近に築造中の防波堤南端を正船首の少し左方に見る124度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力で、向島北岸沿いを手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、正船首640メートルのところになかむらを視認することができ、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、その後、船尾を風に立て、東北東方に向首したまま全く移動しない様子から同船が錨泊中であることが分かり、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、それまで向島北岸沿いの海域で、日中、錨泊や漂泊を行っている漁船やプレジャーボートを見た経験がほとんどなかったことから、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかったので、なかむらを見落とし、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、同じ姿勢のまま、専ら左舷前方の防波堤に視線を向けて進行中、14時40分郷ケ崎防波堤灯台から120度680メートルの地点において、忠弘丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、なかむらの左舷後部に後方から53度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突に気付かないで周防灘を南下中、15時10分ごろ所属している防府市漁業協同組合の知り合いから連絡を受けて、衝突の事実を知り、直ちに帰港した。
 また、なかむらは、船外機を取り付けたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日10時00分向島漁港を発し、向島北岸沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、10時10分目的の釣り場に至って魚釣りを始め、3回ばかり場所を変えたのち、14時00分前示衝突地点付近に移動して機関を停止し、船尾から重さ5キログラムの錨を水深3メートルの海底に下ろし、直径10ミリメートルの合成繊維製錨索を10メートル延出して左舷船尾舷縁のアイに止め、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、船尾を風に立てて錨泊し、船体後部に腰を下ろして左舷方を向いた姿勢で竿釣りを始めた。
 14時37分B受審人は、船首が071度を向いていたとき、左舷船尾53度640メートルのところに向島漁港港口から出てきた忠弘丸が自船に向首するのを認め、その後、衝突のおそれがある態勢で接近することを知り、引き続きその動静を監視していたところ、避航の気配を見せないで間近に接近したが、いずれ航行中の忠弘丸が錨泊中の自船を避けるものと思い、直ちに船外機を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けた。
 B受審人は、14時40分少し前至近に迫った忠弘丸に衝突の危険を感じて立ち上がり、同船に向かって叫んだのち、急いで揚錨したが、船外機を始動する間もなく、右舷側から海中に飛び込んだ直後、なかむらは、船首を071度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、忠弘丸は、船首部に擦過傷を生じ、なかむらは、左舷後部外板に亀裂を生じたが、同船はのち修理された。また、B受審人は、付近で操業中の漁船に救助された。

(原因)
 本件衝突は、山口県三田尻中関港三田尻地区において、漁場に向けて航行する忠弘丸が、見張り不十分で、錨泊中のなかむらを避けなかったことによって発生したが、なかむらが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県三田尻中関港三田尻地区において、向島北岸沿いの海域を漁場に向けて航行する場合、前路で錨泊中の他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、それまで向島北岸沿いの海域で、日中、錨泊や漂泊を行っている漁船やプレジャーボートを見た経験がほとんどなかったことから、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のなかむらを見落とし、同船に衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、忠弘丸の船首部に擦過傷を、なかむらの左舷後部外板に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 B受審人は、山口県三田尻中関港三田尻地区において、向島北岸沿いの海域で魚釣りのため錨泊中、忠弘丸が衝突のおそれがある態勢のまま避航の気配を見せないで間近に接近するのを認めた場合、直ちに船外機を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、いずれ航行中の同船が錨泊中の自船を避けるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、忠弘丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
(拡大画面:27KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION