(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月4日04時30分
福岡県遠賀川河口
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第二朝風 |
プレジャーボートマナ |
登録長 |
11.31メートル |
6.27メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
25キロワット |
66キロワット |
3 事実の経過
第二朝風(以下「朝風」という。)は、船体後部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、釣り仲間3人を乗せ、いか釣りを行う目的で、船首0.2メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成13年8月3日18時40分福岡県遠賀川の支流西川の係留地を出航し、20時ごろ同県白島北西方沖合の釣り場に至って釣りを行い、翌4日03時00分柏原港西防波堤灯台から005度(真方位、以下同じ。)12.1海里の地点を発し、法定灯火を表示して、帰港の途についた。
ところで、遠賀川河口部は、その河口端になみかけ大橋が、その上流550メートル付近に芦屋橋が架かっていて、川幅は240メートルほどあるが、右岸から110メートル付近まで張り出している砂州及び左岸側に係留している停泊船などにより、可航幅は最狭部で数十メートルに狭められており、上下航する船舶は、平素、なみかけ大橋の左岸から2番目と3番目(橋脚間幅約84メートル)との、芦屋橋の左岸から3番目と4番目又は4番目と5番目(それぞれ橋脚間幅約23メートル)との橋脚の間を航行していた。
朝風は、遠賀川を上航して係留地に至るまでに、3箇所の橋梁下を航行するが、なみかけ大橋は航行に問題ないものの、芦屋橋及び支流西川入口の西祇園橋の各橋梁は桁下高さが十分でなく、このため航行に支障のないよう、操舵室前方の、マスト灯や両色灯などが設置された可倒式マストを事前に倒す必要があった。
04時25分A受審人は、遠賀川河口の導流提北端から100メートルの地点に至り、針路をなみかけ大橋の左岸から2番目と3番目との橋脚の間に向け、同川の上航を開始した。
A受審人は、なみかけ大橋の橋梁下を通過したのち、04時28分半芦屋港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から086度1,280メートルの地点で、針路を芦屋橋の左岸から3番目と4番目との橋脚の間に向く137度に定め、機関を半速力前進に掛け、6.8ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、芦屋橋橋梁下を通過するために、同乗者に命じて可倒式マストを倒す作業を開始し、04時29分北防波堤灯台から089度1,310メートルの地点に至ったとき、同作業を終えたが、それまですれ違う船もなく、早朝でもあったことから、出港する他船はいないものと思い、以降、所持していた懐中電灯を使用するなどして自船の存在を示す灯火を表示しなかった。
A受審人は、可倒式マストを倒す作業が終了したとき、正船首わずか左400メートルのところにマナが存在し、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船が法定灯火を表示していなかったので、これを視認できないまま続航するうち、04時30分わずか前、正船首わずか左の至近距離にマナの操舵室前面を認め、衝突の危険を感じ、機関を後進に切り替えたが、効なく、北防波堤灯台から095度1,460メートルの地点で、朝風は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が、マナの左舷側中央部に前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好で、月齢は13日で、月没は05時07分であった。
また、マナは、船外機を装備し、船体中央部に操舵室を設けたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣り仲間2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同月4日04時15分西川の係留地を発し、波津白瀬の北西方1海里ばかりの釣り場に向かった。
出港時B受審人は、機関を始動したとき室内灯、航海灯及び操舵室前部に設置した前照灯を点灯したが、出港後間もなく、見張りの妨げとなる室内灯及び前照灯を消灯した際、これまで夜間に出港したことがほとんどなかったことから、うっかりして航海灯も同時に消灯し、以降、法定灯火を表示することなく、西川及び遠賀川を下航した。
B受審人は、遠賀川の中央よりやや左岸側を航行し、芦屋橋の左岸から3番目と4番目との橋脚の間を通過したのち、04時29分北防波堤灯台から100度1,620メートルの地点で、針路をなみかけ大橋の左岸から2番目と3番目との橋脚の間に向く316度に定め、機関を微速力前進に掛け、6.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
定針したときB受審人は、正船首わずか右400メートルのところに朝風が存在し、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船が自船の存在を示す灯火を表示していなかったので、これを視認できないまま続航中、04時30分わずか前、正船首方至近に朝風の船首部を認め、衝突の危険を感じ右舵一杯としたが、及ばず、マナは、船首が337度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、朝風は左舷錨に損傷等を、マナは左舷後部外板の圧壊及び操舵室左舷側囲壁に亀裂をそれぞれ生じ、マナの同乗者1人が左手指の骨折及び挫創等を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、両船が遠賀川河口を航行する際、上航中の朝風が、自船の存在を示す灯火を表示しなかったことと、下航中のマナが法定灯火を表示しなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、遠賀川を上航する際、桁下高さの十分でない橋梁下を通過するためにマスト灯や両色灯などが設置された可倒式マストを倒す場合、懐中電灯を点灯するなどして自船の存在を示す灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、早朝に出港する他船はいないものと思い、自船の存在を示す灯火を表示しなかった職務上の過失により、マナに自船の存在を示さないまま進行して同船との衝突を招き、朝風の左舷錨に損傷等を、マナの左舷後部外板に圧壊及び操舵室左舷側囲壁に亀裂をそれぞれ生じさせ、マナの同乗者1人に左手指の骨折及び挫創などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
B受審人は、夜間、遠賀川を下航する場合、法定灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前照灯及び室内灯を消灯した際、これまで夜間に出港したことがほとんどなかったことから、うっかりして航海灯も同時に消灯し、以降、法定灯火を表示しなかった職務上の過失により、朝風に自船の存在を示さないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。