(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月31日07時25分
長崎県対馬神埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十七大祐丸 |
プレジャーボート大和丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
47.54メートル |
12.05メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット |
235キロワット |
3 事実の経過
第十七大祐丸(以下「大祐丸」という。)は、まき網船団の運搬船として使用される鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか7人が乗り組み、漁獲物1,800キログラムを積載し、船首約2.4メートル船尾約4.2メートルの喫水をもって、平成13年7月31日04時30分長崎県対馬郷埼北西方6海里付近のまき網漁場を発進し、博多港へ向かった。
ところで、大祐丸が所属するまき網船団は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船2隻の計5隻で編成され、去る7月8日08時10分長崎県青方港を出港して以来、対馬周辺海域において連続して操業を行っていたのであるが、その間、大祐丸は、網船及び灯船への食料等の補給、並びに船団の漁獲物を瀬取りして最寄りの水揚げ港まで運搬する作業に従事していたものであり、事故当日は、前示漁場での漁獲物の瀬取りを終え、水揚げ予定港である博多港へ向かっていたところであった。
また、当時、大祐丸は、船尾トリムにより船首部が浮上し、船首構造物によって水平線が隠れて、前方に船首両舷に渡って約5度の死角が生じた状態であった。
漁場発進後、A受審人は、対馬西岸を南下し、06時08分豆酘埼灯台から223度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に至ったとき、壱岐島の魚釣埼沖合2海里ばかりの地点に向首したのち、次直のB指定海難関係人に船橋当直を命じたのであるが、その際、前示した死角が生じていたのであるから、同指定海難関係人に対し、ときどき操縦室内を左右に移動するなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うよう明確に指示する必要があったものの、同指定海難関係人が航海当直部員の認定を受けており、これまでも、昼夜を問わず、無難に船橋当直を遂行していたことから、特に指示しなくても大丈夫と思い、その旨の明確な指示を行わなかった。
B指定海難関係人は、A受審人の命を受け、06時から08時の予定で船橋当直に当たっていたところ、対馬海峡東水道を日本海方面へ向かう、自船より速い大型貨物船が右舷後方から迫ってきたので、同船と著しく接近することがないよう、06時53分神埼灯台から132度5.7海里の地点で、左に転舵を行い、約1海里の距離を保って並航した。
07時11分半B指定海難関係人は、前示貨物船が、自船の船首を替わって前に出たので、元の針路線上に復するため、神埼灯台から102度8.3海里の地点で、針路を156度に定め、機関を全速力前進に掛け、12.0ノットの対地速力で、手動操舵によって進行した。
定針したのち、B指定海難関係人は、自船の前方に死角が生じていたのであるから、ときどき操縦室内を左右に移動するなどして、船首死角を補う見張りを十分に行う必要があったが、レーダーの監視に頼り、雨雪消去機能などの各種調整が適切でないと、小さな船などは、往々にして、レーダーの画面上に映像として捉えることができない場合があることに思い至らず、それら各種調整を適切に行わないまま、レーダー画面上には他船の映像などが全て映るものと思い、死角を補う見張りを十分に行わずに続航した。
そして、B指定海難関係人は、07時22分神埼灯台から118度9.7海里の地点に至ったとき、正船首方0.6海里のところに、漂泊中の大和丸を視認することができ、その後、その方位に変化がないことや接近模様などから、同船が、停留しているか否かを判別できる状況となったが、各種調整が適切に行われていない状態のレーダー監視に頼り、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かずに進行した。
こうして、B指定海難関係人は、漂泊中の大和丸を避けないまま続航中、07時25分神埼灯台から120度10.2海里の地点において、大祐丸は、原針路、原速力で、その右舷船首が、大和丸の左舷船首に直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、大和丸は、船体中央部やや後方に操縦室を有するFRP製プレジャーボートで、C受審人が1人で乗り組み、友人4人を乗せ、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月31日02時30分長崎県北松浦郡里免に在する有限会社田中造船の係留地を出て、途中、佐賀県高串漁港に寄港して釣り餌を購入したのち、03時30分同漁港を発し、対馬海峡東水道の釣り場へ向かった。
06時30分C受審人は、釣り場に到着して、一旦、機関を中立としたまま朝食をとり、その後、07時05分前示衝突地点付近に移動して機関を停止したのち、更に、航海計器類のスイッチを全て切った状態で、船尾からパラシュート型シーアンカーを流して漂泊を開始した。
そして、C受審人は、船首を東北東に向け、後部甲板に置いたいすに腰を掛けて、左舷側を向いて1本釣りをしていたところ、07時22分左舷正横0.6海里のところに、自船に向首して接近する大祐丸を視認することができ、その後、同船が避航措置をとらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、釣りに熱中していて、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、C受審人は、大祐丸の接近に気付かないまま、警告信号を行うことも、機関を使用して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置もとらずに漂泊中、大和丸は、船首を066度に向けていたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大祐丸は、右舷側船首外板に擦過傷を生じ、大和丸は、左舷船首部を損壊するに至ったが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、長崎県対馬神埼南東方沖合において、航行中の大祐丸が、見張り不十分で、漂泊中の大和丸を避けなかったことによって発生したが、大和丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
大祐丸の運航が適切でなかったのは、船長が、航海当直部員の認定を受けた無資格者に単独での船橋当直を命じる際、船首死角を補う見張りを十分に行うよう明確に指示しなかったことと、同無資格者が、死角を補う見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、長崎県対馬神埼南東方沖合において、水揚げ港へ向けて航行する際、航海当直部員の認定を受けた無資格者に単独での船橋当直を命じる場合、自船の前方に死角が生じていたのであるから、同無資格者に対し、ときどき操縦室内を左右に移動するなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うよう明確に指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同無資格者が、これまでも、昼夜を問わず、無難に船橋当直を遂行していたことから、特に指示しなくても大丈夫と思い、その旨の明確な指示を行わなかった職務上の過失により、同無資格者が、船首死角を補う見張りを十分に行わず、大和丸を避けないまま進行して衝突を招き、大祐丸の右舷側船首外板に擦過傷を生じさせ、大和丸の左舷船首部を損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、長崎県対馬神埼南東方沖合において、漂泊して釣りを行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、釣りに熱中して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する大祐丸に気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後、安全運航に努めていることに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。