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平成14年門審第35号
件名

貨物船しゃとるえーす貨物船雄徳丸衝突事件
二審請求者〔理事官今泉豊光〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月2日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上野延之、長浜義昭、河本和夫)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:しゃとるえーす船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:雄徳丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
し 号・・・右舷船尾外板に擦過傷
雄徳丸・・・左舷船首ブルワークに凹損

原因
雄徳丸・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
し 号・・・動静監視不十分、警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、関門航路において、しゃとるえーすを追い越す雄徳丸が、動静監視不十分で、追越しを中止しなかったことによって発生したが、しゃとるえーすが、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月8日04時35分
 関門航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船しゃとるえーす 貨物船雄徳丸
総トン数 8,280トン 5,929トン
全長 161.52メートル 134.66メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 11,915キロワット 9,988キロワット

3 事実の経過
 しゃとるえーす(以下「し号」という。)は、専ら名古屋、宮崎県宮崎及び博多各港間の車両等の輸送に従事する、全通二層甲板の船首船橋型ロールオン・ロールオフ貨物船で、A受審人ほか10人が乗り組み、トレーラー109台及び乗用車62台を載せ、船首尾6.15メートルの等喫水をもって、平成13年3月7日18時20分宮崎港を発し、博多港に向かった。
 A受審人は、発航時から法定灯火を表示し、船橋当直(以下「当直」という。)を航海士及び甲板手による単独4時間3直制とし、入出港時、狭水道通航時、視界制限状態時、船舶の輻輳(ふくそう)時及び船舶に危険のおそれのあるときには、自ら指揮を執ることとしていた。
 翌8日03時17分A受審人は、部埼灯台南東方約6.2海里の関門海峡海上交通センター位置通報HSラインを通過したころ昇橋し、自ら操船指揮を執り、当直航海士(以下「航海士」という。)を補佐とし、甲板手を操舵に当てて西行した。
 そのころ、A受審人は、船尾方約1海里のところに同航する雄徳丸を初めて認めたものの、関門海峡を通過するまで後続するものと思い、レーダーを活用するなどして雄徳丸に対する動静監視を十分に行わないまま航行した。
 04時20分A受審人は、関門航路第15号灯浮標(以下関門航路を冠する灯浮標名については、冠称を省略する。)を右舷正横200メートルに見る、大山ノ鼻灯台から199度(真方位、以下同じ。)410メートルの地点で、針路を関門航路に沿う321度に定め、機関を港内全速力前進に掛け、折からの強い南東流に抗して10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 定針したとき、A受審人は、右舷船首方1.7海里のところに自船より速力が遅い小型タンカーを認め、その後同船の動静を監視しながら続航し、04時23分大山ノ鼻灯台から293度800メートルの地点に達したとき、雄徳丸が船尾方850メートルのところに自船を追い越す態勢で接近したものの、このことを認めないまま進行した。
 04時32分A受審人は、台場鼻灯台から170度1,400メートルの地点に差し掛かったとき、雄徳丸が更に船尾方300メートルのところに接近したが、依然動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かないで、警告信号を行わず、小型タンカーが関門航路を北上するのか、関門第2航路に向かうかの動向を確かめるために機関を半速力前進に掛けたのち微速力前進とし、減速して続航した。
 04時35分少し前A受審人は、船尾至近に迫った雄徳丸を認め、機関を半速力前進に掛けて増速したが及ばず、04時35分台場鼻灯台から202度780メートルの地点において、し号は、原針路のまま、7.7ノットの速力となったとき、その右舷船尾に雄徳丸の左舷船首が平行に衝突した。
 当時、天候は曇で、風力5の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、衝突地点付近には2.0ノットの南東流があった。
 また、雄徳丸は、専ら京浜、大分、博多及び岡山県宇野各港間の車両等の輸送に従事する、全通二層甲板の船首船橋型ロールオン・ロールオフ貨物船で、B受審人ほか11人が乗り組み、トレーラー44台及び乗用車262台等を載せ、船首5.20メートル船尾6.00メートルの喫水をもって、同月8日00時10分大分港を発し、博多港に向かった。
 B受審人は、発航時から法定灯火を表示し、二等航海士が0時から4時までを、一等航海士が4時から8時までを及び自らと甲板長が8時から12時までをそれぞれ立直する4時間3直制として各直に甲板員各1人を配し、入出港時、狭水道通航時、視界制限状態時、船舶の輻輳時及び船舶に危険のおそれのあるときには、自ら指揮を執ることとしていた。
 03時20分B受審人は、下関南東水道第3号灯浮標に並航したころ昇橋し、船首方約1海里のところにし号を認め、同船のHSライン通過時での関門海峡海上交通センターとの交信により、博多港向けである旨の報告を航海士から受け、後続することとし、同時45分関門橋下を航過したころ、し号の前方に小型タンカーが同航していることを認めて関門航路に沿って西行した。
 04時23分B受審人は、大山ノ鼻灯台から203度400メートルの地点で、針路を321度に定め、機関を港内全速力前進に掛け、折からの強い南東流に抗して12.3ノットの速力で進行した。
 定針したとき、B受審人は、し号の船尾方850メートルのところまで接近し、その後追い越す態勢で接近したが、小型タンカーに気を奪われ、レーダーを活用するなどして動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、追越し信号を行わないまま続航した。
 04時32分B受審人は、関門航路と関門第2航路の分岐点付近で、関門航路の屈曲部付近に当たる、台場鼻灯台から166度1,650メートルの地点に達し、し号の船尾方300メートルまで接近したとき、同船が小型タンカーの動向を確かめるため減速し、その後急速に自船へ接近することになり、また、し号がどちらの航路に向かうか分からず、安全にかわりゆく余地を有しなくなるおそれがあったが、依然動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かないで、機関を使用して減速するなど追越しを中止しないまま進行中、同時35分少し前左舷船首至近に迫ったし号を認め、汽笛を連続吹鳴し、全速力後進、右舵一杯としたが及ばす、雄徳丸は、原針路のまま、11.1ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、し号は右舷船尾外板に擦過傷、雄徳丸は左舷船首ブルワークに凹損などをそれぞれ生じ、のち雄徳丸は修理された。

(主張に対する判断)
 本件は、安全にかわり行く余地を有する場合は、他の船舶を追い越すことができる関門航路において、し号に後方から接近した雄徳丸が衝突したものであるが、雄徳丸側がし号を追い越す意思がなかったから追越し関係でないこと及び雄徳丸側が船間距離を十分にとらず、時間的な余裕がある状況であったから同船側に一方的な原因がある旨の主張があるので、以下この点について検討する。
 B受審人に対する質問調書中、「HSライン通過の報告から博多港に向かうことが分かっていたし号を部埼灯台沖で視認し、同船に後続して第17号灯浮標に並航したとき、し号との船間距離が1,100メートル及び第9号灯浮標に並航したとき、船間距離が550メートルとなり、衝突直前し号の減速を認め、全速力後進、右舵一杯としたが衝突した。」旨の供述記載及びし号のベルブック記録抜粋写中、「衝突3分前に機関を半速力前進、同2分前に微速力前進を掛け、衝突直前半速力前進とした。」旨の記載により、衝突3分前から衝突までのし号の平均速力が9.0ノットとなり、雄徳丸との速力差が約3.3ノットで、衝突3分前の船間距離が約300メートルとなることから、し号の減速前に雄徳丸がし号に後方から接近して追い越す態勢であったと認められる。
 また、A受審人に対する質問調書中、「関門航路と関門第2航路の分岐点付近で、前方の小型タンカーの動向を確かめるために減速した。」旨の供述記載により、し号の減速は、小型タンカーと危険な態勢とならないようにとられた不可避的な措置であったと認められるが、減速する際には後方から接近する船に対しては警告信号を行うべきである。
 よって、本件は、追越し関係でないこと及び雄徳丸側の一方的な原因であることについての主張をとることはできない。

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門航路において、し号を追い越す雄徳丸が、動静監視不十分で、追越しを中止しなかったことによって発生したが、し号が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、関門航路において、し号に後方から接近する場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、レーダーを活用するなどして動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型タンカーに気を奪われ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、し号に衝突のおそれのある状態で接近していることに気付かないで、関門航路と関門第2航路の分岐点付近及び関門航路の屈曲部付近に差し掛かったものの、機関を使用するなど追越しを中止しないまま接近して同船との衝突を招き、し号の右舷船尾部外板に擦過傷、雄徳丸の左舷船首ブルワークに凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、関門航路において、後方に同航する雄徳丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、レーダーを活用するなどして動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、関門海峡を通過するまで後続するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、雄徳丸が自船を追い越す態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わないまま減速して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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