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平成14年広審第70号
件名

押船第三扶桑丸被押起重機船第五扶桑丸漁船金比羅丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月31日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、高橋昭雄、西林 眞)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第三扶桑丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:金比羅丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
第五扶桑丸・・・右舷船首に擦過傷
金比羅丸・・・左舷外板を損傷、転覆し、のち廃船
船長が頚椎捻挫

原因
第三扶桑丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
金比羅丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三扶桑丸被押起重機船第五扶桑丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している金比羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月23日11時00分
 愛媛県新居浜港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 押船第三扶桑丸 起重機船第五扶桑丸
総トン数 19トン  
全長 13.51メートル 43.00メートル
  16.00メートル
深さ   2.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 漁船金比羅丸  
総トン数 4.94トン  
登録長 10.52メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 第三扶桑丸(以下「扶桑丸」という。)は、港湾工事作業に従事する鋼製押船で、A受審人ほか2人が乗り組み、その船首部を、空倉のまま、喫水が船首尾とも1.0メートルとなり、船首部にジブクレーンを装備した起重機船第五扶桑丸(以下「第五扶桑丸」という。)の船尾凹部に嵌合し、全長約45メートルの押船列(以下「扶桑丸押船列」という。)をなし、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成13年10月22日15時50分福岡県苅田港を発し、愛媛県三島川之江港に向かった。
 翌23日08時40分ごろA受審人は、来島海峡東口付近で昇橋して船長から船橋当直を引き継ぎ、10時14分少し前船上岩灯標から000度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点で、針路を三島川之江港西方沖合の鍋磯東灯浮標に向く090度に定め、機関を回転数毎分1,900の全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)でいすに腰掛けて手動操舵により進行した。
 10時58分A受審人は、新居浜港垣生埼灯台(以下「垣生埼灯台」という。)から031度1.8海里の地点に達したとき、右舷船首10度510メートルのところに金比羅丸を視認でき、双眼鏡を使用すれば所定の形象物を掲げていなかったものの、船尾からえい網用のワイヤロープを延出して極低速力で北上しているのを認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、前方を一瞥しただけで前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、金比羅丸の進路を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、11時00分わずか前第五扶桑丸の右舷船首至近に金比羅丸の操舵室上部構造物を視認したが、どうすることもできず、11時00分垣生埼灯台から038度1.9海里の地点において、扶桑丸押船列は、原針路原速力のまま、第五扶桑丸の右舷船首が金比羅丸の左舷中央部に前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、金比羅丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、操舵室後方の船尾甲板にネットローラーが設置され、B受審人が1人で乗り組み、えび漕ぎ漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時30分愛媛県新居浜港を発し、同港北方沖合の漁場に向かった。
 ところで、えび漕ぎ漁は、金比羅丸の船尾から延出された長さ250メートルのワイヤロープ1本の先端に桁を装備し、それに約17メートルの袋網を取り付けて操業するもので、1時間ほどえい網したあと10ないし15分かけて揚網し、再びえい網を繰り返して操業に従事し、えい網中に漁獲物の選別作業を行っていた。
 B受審人は、漁場に到着後、新居浜港北方沖合から愛媛県大島北方沖合までを東方にえい網してこれを3回繰り返し、11時42分垣生埼灯台から040度1.9海里の地点で、停留して揚網作業を行ったのち、同時57分トロールにより漁ろうに従事していることを示す鼓型の形象物を掲示せず、1メートル四方の赤旗を掲げたのみで4回目の操業を開始し、同地点で針路を340度に定め、機関を回転数毎分2,500にかけ、えい網速力を1.5ノットとして自動操舵で進行した。
 10時58分B受審人は、垣生埼灯台から039.5度1.9海里の地点に達したとき、左舷船首60度510メートルのところに、前路を東行する扶桑丸押船列を視認でき、その後同押船列と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、操舵室後部甲板のネットローラーの左舷側で右舷方を向いて座り漁獲物の選別作業を行い、同作業に気を取られ、適宜立ち上がるなどして見張りを十分に行わなかったので、これに気付かないまま、避航を促すための有効な音響信号を行わず、更に間近に接近しても機関を停止して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 11時00分わずか前B受審人は、選別作業を止めて前方を見たところ、左舷船首至近に扶桑丸押船列を初認したが、どうすることもできず、金比羅丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、扶桑丸押船列は第五扶桑丸の右舷船首に擦過傷を生じ、金比羅丸は左舷外板を損傷して転覆し、のち引き揚げられたが廃船となり、またB受審人が海中に飛び込み同押船列により救助され、2箇月の入院加療を要する頸椎捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は、愛媛県新居浜港北方沖合において、扶桑丸押船列が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している金比羅丸を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、愛媛県新居浜港北方沖合において、三島川之江港に向けて東行する場合、前路でトロールにより漁ろうに従事している金比羅丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一瞥しただけで前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、金比羅丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、第五扶桑丸の右舷船首に擦過傷を生じさせ、金比羅丸の左舷外板を損傷し、転覆したのち引き揚げたが廃船とさせ、またB受審人に2箇月の入院加療を要する頸椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、愛媛県新居浜港北方沖合において、トロールにより漁ろうに従事して北上中、左舷船尾甲板上で右舷方を向いて座り漁獲物の選別作業を行う場合、東行する扶桑丸押船列を見落とすことのないよう、適宜立ち上がるなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁獲物の選別作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する扶桑丸押船列に気付かないまま、避航を促すための有効な音響信号を行わず、機関を停止して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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