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平成14年広審第71号
件名

漁船第二十三海幸丸漁船第二共福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、勝又三郎、佐野映一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第二十三海幸丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第二共福丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)

損害
海幸丸・・・船首部外板に亀裂及び破口等
共福丸・・・左舷船首部ブルワークに破口等

原因
共福丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航措置)不遵守(主因)
海幸丸・・・居眠り運航防止措置不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二共福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の第二十三海幸丸を避けなかったことによって発生したが、第二十三海幸丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月8日02時00分
 島根県出雲長尾ケ鼻北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十三海幸丸 漁船第二共福丸
総トン数 234トン 85トン
全長 51.78メートル  
登録長   28.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 860キロワット 661キロワット

3 事実の経過
 第二十三海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、まき網漁業船団に所属する船尾船橋型の鋼製運搬船で、A受審人ほか11人が乗り組み、操業の目的で、船首2.9メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成13年5月7日12時00分船団を組んで鳥取県境港を発し、その後網船からの指示で船団と別れ、ソナーで魚群探索を行いながら、島根県出雲長尾ケ鼻北方沖合の漁場へ向かった。
 ところで、海幸丸が所属するまき網船団は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船2隻からなり、出漁期間は約25日間で、境港に4ないし5日間停泊して漁獲物を荷揚げし、乗組員の休暇及び航海に必要な物品の補給などを行うもので、A受審人は、同船が5月3日朝入港して荷揚げのあと出港前日の6日23時30分帰船するまで、休暇を取得して自宅で十分に休養し、7日01時から08時まで睡眠をとり、09時30分から11時まで乗組員全員で船を移動させて氷の積み込み作業に従事した。
 海幸丸船長は、船橋当直を自らは見習い甲板員と2人による当直とし、A受審人、甲板長及び甲板員2人はそれぞれ単独当直とする3時間交替の5直体制と決めて各人に周知するとともに、通信長を船橋で通信連絡及びソナーによる魚群探索にあたらせ、出航操船に引き続き船橋当直に就き、その後甲板員に船橋当直を引き継いだ。また、船長は、平素、船橋当直者に対して居眠り運航防止について注意していた。
 A受審人は、出航直後、船長から翌8日00時から船橋当直に就くよう指示されたものの、夜は遅く寝て朝はゆっくり起きるという休暇中の生活習慣から、眠気を感じなかったので、当直交替まで士官室でテレビを見たり読書したりして過ごした。
 23時50分A受審人は、出雲長尾ケ鼻灯台(以下「長尾ケ鼻灯台」という。)西北西方19.0海里の地点で、航行中の動力船の灯火の表示を確認し、前直の甲板長と交替して単独の船橋当直に就き、船団が操業する出雲長尾ケ鼻北方沖合に向かった。
 8日01時00分A受審人は、長尾ケ鼻灯台北北西方約7.5海里の地点に達したとき、船橋で通信連絡とソナーによる魚群探索にあたっていた通信長が、網船から現在地点で漂泊するよう無線で指示を受けたので、航行中の動力船の灯火を表示したまま機関を中立にして漂泊を開始し、その後船橋後部の通信機器が設置されており仮眠をとることもできるようにジュータンを敷いた高さ約75センチメートルの台に座り、GPSプロッタの画面上に表示させたレーダー映像を見て周囲の見張りを行った。
 01時22分A受審人は、右舷船首方6.0海里に西行する第二共福丸(以下「共福丸」という。)の映像を探知し、その航跡の映像を一見しただけで、同船が自船の右舷側を航過するものと思い、同映像を監視した。
 01時35分A受審人は、共福丸のレーダー映像が右舷船首方4.0海里になったとき、当直に就くまで眠れなかったことから眠気を催すようになったが、台から立ち上がって船橋内を動き回るなどして眠気を払うこともせず、なんらの居眠り運航の防止措置もとらなかったので、やがて居眠りに陥った。
 01時47分A受審人は、長尾ケ鼻灯台から328度(真方位、以下同じ。)7.6海里の地点で、船首が070度を向いて漂泊しているとき、右舷船首15度2.0海里に共福丸の両舷灯を視認することができるようになり、その後同船が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが、台に座って居眠りに陥っていたのでこのことに気付かず、同船が自船を避ける様子がないまま間近に接近しても、警告信号を行わず、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらないで、漂泊を続けた。
 02時00分わずか前A受審人は、通信連絡のため船橋で待機していた通信長の「後進をかけろ。」との大声で目覚め、右舷船首至近に接近した共福丸に気付き、機関を全速力後進にかけたが及ばず、02時00分前示漂泊地点において、海幸丸は、070度に向首したその船首に、共福丸の左舷船首部が、前方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は小雨で風はほとんどなく、視程は2.5海里だった。
 また、共福丸は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、平成13年5月7日22時30分航行中の動力船の灯火を表示して境港を発し、山口県見島沖の漁場に向かった。
 ところで、共福丸が行う沖合底引き網漁の出漁期間は4ないし5日間で、境港に早朝入港して夜出港するものの、乗組員は、2航海毎に入港日の早朝から翌日の夜までの停泊中に自宅で休養をとり、連続して出漁するときでも昼間は自宅で休息をとることができた。
 共福丸船長は、船橋当直をB受審人及び甲板員4人により2時間交替の単独当直とする5直体制と決め、出航操船に引き続き地蔵埼を替わるまで船橋当直に就き、その後甲板員に船橋当直を引き継いだ。
 一方、B受審人は、当日の昼間自宅で休息をとり、出港直前に帰船して、出港後は操業に備えて漁網の準備に従事し、23時00分船橋当直に備えて仮眠をとった。
 翌8日00時30分B受審人は、長尾ケ鼻灯台から053度12.8海里の地点に達したとき、前直の甲板員と交替して単独の船橋当直に就き、針路を265度に定め、機関を回転数毎分350の全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 ところで、共福丸船長は、B受審人が、船舶所有者の親戚で、40年以上にわたり一貫して沖合底引き網漁船に乗り組み、共福丸に甲板員として乗船するまで約9年にわたって他の沖合底引き網漁船で船長の職務を執った経歴を有していたので、居眠り運航の防止措置については同人に任せていた。
 00時40分B受審人は、クラッチハンドルの後方に置かれた椅子に座って目視により見張りを行いながら続航し、01時30分長尾ケ鼻灯台から006度6.9海里の地点に達したとき、眠気を催したものの、椅子から立ち上がって軽い運動をするなどして眠気を払おうともせず、なんらの居眠り運航の防止措置もとらなかったので、やがて居眠りに陥った。
 01時47分共福丸は、長尾ケ鼻灯台から343度6.9海里の地点に達したとき、正船首方2.0海里に海幸丸が漂泊中で、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、B受審人が居眠りに陥っていたので、同船を避けることなく進行し、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海幸丸は、船首部外板に亀裂及び破口並びにバルバスバウに凹損を生じ、また共福丸は、左舷船首部ブルワークに破口及び船首部甲板に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、島根県出雲長尾ケ鼻北方沖合において、共福丸が、漁場に向け西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の海幸丸を避けなかったことによって発生したが、海幸丸が、漂泊中、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、単独で船橋当直に就いて出雲長尾ケ鼻北方沖合を漁場に向け西行中、椅子に座って当直にあたっている内に眠気を催した場合、居眠りに陥ることのないよう、椅子から立ち上がって軽い運動をするなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、椅子に座ったままの姿勢で当直を続け、なんらの居眠り運航の防止措置もとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路で漂泊中の海幸丸に向首したまま進行して、同船との衝突を招き、海幸丸の船首部外板に亀裂及び破口並びにバルバスバウに凹損を、また共福丸の左舷船首部ブルワークに破口及び船首部甲板に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、出雲長尾ケ鼻北方沖合において漂泊中、台に座って見張り中に眠気を催した場合、居眠りに陥ることのないよう、台から立ち上がって船橋内を動き回るなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、台に座ったままの姿勢で見張りを続け、なんらの居眠り運航の防止措置もとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、共福丸が、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもないまま漂泊を続けて、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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