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平成14年広審第78号
件名

交通船ニューいせや交通船る・ぽーる衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月24日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、高橋昭雄、佐野映一)

理事官
雲林院信行

受審人
A 職名:ニューいせや船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:る・ぽーる船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人 C 職名:る・ぽーる旅客

損害
い 号・・・左舷側舷縁に亀裂を伴う擦過傷
る 号・・・船首部外板に亀裂
乗客1人が左耳介後部挫創

原因
る 号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
い 号・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、両船が背の高い防波堤端を介して近距離に出会った際、る・ぽーるが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ニューいせやが、衝突を避けるための措置が十分でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月19日21時32分
 香川県粟島港

2 船舶の要目
船種船名 交通船ニューいせや 交通船る・ぽーる
登録長 7.49メートル 6.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 88キロワット 102キロワット

3 事実の経過
 ニューいせや(以下「い号」という。)は、旅客定員9人のFRP製交通船で、A受審人が自営する民宿の客の送迎及び時折海上タクシーとして旅客の輸送に従事していたところ、同受審人が1人で乗り組み、香川県詫間港須田まで旅客3人の輸送を終えたのち帰途の目的で、平成13年1月19日21時23分同須田を発し、同県粟島港に向かった。
 ところで、粟島港は、港口を南方に開いた地方港湾で、同港西部には、陸岸から東方に延びる長さ約200メートルの、背が高く見通しが妨げられる防波堤(以下「西防波堤」という。)があって、同防波堤端の東方水域には養殖筏が設置されていた。そして、A受審人は、北上して西防波堤に近付いたときにはいつも減速して接近するようにしており、また、西防波堤の内側からそれに沿って東方に船首を向け同防波堤端を航過してきた船舶が、そのまま養殖筏の方に向かって東行をし続けることはなく、そのうち西防波堤端を付け回すように右転し南下する進路をとることを、これまで何度となく見てきた。
 発航時、A受審人は、所定の灯火を表示したほか自船の存在に注意してもらうつもりで黄色の回転灯1灯を掲げ、操舵室に立って操舵と見張りにあたり、間もなく詫間港須田一文字防波堤東灯台を右舷側近くに航過したところで、機関を全速力前進の回転数より少し落とし18.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で北上した。
 21時30分A受審人は、三玉岩灯標から299度(真方位、以下同じ。)3,750メートルの地点で、右舷前方の養殖筏に設置された灯火を視認したとき、針路を西防波堤端よりかなり東方に離す336度に定め、いつものように機関回転数を下げ、7.0ノットの速力に減じて手動操舵により進行した。
 21時31分少し過ぎA受審人は、三玉岩灯標から302度3,970メートルの地点に達したとき、左舷船首34度250メートルのところに、西防波堤端から現れたる・ぽーる(以下「る号」という。)の白、緑2灯を初めて視認し、同船と針路が交差しそのままの針路、速力で進行すると衝突のおそれがあることを知り、東方水域には養殖筏があるのでる号が予定どおり右転して無難に左舷を対して航過するのを待つつもりで、更に5.0ノットに減速すると同時に、右舵をとり針路を346度に転じて続航した。
 ところが、A受審人は、その後もる号の方位が変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況であると認めたが、いずれにしろ間もなく同船が右転して左舷を対し航過する態勢になるものと思い、速やかに機関を停止するなどの衝突を避けるための措置を十分にとらなかった。
 21時32分少し前A受審人は、予期に反して右転の気配を見せないまま、依然として同じ態勢で接近するる号と衝突の危険を感じ、右舵一杯をとったが及ばず、21時32分三玉岩灯標から303度4,050メートルの地点において、い号は、回頭を始めた船首が350度を向いたとき、原速力のまま、その左舷側中央部に、る号の船首部が前方から74度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、る号は、旅客定員9人のFRP製交通船で、船舶所有者が粟島で営業する宿泊施設の客の送迎に使用されていたところ、B受審人が1人で乗り組み、C指定海難関係人を含む旅客10人を乗せ、同日21時30分粟島港を発し、詫間港須田に向かった。
 ところで、B受審人は、前示宿泊施設の支配人の職にあって海技免状を受有していることから、定期便のない時間帯などの客の送迎にあたって自らる号を運航していたもので、当日も同施設を利用したC指定海難関係人を幹事とする懇親会の団体客を送るため、同船に船長として乗り組んだものであった。
 一方、C指定海難関係人は、懇親会後に多くの者が帰宅することとなったので、海上タクシーのほかる号にも送ってもらうよう手配したのち、団体客を送る同船の2回目の運航に乗船したもので、発航する際、B受審人とは顔見知りであり、同受審人がすでに1回の運航を行って疲れているはずと感じ少しでも手伝うつもりで、勝手に操縦席に座って操縦ハンドルを握った。
 ところが、B受審人は、係留索を放して操縦席に赴いたところ、同席に座っているC指定海難関係人を認め、帰宅者が多かったので気をきかせて操縦を手伝うものと考え、その直ぐ後ろに立って同指定海難関係人に操縦ハンドルの操作を行わせながら離岸し、機関を微速力前進にかけて4.0ノットの速力とし、周囲を確認し防波堤との航過距離などをC指定海難関係人に適宜指示しながら東行した。
 21時30分半B受審人は、三玉岩灯標から301度4,380メートルの地点で、針路をほぼ西防波堤に沿う096度に定め、機関回転数を上げ、8.0ノットの速力に増速して進行した。
 定針後、B受審人は、引き続き西防波堤との航過距離に注意を払いながら、同防波堤を航過したらそのうち右転して詫間港に向かうつもりで東行を続け、21時31分少し過ぎ三玉岩灯標から302度4,220メートルの地点に達したとき、西防波堤端を介して右舷船首26度250メートルのところに、北上中のい号を視認することができ、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、ようやく航過して後方に替わったばかりの西防波堤の方を見ていて、右舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、速やかに右転するか機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。
 21時32分少し前B受審人は、乗客の叫び声を聞いて前方に目を向けたところ、船首至近にい号の回転灯を初めて視認し、急ぎC指定海難関係人を腕で押しのけ機関操縦レバーを後進一杯に操作したが効なく、る号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、い号は、左舷側舷縁に亀裂を伴う擦過傷を、る号は、船首部外板に亀裂をそれぞれ生じ、のちいずれも売却され、また、る号の乗客Nが左耳介後部挫創を負った。

(航法の適用及び原因の考察等)
 本件は、夜間、香川県粟島港内において、北上中のい号と東行中のる号とが衝突したもので、以下航法等について検討する。
(1)航法の適用
 衝突地点は粟島港内であるが、同港は詫間町が管理する地方港湾であり、港則法の適用がないので、海上衝突予防法で律することとなる。
 両船の運航模様から、片舷灯及びマスト灯をそれぞれが見せながら接近したもので、互いに進路を横切る態勢にあった。しかしながら、衝突のおそれがある態勢となったのは、見通しが妨げられる背の高い西防波堤端を介して互いに視認できる状況となった衝突の1分弱前であり、両船間の距離が250メートルのときであったことから、その時点ではすでに海上衝突予防法第15条の横切り船の航法規定を適用する時間的、距離的な余裕はなく、船員の常務で律するのが相当である。
(2)原因の考察等
 い号は、西防波堤に近付けば、いつも減速するようにしていたことから、今回も衝突の2分前には18ノットから7ノットに落とし、同防波堤端よりかなり東方に離す針路で続航していたところ、西防波堤端から現れたる号を視認し、針路が交差して衝突のおそれがある状況であったことから、直ちに5ノットに減速すると同時に、10度右転の措置をとったのに対し、る号は、4ノットで発航し一文字防波堤を航過したとき、未だ西防波堤により右方の見通しが妨げられていたにもかかわらず、8ノットに増速したうえ、同防波堤端を替わした後も右舷前方の見張りが不十分で、い号に気付かないまま衝突を避けるための措置を全くとらなかったことは、本件発生の主な原因をなしたものである。
 また、い号においても、これまで粟島港を発航した後の船舶の運航模様から、養殖筏のある東方に向かって港内を進行し続けることがないので、る号の右転に期待し減速と小右転の措置をとって進行したのであるが、それでも依然として衝突のおそれがある態勢で接近したのであるから、速やかに機関を停止するなどの措置がとられなかったことは、本件発生の原因となる。
 ところで、B受審人は、C指定海難関係人の直ぐ後ろに立って防波堤の航過距離などを指示したりして操舵を任せっきりにしたものではなく、一方、C指定海難関係人は、B受審人が側にいたので安心してその指示に従っていたもので自分勝手に操舵していたとは認められず、あくまでも同受審人の指揮のもとに同指定海難関係人が操縦ハンドルの操作を行っていたものであると認められる。よって、C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とするまでもない。
 なお、B受審人は、旅客定員をオーバーしていたうえ、夜間の港内操船にあたり、安易に無資格者の旅客であるものに操舵させながらる号を運航したことは、旅客輸送に携わる交通船の船長として安全運航に対する責務が希薄であり、厳に慎まなければならない。

(原因)
 本件衝突は、夜間、香川県粟島港内において、両船が背の高い西防波堤端を介して近距離に衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況の際、る号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、い号が、衝突を避けるための措置が十分でなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は、夜間、香川県粟島港内を東行中、見通しが妨げられる背の高い西防波堤を右舷側に過ぎたところで右転して南下する場合、同防波堤端を介して近距離のところに、北上中のい号を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ようやく航過して後方に替わったばかりの西防波堤の方を見ていて、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するい号に気付かず、速やかに右転するか機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、い号の左舷側舷縁に亀裂を伴う擦過傷を、る号の船首部外板に亀裂をそれぞれ生じさせ、自船の旅客1人に左耳介後部挫創を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、粟島港内を北上中、西防波堤端から現れ東方に向首したままのる号と近距離に衝突のおそれがある態勢で接近する状況を認めた場合、速やかに機関を停止するなどの衝突を避けるための措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、東方水域には養殖筏が設置されているので、間もなく同船が右転して左舷を対し航過する態勢になるものと思い、減速及び小右転して進行し、速やかに機関を停止するなどの衝突を避けるための措置を十分にとらなかった職務上の過失により、る号との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるとともに、る号の旅客1人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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