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平成14年横審第62号
件名

漁船拓恵丸油送船ババティック衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年10月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(森田秀彦、黒岩 貢、小須田 敏)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:拓恵丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
拓恵丸・・・船首部を圧壊
バ 号・・・左舷側後部外板に擦過傷

原因
拓恵丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
バ 号・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、拓恵丸が、操舵室を無人とし、前路を左方に横切るババティックの進路を避けなかったことによって発生したが、ババティックが、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月1日15時26分
 伊豆諸島三宅島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船拓恵丸 油送船ババティック
総トン数 17トン 48,612トン
全長 21.92メートル 247.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 蒸気タービン機関
出力   15,300キロワット
漁船法馬力数 190  

3 事実の経過
 拓恵丸は、かつお曳縄釣漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.26メートル船尾1.96メートルの喫水をもって、平成14年3月1日02時00分伊豆諸島式根島の小浜漁港を発し、同諸島御蔵島南西方沖合の漁場に至って操業を行い、カツオ120キログラムを獲たところで操業を終え、11時30分同漁場を発進し、機関を微速力前進にかけて帰途に就いた。
 14時41分A受審人は、伊豆岬灯台から232度(真方位、以下同じ。)8.9海里の地点において、針路を式根島に向く340度に定め、機関を半速力前進に増速し、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵により進行した。
 A受審人は、増速したところ、2航海前に整備して以来、機関に生じていた異音が大きくなったので、機関室内に入ってその原因を見つけることとし、15時06分伊豆岬灯台から259度8.6海里の地点で、周囲を見回して他船を見かけなかったことから、航行船舶の多い海域であったが、しばらくの間は自船が他船に接近することはないものと思い、操舵室を無人とした。
 15時20分半A受審人は、伊豆岬灯台から274度9.3海里の地点に達したとき、右舷船首30度2.1海里のところにババティック(以下「バ号」という。)を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、操舵室を無人としていて、このことに気付かず、速やかに右転するなどバ号の進路を避けることなく続航した。
 15時23分A受審人は、伊豆岬灯台から277度9.5海里の地点に至り、バ号の方位に変化がないまま1.0海里に接近したが、依然として操舵室を無人として進行中、15時26分拓恵丸は、伊豆岬灯台から279度9.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首がバ号の左舷側後部に前方から57度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視界は良好であった。
 また、バ号は、液化天然ガスを輸送する船尾船橋型油送船で、船長K及び二等航海士Cほか37人が乗り組み、空倉のまま、船首7.58メートル船尾8.58メートルの喫水をもって、同日08時30分千葉県千葉港を発し、ブルネイ・ダルサラーム国ルムットに向かった。
 K船長は、浦賀水道を航過して水先人の下船後も操船の指揮をとり、12時25分布良鼻灯台から235度10.0海里の地点で、船橋当直をC二等航海士に委ねて降橋した。
 こうして、C二等航海士は、見習い士官及び甲板手とともに船橋当直に就き、伊豆諸島東方海域を南下し、14時30分新島灯台から086度8.3海里の地点において、針路を209度に定め、機関を全速力前進より少し落とし、15.1ノットの速力で自動操舵によって進行した。
 15時05分半C二等航海士は、伊豆岬灯台から310度9.3海里の地点で、12海里レンジとしたレーダーにより、左舷前方8.0海里のところに拓恵丸の映像を初めて認め、その後同船の船体を視認し、その動静監視を行いながら続航した。
 15時20分半C二等航海士は、伊豆岬灯台から287度9.3海里の地点に達したとき、拓恵丸が左舷船首19度2.1海里となり、その後同船が前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、警告信号を行わず、針路、速力を保持して進行した。
 15時23分C二等航海士は、伊豆岬灯台から283度9.5海里の地点に達したとき、拓恵丸が自船の進路を避けないまま、1.0海里に接近したことを認め、拓恵丸が適切な避航動作をとっていないことが明らかになったが、そのうちに自船を避けるものと思い、自船の操縦性能を考慮して針路、速力の保持義務から離れ、直ちに右転するなど衝突を避けるための動作をとることなく続航した。
 15時25分C二等航海士は、左舷前方至近に迫った拓恵丸を視認し、自動操舵のまま針路設定のつまみを回し、右舵10度をとって右転中、同船が自船の船体の死角に入り、船首が217度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 K船長は、C二等航海士の報告を受けて昇橋し、拓恵丸を右舷船尾方に認めたが、同船が衝突前とほぼ同様の針路、速力で離れ去るのを見て衝突したかどうか分からず、そのまま航海を続けた。
 19時ごろK船長は、C二等航海士から衝突したかもしれない旨の報告を改めて受け、22時23分海上保安部に通報し、翌2日早朝パイロットラダーを用意して船体検査を行い、左舷側後部外板に擦過傷を発見して衝突したことを確認した。
 衝突の結果、拓恵丸は船首部を圧壊したが、のち修理され、バ号は左舷側後部外板に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、伊豆諸島三宅島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、拓恵丸が、操舵室を無人とし、前路を左方に横切るバ号の進路を避けなかったことによって発生したが、バ号が、警告信号を行わず、拓恵丸において適切な避航動作をとっていないことが明らかになった際、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、伊豆諸島三宅島西方沖合海域を北上する場合、航行船舶の多い海域であったから、操舵室に在室すべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を見回して他船を見かけなかったことから、しばらくの間は他船に接近することはないものと思い、操舵室を無人とした職務上の過失により、バ号の存在に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部を圧壊させ、バ号の左舷後部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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